相続や贈与において「全財産を特定の相続人に渡したい」という希望を持つ方は少なくありません。特に金銭管理に不安のある家族に財産を残さず、信頼できる子どもに集中して資産を託したいというニーズは多く存在します。しかし、日本の法律では「遺留分」という制度により、一定の相続人には最低限の権利が保証されています。この記事では、遺留分請求を回避しつつ特定の子に資産を集中させる方法について、法的視点から解説します。
遺留分とは?―法定相続人に保障された最低限の取り分
遺留分とは、民法で定められた相続人が相続できる最低限の財産の割合を指します。遺留分が認められるのは主に「配偶者」「子ども」「直系尊属(親など)」であり、兄弟姉妹にはこの権利はありません。
たとえば、配偶者と2人の子どもが相続人の場合、全体の相続財産に対して法定相続分の1/2が遺留分として保障されます。つまり、遺言で「すべてを次男に相続させる」としても、長男や配偶者が遺留分侵害額請求をすることで、一定の財産を取り戻せる仕組みとなっています。
遺留分請求を回避する方法とは?
残念ながら、完全に遺留分を法的に無効にする手段は原則存在しません。ただし、以下のような対策によって遺留分請求のリスクを減らすことは可能です。
- ① 遺留分放棄の申立て
相続人に家庭裁判所で事前に遺留分を放棄してもらう方法です。相続人の自由意思によるものであり、申立てには相続人本人の同意と合理的な理由が必要です。 - ② 生前贈与を活用
時間をかけて次男に生前贈与を行うことで、相続時の財産を減らす方法です。ただし、一定期間内の贈与は「持ち戻し」の対象となるため、計画的に行うことが重要です。 - ③ 遺言書で理由を明記
長男や配偶者に財産を渡さない理由を遺言書に明記することで、法的効力はないものの、精神的な影響を与え遺留分請求の抑止になることがあります。
実例:遺留分放棄が認められたケース
たとえば、長男が既に独立し十分な資産を保有していたため、「遺産を放棄しても生活に支障がない」として家庭裁判所が遺留分放棄を認めたケースがあります。事前に弁護士の助言を受け、申立て理由を明確に準備したことがポイントでした。
逆に「親の意向だから」という理由だけでは認められないケースもあるため、第三者的な視点での客観的理由づけが必要です。
遺言書の作成は慎重に
特定の相続人に全財産を渡したい場合は、必ず公正証書遺言の作成を推奨します。公正証書遺言であれば法的なミスが起こりにくく、執行もスムーズです。また、遺言執行者を指定することで、相続手続きをより確実に進めることが可能です。
遺言書には、なぜ特定の相続人にのみ遺贈するのか、その理由や背景、感謝の気持ちなども書き添えることで、相続人間の感情的トラブルを避ける効果が期待できます。
まとめ:法と気持ちを両立させた相続設計を
「特定の子にすべての資産を渡したい」という想いは理解されるものの、現行法では遺留分によってすべてを自由にすることはできません。しかし、遺留分放棄の手続きや生前贈与、遺言書の工夫によって、限りなく希望に近い形にすることは可能です。
まずは信頼できる相続専門の弁護士や司法書士に相談し、最適な相続戦略を設計していきましょう。心を込めた相続は、残された家族への最良の贈り物になります。