未払い賃金の回収が困難なときに検討すべき法的手段と労基署への告訴の現実性

勤務先からの未払い賃金に対し裁判で勝訴しても、相手側に差押え可能な資産が見つからない場合、回収は極めて困難になります。この記事では、差押え不能な状況で労働基準監督署への告訴が意味を持つのか、また他にとれる選択肢について、実例とともに解説します。

未払い賃金問題の典型的な流れと壁

未払い賃金を巡るトラブルでは、内容証明・労基署への申告・労働審判・民事裁判と段階を踏むのが一般的です。判決が出ても、相手が資産を隠していたり、会社が事実上の休眠状態だと、現実的な回収が難航します。

例えば筆者の相談事例では、元従業員が裁判で勝訴しても、口座凍結の対象が特定できず、債権回収には至りませんでした。こうしたケースは少なくありません。

労基署への「告訴」とは何か

労働基準監督署へ「申告」するのはよく知られていますが、悪質な違反がある場合には刑事的責任を問う「告訴」も可能です。

労働基準法第120条により、賃金不払いが6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金となることもあります。実際に送検された企業も存在します。

ただし、刑事処分の有無は労基署の判断によります。また、告訴しても未払い賃金の「回収」とは別の問題である点に注意が必要です。

告訴しても回収できないケースが多い理由

労基署が動いても、企業が支払能力や資産を持っていない場合、刑事的責任を問えても賃金が戻るとは限りません。

例えば、告訴後に社長が略式命令で罰金刑を受けたケースでは、刑罰は課せられても回収にはつながりませんでした。あくまで“制裁”であり、“回収”のためにはやはり資産の特定と差押えが必要です。

他にできること:弁護士と再度相談を

預金口座や売掛金などが特定できなくても、調査嘱託や第三者債権の開示請求など法的手段があります。

また、元経営者が新たな会社を作っている場合、その法人口座に給与支払実績があれば差押えが可能になることも。専門性が高いため、回収専門の弁護士への再相談を検討してみましょう。

時効のリスクと対応

賃金請求権には3年の消滅時効があるため、残り2か月という状況は非常に危険です。すでに裁判により確定判決を得ている場合、時効期間は10年に延長されるものの、判決日が基準となるので注意が必要です。

万一時効間近であれば、再度督促や強制執行申立を行うことで時効中断が可能です。時効更新は、今後の交渉の足がかりにもなります。

まとめ:労基署への告訴は手段の一つにすぎない

未払い賃金を巡っては、判決があっても回収が困難な場合があります。労基署への告訴は道義的・刑事的な圧力として一定の意味を持ちますが、それだけでは実際の金銭回収には直結しません。法的時効や弁護士との連携を意識しつつ、粘り強く回収の糸口を探る姿勢が必要です。

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