不動産に関する権利関係は複雑であり、特に相続や賃貸借が絡む場合には慎重な確認が必要です。本記事では、「借地上の建物に住むが、建物所有者の法定相続人ではない居住者」に関する法的立場や、登記・借地権・居住権の観点からの整理を行います。
建物の所有権と登記の重要性
まず、建物の登記名義が故人のままであるということは、法的にはその建物は未相続状態にあることを意味します。相続登記がされていない限り、第三者に対しては依然として故人が所有者であると見なされます。
そのため、現在住んでいる方が建物を実質的に管理・使用していても、登記上の名義が移転していない以上、法的な「所有者」には該当しません。相続権がない場合は、相続人の協力なしには登記変更もできません。
相続人でない者が居住している場合の扱い
民法上、相続人でない者が勝手に遺産(今回の場合は建物)を占有している場合、相続人から明渡しや損害賠償を請求される可能性があります。
ただし、例外的に、元々故人から使用を許可されていた、または建物の維持に実質的に関与していたなどの事情がある場合、「使用貸借」や黙示の使用承諾が認められる可能性もあります。ただしこれはあくまで一時的な保護に過ぎず、権利としての所有権とは全く異なります。
借地権との関係と現居住者の立場
建物の所有者(故人)が土地所有者(父親)と正式な賃貸借契約を締結していた場合、その借地権は原則として相続によって承継されます。つまり、相続人でない現在の居住者は、この借地権も取得していないことになります。
借地借家法上も、借地人の死亡後に相続人がいない、または相続人が借地権の継承を拒否している場合、借地権自体が消滅し、その土地にとどまる法的根拠は消える可能性が高いです。
居住権の主張は可能か?
近年注目される「居住権」ですが、これは2020年の民法改正で創設された配偶者短期居住権や配偶者居住権を指すことが多く、法定相続人でない者には基本的に適用されません。
ただし、建物の元所有者と現居住者との間に明示または黙示の使用許諾契約があったと主張できる場合、一種の使用貸借契約として居住継続の根拠となる余地はありますが、この場合でも土地所有者が承諾していなければ意味がなく、法的にはきわめて不安定な立場にあります。
建物撤去や立退き交渉の可能性
父親が土地所有者であり、借地契約の当事者である以上、現在の居住者が無権原で土地を使用していると判断した場合は、建物の撤去や立ち退きを求める法的措置が可能です。
また、現居住者が自発的に話し合いに応じる場合、新たに土地使用契約を結ぶことも可能であり、状況によっては円満解決を図ることも選択肢となります。
まとめ:現居住者の法的立場は不安定
今回のケースでは、建物の所有者ではなく、借地権も承継しておらず、かつ相続人でもないという3点から、現居住者には明確な法的権利は存在しない可能性が高いです。
ただし、事情によっては限定的な保護が認められることもあるため、実務上は法的根拠を整理したうえで、弁護士などの専門家に相談することが望ましいでしょう。