交通事故や不法行為の損害賠償請求において、加害者の責任だけでなく、被害者側にも過失がある場合、損害額が減額される「過失相殺」という制度があります。この記事では、特に被害者が未成年の場合にこの制度がどのように適用されるか、法律上の観点からわかりやすく解説します。
過失相殺とは?基本的な理解
過失相殺とは、民法722条2項に基づき、被害者にも落ち度(過失)があるときに、その割合分だけ加害者が負う損害賠償責任が軽減される制度です。
例:被害者が赤信号を無視して事故にあった場合、加害者の責任が100%ではなくなる可能性があります。
未成年者への適用はどうなるのか?
未成年者であっても、年齢や発達段階によっては一定の判断力を有しており、行為の意味を理解できると認められる場合には過失相殺が適用されます。
しかし、行為の責任を弁識する能力がないと判断された場合、つまり「何が危険か」「どう行動すべきか」を理解できなかったような年齢や状態であれば、原則として過失相殺の対象とはなりません。
弁識能力とは何か?
弁識能力とは、自分の行動の意味や結果を理解し判断する能力です。これは法律上の責任能力に近い概念で、年齢が低すぎる場合や障害等がある場合は「なし」と判断されることがあります。
例えば、5歳児が道路に飛び出して事故にあった場合、その行為に対する弁識能力は通常ないとされるため、過失相殺されないことが多いです。
裁判所の実務上の扱い
過去の判例では、概ね「7歳前後」を過失相殺の可否を分ける基準としている傾向があります。ただしこれはあくまで目安で、知的発達や生活状況も考慮されます。
たとえば、「小学1年生が公道で自転車に乗っていた事故」で過失相殺が認められた判例もあれば、同年齢でも否定されたケースもあります。
親の監督義務と過失相殺の違い
未成年者本人に過失が問えない場合でも、親や保護者の「監督義務違反」により損害賠償責任が問われることがあります。これは加害者からみて、被害者側の親の過失を主張する構造です。
そのため、弁識能力がない未成年者自身には過失相殺できなくても、親に対して監督責任を問う形で結果的に賠償額が減ることがあります。
まとめ:結論と実務への影響
被害者が未成年で、かつ行為の責任を弁識する能力がないと判断される場合、原則として過失相殺は認められません。
ただし、能力があると判断されれば年齢に関わらず過失相殺は可能であり、さらに親の監督責任の有無も別途評価されるため、実務では総合的な判断が必要になります。