取引において支払手段として小切手が提示された場合、それを受け取る義務があるかどうかは、実務においてもトラブルの元になりがちです。特に「預金小切手」ではない一般の小切手の場合、受け取りを拒否した際に「受領遅滞」と評価されるのかが問題になります。今回はこの論点を民法上の原則から丁寧に解説します。
そもそも「受領遅滞」とは何か
民法第413条第2項では、債権者が債務者の弁済の提供を正当な理由なく受け入れなかった場合、債務者は債務不履行とならず、債権者が「受領遅滞」となると規定されています。つまり、債権者側が正当な理由なく受け取りを拒否したときには、自身の不利になる可能性があるのです。
逆に、正当な理由がある場合には、受け取りを拒んでも「受領遅滞」とはなりません。
現金以外の支払い手段は合意がなければ原則無効
民法第485条において、弁済は原則として「金銭によって」行われなければならないとされており、小切手・手形などの支払い手段は債権者の同意がなければ有効な弁済とはなりません。したがって、特約がなければ小切手の受け取りを拒否しても民法上問題はありません。
なお、ここでいう「特約」とは、「小切手での支払いを認める」という明示または黙示の合意を指します。
預金小切手と普通小切手の違い
実務上、小切手には大きく分けて2種類あります。
- 預金小切手:支払いの確実性が高い。金融機関の発行で裏付けがあり、一般に信頼性がある。
- 普通の小切手:発行者の当座預金残高によるため、不渡りになるリスクもある。
このように、普通の小切手は信用力が預金小切手に比べて低く、受け取りを拒否する合理的な理由になり得ます。
判例・実務の傾向
実務上も判例上も、小切手受領についての特約がなければ、債権者はこれを拒否することができると解されています。したがって、一般小切手の提示による支払いは、受け取りを拒んでも「受領遅滞」にはなりません。
この点について、東京地裁や大阪地裁でも債権者の拒否に正当性があると認定した例が複数存在します。
支払い方法に関する合意を事前に明確化する重要性
トラブルを未然に防ぐためには、契約書や発注書、請求書などの段階で「支払い方法は現金(または振込)による」と明示するのが望ましいです。小切手による支払いが想定される場合は、「小切手支払い可」「〇〇小切手のみ可」といった特約を設けることが当事者双方の安心につながります。
特にBtoB取引では、小切手の信用状況によって資金繰りに影響が出るため、支払い方法は慎重に定める必要があります。
まとめ:小切手支払いは合意がなければ拒否しても受領遅滞とならない
結論として、預金小切手でない通常の小切手による支払いは、特約がなければ拒否しても問題はなく、受領遅滞にはなりません。契約内容に従った支払いを求めることは正当な権利です。リスク回避の観点からも、契約時点で支払い手段を明確にしておくことをお勧めします。