交通事故によって仕事ができなくなってしまった場合、被害者が本来得られたはずの収入を「逸失利益」として損害賠償の対象とすることができます。特に運転を職業としている方にとって、免許の効力が失われたことは生活に直結する重大な問題です。この記事では、逸失利益の基本的な考え方から計算方法、具体的な補償の目安について解説します。
逸失利益とは何か?基本的な考え方
逸失利益とは、事故によって労働能力が低下し、将来的に得られるはずだった収入が得られなくなった場合に、その減収分を損害として請求できるものです。これは後遺障害が残ったケースや、免許の取り消し・失効により就業不能になった場合にも該当します。
たとえば、運転手として働いていた方が事故で運転できなくなった場合、それまでの収入を基に、労働能力の喪失率と期間をかけあわせて金額を算定します。
逸失利益の基本的な計算式
一般的に使用される計算式は次のとおりです。
逸失利益 = 基礎収入 × 労働能力喪失率 × ライプニッツ係数
ここでの各要素は以下の通りです。
- 基礎収入:事故前の年収(例:税込430万円)
- 労働能力喪失率:後遺障害等級に応じて定められる(例:100%や50%など)
- ライプニッツ係数:将来の年収を現在価値に割り戻す係数(例:57歳の場合、労働可能年齢65歳までの係数は約5.526)
具体例で試算:年収430万円・57歳・喪失率100%の場合
仮に以下の条件で計算すると。
- 年収:430万円
- 労働能力喪失率:100%(完全に働けない)
- 労働可能年齢:65歳までの8年間
- ライプニッツ係数(8年):5.526
逸失利益 = 430万円 × 1.0 × 5.526 ≒ 約2,376万円 となります。
ただし、これには税引き前の年収を使っているため、実際の支払い額では調整(控除)される場合があります。また、過失が100%相手側にある場合でも、示談交渉で争いが生じる可能性があるため、弁護士を通して交渉することが望ましいです。
後遺障害等級がポイントになる理由
逸失利益を請求するには、医師による後遺障害診断書の作成と、それに基づく自賠責保険の等級認定が重要です。後遺障害等級により労働能力喪失率が決まり、それが賠償額に大きく影響します。
たとえば、12級なら14%、7級なら56%、1級なら100%といったように設定されており、この認定を受けなければ逸失利益の請求が難しくなることもあります。
逸失利益の請求に必要な手続きと注意点
逸失利益を請求するには、以下のような手続きや資料が必要です。
- 後遺障害診断書と等級認定
- 事故前の収入証明(源泉徴収票、確定申告書など)
- 就労実態の証明(勤務先の証明書など)
- 将来的な就労不能の証明(医師の見解)
また、逸失利益を請求できる期間は限られているため、事故後は早めに専門家に相談することが重要です。
まとめ:逸失利益は生活再建の大切な補償
事故で働けなくなった場合、逸失利益は被害者の生活を支えるための重要な損害賠償です。年収や年齢、後遺障害の等級などから具体的な金額を算出し、必要な資料を整えることで、適切な補償を受けることができます。
自力での交渉が難しい場合や、相手側保険会社との見解が食い違う場合には、交通事故に詳しい弁護士に相談することで、公正かつ納得のいく結果を得やすくなります。