LEX/DB 25563821判決とは?~妄想性障害と責任能力の考え方を読み解く

東京高等裁判所が2019年8月29日に下したLEX/DB 25563821は、妄想性障害を理由とする責任能力の判断において、どこまで精神鑑定を重視し、どの程度裁判所が独自判断すべきかをめぐって示唆深い判例です。

▼事件の背景と妄想性障害とは

被告人は妄想性障害と診断されていましたが、裁判所は犯行時に幻覚や強迫的な妄想がなく、本人の性格や状況を総合考慮すべきと判断しました。

DSM‑5では妄想性障害は「訂正不可能な誤った確信」を特徴とし、日常生活は大きく損なわれないとされます。

▼鑑定への向き合い方:裁判所のスタンス

法廷は鑑定意見を尊重しつつも、その前提条件や推論過程に合理性がなければ採用しないと明示しました。

具体的には「妄想が犯行動機に与えた影響は怨念の強化にとどまる」と評価し、完全責任能力を肯定しました。

▼人格との切り分け:妄想と性格の影響力

被告人にはもともと短気で怨恨が強かった性格の影響も認められており、裁判所は妄想性障害によって性格が強化されたと理解しました。

このため病気だけでなく元来の人格から来る動機も犯行に寄与していたと判断しています。

▼責任能力判断の枠組み:可知論vs不可知論

LEX/DB 25563821は、精神医学的知見が認められない部分を裁判所が空想で補うべきではないとしつつ、合理的な証拠がある限り裁判所が判断すべきとする可知論的姿勢を示しました。

「精神鑑定の内容に重大な欠陥があれば、それを理由に裁判所は採用しない」と明言しています。

▼実務への影響と他判例との位置付け

この判決は、例えば2015年加古川事件(最高裁平成27年5月25日判決)などと並び、妄想性障害を抱える被告人であっても責任を認める可能性を示した重要判例です。

また、可知論・不可知論をめぐる責任能力判断の考え方にも影響を与えています。

まとめ

LEX/DB 25563821は、精神障害がある場合でも、鑑定だけに頼らず「妄想の影響が犯行に直接直結していたか」「元々の人格による動機がどれほど関与していたか」を裁判所が丁寧に判断すべきとした重要な判例です。

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