相続により取得された収益不動産の賃料を誰に、どのように支払うかは、法的に非常に繊細な問題です。この記事では、遺産分割協議が整っていない場合における不動産会社の対応と、相続人間の権利関係について詳しく解説します。
収益不動産と遺産分割協議書の関係
相続が発生した時点では、相続財産は「相続人全員の共有」とされます。つまり、遺産分割協議書が作成・締結されない限り、物件の所有権や賃料の受取権は特定の相続人一人に帰属しません。
このため、不動産管理会社は遺産分割協議書なしに特定の相続人へ賃料を支払うことは基本的に避けるべきとされています。
賃料支払における法的リスクとは
遺産分割協議書が整っていない状態で相続人Aにのみ賃料を支払った場合、他の相続人(例:B、C)から不動産会社に対し、「不当利得の返還請求」や「損害賠償請求」が発生する可能性があります。
特に商業用不動産など高額賃料が発生するケースでは、後々トラブルに発展しやすいため注意が必要です。
不動産会社が取るべき対応
- 相続人からの要請があっても、遺産分割協議書の写しを確認するまでは支払いを保留
- 賃料は一時的に供託または預かり金として管理し、合意形成後に分配
- 相続人全員の合意がある旨の書面を取得(署名・押印付き)
これらの対応により、不動産会社自身の法的リスクを軽減することが可能です。
実際のトラブル事例と教訓
過去には、不動産会社が特定相続人の口座に数年分の賃料を送金していたことが原因で、他の相続人と紛争に発展。結果的に、不動産会社は過失を問われ、返金と謝罪に追い込まれたケースもあります。
このような事例から学べるのは、「安易な判断で支払処理を行わない」という基本的なリスク管理の重要性です。
署名のない賃料支払いに罰則はあるのか
不動産会社が法令違反に基づいて刑事罰を受ける可能性は低いですが、民事上の責任(損害賠償など)は十分に発生し得ます。
よって、法的に「罰則があるか」というよりも、「後に訴訟に発展する可能性があるか」で考えるべき問題です。
まとめ:遺産分割協議が最優先の判断基準
収益物件の賃料処理は、法的にも感情的にもトラブルが発生しやすい分野です。相続人の一人に支払いたいという要望があっても、不動産会社は中立な立場を守り、必ず遺産分割協議書を確認したうえで対応することが最も安全な対応策といえます。