会社法における自己株式取得の決議構造:株主総会と取締役会の役割の違いとは

企業が自己株式を取得する際、会社法に基づいて株主総会と取締役会の二重決議が必要となるケースがあります。特に公開会社が行う「ミニ公開買付け(ミニTOB)」では、この二重決議の必要性が明確に求められています。この記事では、会社法第156条と第157条のそれぞれの趣旨と役割の違いについて、実務的な視点からわかりやすく解説します。

会社法156条の位置づけ:株主による事前授権

会社法第156条第1項では、取締役会設置会社が自己株式を取得する場合、株主総会の特別決議により、取得できる株式数、取得方法、取得価格の上限等についての基本的な「枠」が設定される必要があります。

これは、自己株式の取得が会社財産の減少を伴い、株主の利害に重大な影響を与える可能性があるため、株主の意思による事前の授権を必須とする制度的なコントロールです。

会社法157条の役割:取締役会による実行判断

一方、会社法第157条第1項は、株主総会で定められた枠内で、実際にいつ、どの程度の株式を取得するかなどの具体的な実行内容を取締役会が決議することを義務づけています。

つまり、取締役会は株主から与えられた権限の範囲内で、そのときの株価水準、市場環境、財務状況などを総合的に判断し、実行段階の適切な運用判断を行う役割を担っているのです。

両条文の違いは「内容」と「タイミング」

このように、第156条が設定するのは「包括的な取得の枠組み(権限)」であり、第157条が担うのは「その権限の中での実行意思決定」です。

例えるならば、156条は「○○の範囲で使っていい」という親の許可であり、157条は「実際に何を買うか」を子供が決めるような構図です。

なぜ重複決議のように見えるのか?

この二重の決議は形式的に見ると「同じ内容を再度決めているように見える」かもしれませんが、実質的には異なる目的を果たしています。

株主総会で決定した事項はあくまでも「取得の上限枠と条件」まで。取締役会では、たとえば株価が変動して条件に合わない場合には取得を見送る判断も可能で、経営判断の自由裁量が残されています。

実務での運用と注意点

自己株式取得を計画する企業では、以下のようなステップで対応するのが一般的です。

  • ① 株主総会で取得枠・期間・金額等を特別決議
  • ② 実行時点で取締役会を開催し、市況等を考慮して取得内容を決議
  • ③ 実際の取得を実行し、後日報告

また、e-Govの会社法原文においても、条文を正確に確認することは重要です。

まとめ:二重決議はチェック機能として合理的

株主総会と取締役会の両方で自己株式取得を決議することは、内容の重複ではなく「権限の授権」と「実行の意思決定」という明確な役割分担に基づくものです。

この制度設計により、会社財産の流出や株主間の不平等を防ぐ仕組みが構築されており、透明性と統治の観点から極めて合理的であると言えます。

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