相続においては、法律で定められた「相続欠格」や「廃除」によって、一定の条件を満たす人物が相続人としての資格を失うことがあります。しかし、他の相続人の話し合いによって、その相続資格を失った人物にも遺産を分け与えることはできるのでしょうか?そしてその際、税務上はどのように扱われるのかを解説します。
相続欠格・相続廃除とは?
民法891条では、殺害、詐欺、強迫などの重大な非行があった場合に「相続欠格」として相続人の資格を喪失することが定められています。さらに、「被相続人からの請求」により、家庭裁判所の判断で相続人から除外される「相続廃除」もあります。
これらに該当すると、その者は法的に「相続人ではない」と見なされ、遺産を受け取る権利は原則として失われます。
相続人の話し合いで遺産を渡すことは可能?
相続資格を失った人にも「可哀想だから遺産を分けたい」と考える相続人がいた場合、その意思で遺産を渡すことは可能です。ただし、それは「相続」ではなく贈与または「遺贈に準じる扱い」になります。
つまり、法的には相続とはみなされないため、遺産分割協議書に名前を記載しても、形式上は「相続人以外への分与」となります。
税務上の取り扱い:相続税か贈与税か?
相続資格を失った者に遺産が渡る場合、その財産の取得は「相続税の課税対象」ではなく「贈与税の課税対象」として扱われる可能性が高いです。相続税法上、相続人でない人物が相続によって財産を得たとは認められないためです。
ただし、税務上の個別判断が必要になることもあり、一定の条件下では「遺贈」に類する形で相続税が適用されることもあります。いずれにしても、通常の相続人より高率な税負担となるケースが多いです。
実例で見る:相続欠格者への分与
たとえば、被相続人の息子が相続欠格に該当し、他の兄弟たちが「事情があったから」と彼に財産の一部を譲ったとします。この場合、その譲渡部分は「贈与」と見なされ、受け取った息子には贈与税が発生します。
また、相続税の基礎控除なども適用されないため、税負担が重くなる可能性があります。たとえば500万円を受け取った場合、贈与税の基礎控除110万円を超える部分に課税されるため、課税対象は390万円となり、税率20%なら78万円の税がかかる計算です。
税務リスクを回避するために
こうした場合には、税理士などの専門家に相談することが重要です。贈与契約書を作成する、財産の渡し方を調整する、などの工夫により、将来的な税務リスクを軽減することが可能です。
また、贈与ではなく相続人の誰かが一度取得し、そこから譲渡する形式を取ることで、税金の計算上メリットが出ることもあります。
まとめ:制度理解と専門家の活用がカギ
相続欠格や廃除によって相続資格を失った人に財産を渡すことは可能ですが、それは「相続」ではなく「贈与」として扱われ、相続税ではなく贈与税が課税されるのが原則です。
そのため、想定外の税負担を回避するためにも、専門家に早めに相談し、正しい手続きを踏むことが不可欠です。特に感情面での配慮が求められるケースでは、法的リスクと人間関係のバランスを丁寧に考慮しましょう。