運送業での事故時に運転手へ全額請求は合法か?労働法と実務から考える責任の範囲

運送会社で働くドライバーにとって、事故による修理費の負担は非常にデリケートな問題です。特に故意ではない事故であっても「修理代は全額自己負担」と言われるケースは実際に存在します。では、それは法律的に認められているのでしょうか?本記事では労働法や実務の観点から、事故責任の考え方について詳しく解説します。

労働契約における損害賠償の原則

日本の労働法においては、故意または重大な過失がない限り、従業員に全額の賠償責任を課すことは原則として認められていません。これは「労働者が使用者の指揮命令のもとで業務を行っている」ことを前提とするためです。

例えば、業務中に発生した軽微な事故や、単なる過失による損害については、会社側にも一定の管理責任やリスクがあると見なされ、全額請求は違法と判断される可能性が高いです。

最高裁の判例とその意味

労働問題で有名な「加藤運輸事件(最判昭和51年7月8日)」では、過失によるトラック事故で生じた損害の全額を運転手に請求した会社の行為が違法とされました。裁判所は、労使関係における「信義則」や「権利濫用の禁止」を根拠に、会社の全額請求を否定しました。

この判例により、運送業界でも故意・重過失がない限り、修理費の全額を運転手に負担させることは違法と見なされやすいのです。

会社が一部負担を求める場合のルール

とはいえ、損害の一部について従業員に一定の負担を求めること自体は、状況によって認められるケースがあります。これには以下のような要素が考慮されます。

  • 事故の態様(単なる不注意か、無謀運転か)
  • 損害額の大きさと会社の負担能力
  • 従業員の経済状況

つまり、一部負担は認められても、全額請求は原則として不当となるのが法的なスタンスです。

給与からの天引きや同意書の効力

事故の修理代を給与から天引きするケースもありますが、これは労働基準法第24条に違反する可能性が高いです。法的には「事前に書面による同意」が必要であり、口頭や形式的な合意だけでは違法になることがあります。

また、「入社時に事故時は全額自己負担とします」といった同意書があっても、信義則に反すると判断されれば無効とされる可能性があるため、注意が必要です。

相談先と対処方法

もし修理費を全額負担するように強く求められている場合は、労働基準監督署や法テラスに相談しましょう。証拠として。

  • 会社とのやりとりの録音やメール
  • 事故の状況を示す写真や記録
  • 修理見積書や請求書

を用意しておくと、相談がスムーズに進みます。

まとめ:事故対応は法と実情に即して冷静に

運送業で事故を起こした際に、修理費全額をドライバーに請求することは、原則として違法です。正当な理由がなければ会社の請求は認められません。

事故が起きた際には冷静に記録を取り、必要であれば専門機関に相談しながら、自分の権利と責任のバランスを見極めて行動することが大切です。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

上部へスクロール