親の死後、財産の全容がわからないまま相続の話が進むことは珍しくありません。特に家屋など特定の不動産だけが浮上している場合、その他の資産や負債の存在が不明確なまま相続を決断するのはリスクが伴います。この記事では、そうした状況でどのように行動すべきか、注意点と実務的なアドバイスを解説します。
相続財産が不明な状態での意思決定は危険
相続する財産にはプラスの資産(預貯金、不動産など)だけでなく、マイナスの財産(借金、ローン、未納税金など)も含まれます。つまり、相続とは「すべてを包括的に引き継ぐ」行為です。
そのため、財産の全体像を把握しないまま特定の不動産のみを相続する判断は極めて危険です。後から多額の借金や滞納税が発覚するリスクがあるため、慎重な対応が必要です。
相続人が知るべき「相続財産調査」の方法
相続人には、被相続人の財産を調査する権利があります。以下のような方法で調査を進めるのが一般的です。
- 銀行口座の取引履歴を開示請求する(戸籍などの提示が必要)
- 法務局で不動産の登記簿を取得し、名義と抵当権の有無を確認
- 借入先が分からない場合は、信用情報機関への照会
- 遺品整理や郵便物からヒントを探す
また、相続人が複数いる場合は共同で調査を行うことが望ましく、弁護士に依頼することで公平かつ客観的に調査を進めることも可能です。
相続放棄や限定承認という選択肢も
相続には以下の3つの選択肢があります。
- 単純承認:すべての財産をそのまま引き継ぐ
- 相続放棄:一切の権利を放棄する(家庭裁判所で手続きが必要)
- 限定承認:プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ
限定承認は複数の相続人全員での手続きが必要なため調整が難しい場合もありますが、リスクを避けつつ財産を調査する手段として有効です。
後妻との連絡が取れない場合の対処法
相続人の一人である後妻と連絡が取れない場合、他の相続人との協議や手続きに支障を来します。こうした場合には以下のような対応が検討されます。
- 家庭裁判所での「遺産分割調停」の申し立て
- 後妻の住民票所在地に内容証明郵便で連絡
- 連絡不能の記録(LINEの既読無視など)を残しておく
弁護士を介して交渉することで、法的正当性を持たせつつ状況打開を図ることも可能です。
遺産分割協議書が届いた場合の注意点
遺産分割協議書は、すべての相続人の合意が必要な法的文書です。署名・捺印をする前に、必ず内容を確認し、不明点があれば専門家に相談してください。
不動産のみが記載された協議書に署名してしまうと、他の財産について後から主張しにくくなる可能性もあるため、注意が必要です。
まとめ:財産の全容を把握せずに相続の判断をするべきではない
相続は人生において数少ない重大な契約行為です。財産の全体像が不明な状況では、安易に「家だけ相続」する判断は避けましょう。後妻との連絡が取れないなどの問題があれば、専門家である弁護士に相談し、法的に正当な手続きを踏むことが大切です。
相続放棄の期限(原則として3か月)もあるため、なるべく早く調査・相談に着手することが、後のトラブル回避につながります。