恋人の不倫や裏切りに直面したとき、相手に対する怒りや悔しさから、その事実を社会的に晒したくなることがあります。しかし、感情のままに行動してしまうと、思わぬ法的リスクを負うことになりかねません。特に「会社への不倫報告」が名誉毀損にあたる可能性については、慎重に理解する必要があります。
名誉毀損とは何か?刑法と民法の観点から
名誉毀損罪(刑法230条)とは、公然と事実を摘示し、人の社会的評価を低下させる行為を指します。たとえそれが真実であっても、相手の社会的地位を著しく下げる内容であれば、刑事責任が問われる可能性があります。
一方で、民法上の名誉毀損では、被害者が精神的損害を受けたとして慰謝料請求をすることも可能です。つまり、刑事と民事の両面で責任を問われるリスクがあるということです。
会社に報告した場合の名誉毀損の成立要件
会社への報告が名誉毀損に該当するかは、3つの要素を満たすかどうかで判断されます。
- 事実の摘示(「〇〇さんが不倫している」などの具体的な内容)
- 公然性(社内の複数人に知られる状況、上司や総務に報告した場合も含む)
- 社会的評価の低下(仕事上の信頼を失う、解雇や降格の恐れがある)
仮に会社の上司1人のみに報告したとしても、業務上の関係性を考慮されると「公然性あり」と判断されるケースもあるため、非常に注意が必要です。
真実であっても名誉毀損になる可能性がある理由
「事実なんだから問題ない」と考えるのは危険です。刑法上でも、真実であっても公益性がなければ処罰の対象となり得ます。たとえば、相手の不倫が会社の業務に直接関係ない場合は、公益目的とはみなされないため、私怨による告発とみなされてしまう可能性があります。
裁判例においても、不倫の事実を会社に通報した元交際相手が名誉毀損で損害賠償を命じられた例が存在します。正義感や復讐心だけでは、法的には認められないことがあるのです。
報告する際にトラブルを避けるための注意点
どうしても報告を検討する場合には、以下の点を意識してください。
- 報告先の人数を最小限にとどめる(社内での拡散は厳禁)
- 証拠が確実であるかを再確認(LINEの内容や画像など)
- 感情的な表現は避け、事実のみを記述する
- 弁護士に事前相談し、法的リスクを確認する
特に、証拠の使用や拡散には著作権やプライバシーの問題も伴います。安易にコピーして配布するなどの行為も、別の法的責任を問われる可能性があります。
どうしても行動したいなら法的手段を選ぶ
不倫相手に対する制裁を望む場合、慰謝料請求や民事訴訟という正式な法的手続きを検討するのが望ましいです。弁護士を通じて通知書を送ることで、冷静かつ合法的に対処することが可能です。
感情のままに行動して名誉毀損に問われてしまっては、自身も大きなダメージを受けることになります。特に今後の社会的信用や人間関係を守るためにも、「法に従って制裁を求める」という姿勢が最も安全で賢明です。
まとめ:感情よりも法的リスクを優先して判断を
不倫という裏切りは確かに許しがたいものですが、その後の対応を誤ると、被害者であるはずの自分が法的責任を負う立場になってしまうこともあります。
「真実でも名誉毀損になる」という法律の原則を理解し、冷静に、法的に正しい行動を選びましょう。どうしても迷った場合は、早めに弁護士に相談するのが最善です。