当て逃げやひき逃げ事件が後を絶たない中、「逃げ得」を防ぐためにもっと厳しい刑罰が必要ではないかと考える人も多いのではないでしょうか。実際、加害者が事故直後に逃げたことで刑罰を逃れるケースもあり、被害者にとっては納得できないことも。本記事では、現行の法律と刑罰の仕組み、厳罰化の是非、そして抑止力としての効果を中心に解説します。
当て逃げ・ひき逃げの法的定義と現行の刑罰
当て逃げは「物損事故でそのまま逃げること」、ひき逃げは「人身事故で救護義務を果たさず逃走すること」を指します。
道路交通法第72条1項により、事故を起こした者は救護義務と報告義務を負っています。これを怠ると「10年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科される可能性があります。
また、自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷等)が適用されると、「7年以下の懲役」などが併科されることもあります。
現行法の限界と「逃げ得」が生じる背景
ひき逃げでは、救護義務違反が重視されるものの、加害者が「事故に気づかなかった」と主張することで刑罰を回避できることがあります。
また、事故直後にアルコールや薬物の影響を隠すため逃げる例もあり、逃走が故意的かどうかを立証する難しさが課題です。
このような状況が、「逃げた方が得になる」という誤った認識を一部に生んでしまっているのです。
厳罰化による抑止力の可能性と課題
「逃げたら即懲役20年」などの厳罰化案は、一見すると抑止効果があるように思えますが、法的・実務的には以下の課題があります。
- 刑の重さは比例して犯罪を抑制するとは限らない(刑罰の抑止理論)
- 過失犯と故意犯の線引きが曖昧になる恐れ
- 違憲・人権侵害となる可能性(刑罰の過度な重罰化)
実際には、「発見率の高さ」「処罰の確実性」の方が犯罪抑止力が強いという研究結果もあります。
実際の裁判例と処罰の実態
ひき逃げ事件で加害者が「飲酒運転を隠す目的で逃走」した場合、過去には懲役7年の実刑判決が下された例があります。
一方、軽微な接触事故で加害者がそのまま立ち去った当て逃げでは、初犯かつ反省の態度がある場合、罰金20万円程度で済んだケースもあります。
このように、実際の刑罰は「事案の悪質性」と「結果の重大性」に応じて個別判断されます。
再発防止と被害者救済に必要な対策
- 監視カメラやドライブレコーダーの普及で発覚率を上げる
- 運転免許の取消・停止など行政処分の強化
- 事故被害者支援制度の充実(治療費・精神的支援など)
- 警察の積極的な検挙体制と公開捜査の徹底
刑罰強化だけでなく、「逃げてもすぐバレる」「逃げるほど損」という社会的雰囲気作りも重要です。
まとめ
当て逃げ・ひき逃げに対して「実刑20年」などの極端な厳罰化を求める声は理解できますが、現行法上の問題や実務の限界も無視できません。
本当に抑止力を高めるには、刑罰の重さよりも「検挙の確実性」と「逃げた方が損になる制度設計」が求められます。法改正と同時に、社会全体での対策強化が必要です。