最近のニュース報道で「容疑者は認否を明らかにしていません」という表現をよく目にするようになったと感じた方も多いのではないでしょうか。以前は「黙秘している」「否認している」といった言い回しが主流でしたが、なぜこの表現が増えてきたのか。その背景と法律的な意味をわかりやすく解説します。
「認否を明らかにしていない」とはどういう意味か
「認否」とは、「認める」か「否定する」か、つまり容疑についての認め・否定の意思表示を指します。「認否を明らかにしていない」というのは、容疑者が警察や検察の取り調べで、自分の容疑について“何も言っていない”状態です。
たとえば「黙秘している」「まだ取り調べに応じていない」「意思表示を保留している」場合などに、この表現が使われます。
なぜこの言い回しが増えたのか?報道側の意図
報道機関がこの表現を多用するようになった背景には、人権配慮と法的中立性の観点があります。
かつては「容疑を否認している」「容疑を黙秘している」などと具体的に伝えるケースが多くありましたが、これらは読者に「容疑者が反抗的」「怪しい」という印象を与える可能性があるとして、事実だけを報道する中立表現が好まれるようになったのです。
実例:最近の報道での使われ方
例①:「○○容疑者は調べに対し、認否を明らかにしていない。」
例②:「○○容疑者は現在、弁護士と相談中で、認否については明らかにしていない。」
例③:「○○容疑者は供述を拒否しており、警察は引き続き動機や経緯の解明を進める方針。」
これらの表現は、容疑者の黙秘権や法的防御権を侵害しないよう配慮しながら、捜査が進行中である事実のみを伝えています。
刑事手続きにおける「認否」の重要性
刑事事件の初動段階では、容疑者が「認めるかどうか」よりも、まずは法的手続きが適正かどうかが問われます。認否を明らかにしないまま黙秘を続けることは、被疑者の正当な権利です。
また、供述が裁判に与える影響が大きいため、弁護士との相談を経て供述するケースも多く、報道側も「現段階では判断材料がない」ことを意味する言い回しとして使用しています。
以前との違いは「伝え方」の進化
以前の報道では感情的な表現や断定的な見出しが目立つケースもありましたが、現在は「容疑者の立場」「無罪推定原則」など法的な配慮が進み、あいまいな表現が増えています。
これは報道の“表現の曖昧化”ではなく、“法と人権に即した報道倫理”の反映であると考えるべきです。
まとめ:認否を明らかにしない=判断保留のサイン
✔ 「認否を明らかにしていない」は、黙秘や未回答状態を中立的に伝える言葉。
✔ 報道機関の倫理意識の高まりにより、近年多く使われるようになっている。
✔ 認否を示さないことは容疑者の権利であり、それだけで有罪・無罪を判断するものではない。
報道を読み解く力を持つことが、より正確な情報理解と社会の成熟につながります。