近年、「熟年再婚」と「相続トラブル(争続)」の組み合わせによる家族間の紛争が増加しています。とくに婚前に得た財産や先妻との子との関係性、そして遺言書の有無が問題の火種となるケースが多く見られます。この記事では、婚前の財産が後妻に相続されるのかどうか、法的視点を交えてわかりやすく解説します。
婚前に得た財産と夫婦の共有財産の違い
日本の民法では、夫婦が婚姻しても自動的に財産が「共有」になるわけではありません。婚姻前にそれぞれが所有していた財産は、原則としてその人の特有財産とされ、婚姻によって共有財産になることはありません(民法762条)。
つまり、夫が婚前に得た不動産や預貯金は、基本的には夫個人の財産です。しかし、相続の際には「亡くなった人(被相続人)の財産すべて」が対象となるため、たとえ婚前に得た財産でも、遺産として扱われます。
後妻にも相続権はあるのか?
答えは「ある」です。法律婚をしている配偶者には、常に相続権が認められており、婚姻の時期(先妻の後かどうか)は関係ありません。
たとえば、夫が死亡した場合、遺言がない限りは法定相続人として「後妻」と「前妻との子」が相続人になります。このとき、後妻は相続財産全体の1/2(子どもが1人なら1/2)を請求できるため、たとえ婚前に得た財産であっても後妻の相続対象になります。
遺言書がない場合に起きやすい「争続」
遺言書がない場合、法律に基づく「法定相続」が適用されます。このとき、関係が希薄な後妻と前妻の子の間で感情的な対立が生じやすく、「誰が何をどれだけ相続するか」がスムーズに決まらないケースが少なくありません。
とくに、夫名義の不動産を後妻が住居として使用していた場合、前妻の子どもと分け合うことになり、後妻が住む家を失う可能性すらあります。こうしたリスクを防ぐには、生前の対策が不可欠です。
生前にできる相続トラブル回避のポイント
- 公正証書遺言を作成する:争いの防止に最も効果的。
- 遺留分を考慮する:遺留分は法定相続人に保障された最低限の取り分。
- 信託制度を活用:受益者や管理者を明確にして資産管理。
- 家族信託・任意後見:高齢化社会における意思表示と資産保全手段。
これらを用いることで、後妻と先妻の子ども間の争いを未然に防ぐことが可能になります。
実際のトラブル事例
あるケースでは、亡夫の遺言書がなく、後妻と前妻の子が遺産分割協議で対立。不動産の分け方が決まらず家庭裁判所に持ち込まれ、調停が長期化した末に家が売却され、後妻は退去せざるを得なくなりました。
逆に、公正証書遺言で「自宅は後妻に残し、預金は子に渡す」と明記されていたケースでは、すべてが円滑に進み、家族間の争いは避けられました。
まとめ:婚前の財産も相続対象、備えが重要
婚前に得た財産であっても、被相続人の死亡時に存在する限り、それは法定相続の対象となります。そして、再婚相手(後妻)にも相続権はあるため、相続を巡るトラブルを防ぐには遺言や信託などの生前対策が不可欠です。
「争族」を避け、家族の絆を守るために、早めの準備を心がけましょう。