会社の資金を横領して借金返済に充てた――そんな報道を目にするたびに、「なぜ自己破産という合法的な手段を取らなかったのか？」と疑問を持つ方も多いでしょう。この記事では、なぜ一部の人が法的手続きを選ばず、犯罪行為に走ってしまうのかを心理・社会・法律の視点から考察します。
自己破産という選択肢があるのに選ばれない理由
自己破産は、債務が返済不能な状態にある個人が、裁判所を通じて法的に借金を帳消しにできる制度です。原則として借金は免責され、生活を再建するための制度でもあります。
しかし、自己破産には一定のデメリットもあります。たとえば、信用情報機関に登録されることによるブラックリスト入りや、弁護士や税理士など一部の職業制限、一定期間の財産制限などが挙げられます。これらが精神的なハードルとなり、自己破産をためらう人が少なくありません。
なぜ横領という違法行為を選んでしまうのか？
一部の人が横領に至る理由には、「自分は絶対にバレない」という誤った自信や、「あと少しで返済できる」という希望的観測が大きく関与しています。多くの場合、最初は少額の使い込みから始まり、次第に金額が膨れ上がっていくというパターンです。
また、借金苦や生活苦から「追い詰められて正常な判断ができなくなっていた」というケースも少なくありません。とくに多重債務を抱えている場合、「合法的な手段ではもう間に合わない」と考え、即効性のある“資金調達”として横領に走る例もあります。
心理的な要因と社会的プレッシャー
借金を抱える人の中には、「破産すると家族や職場にバレる」「世間体が悪い」といったイメージから自己破産を避け、孤立の中で問題を抱え込みやすくなります。日本ではいまだに“破産”に対するネガティブな印象が強く、社会的な偏見も障壁の一つです。
また、企業で経理や管理部門に属する人の場合、業務上現金に接する機会が多いため、「一時的に借りて返せば大丈夫」と自己正当化しやすくなる点も注意が必要です。
自己破産の正しい理解と活用
自己破産は「人生の終わり」ではありません。むしろ、再スタートのための制度です。適切な手続きを踏めば、合法的に借金の悩みから解放されます。
法テラスなどの公的機関を利用することで、費用負担を抑えつつ、弁護士や司法書士の支援を受けることが可能です。支払いが困難な方には、法律扶助制度も用意されています。
横領がもたらす重大な結果
横領は刑法上の犯罪（業務上横領罪）に該当し、最大10年の懲役刑に処される重罪です。たとえ被害金額が小さくても、「信頼を裏切る行為」として社会的信用を完全に失う結果を招きます。
しかも、横領によって得た金銭は最終的に返済義務が残り、刑事罰と民事責任の両方を負う可能性があります。これは、自己破産では得られない「人生を再建する機会」を完全に失うリスクでもあります。
まとめ｜追い詰められたときこそ正しい選択を
借金問題に直面したとき、自己破産という法的な手段は多くの人にとって再出発の希望になります。それに対し、横領は一時的に問題を先延ばしにするだけで、重大な法的・社会的代償を伴います。
追い詰められていると感じたときこそ、専門家に相談し、法のもとで解決する道を選びましょう。目先の解決に走らず、長期的な人生設計を見据えることが重要です。