食品を取り扱うアルバイトでは、ちょっとしたミスが思わぬトラブルにつながることがあります。特に夏場などにケーキなどの冷蔵商品に保冷剤を入れ忘れると、品質が劣化し、場合によっては食中毒につながる可能性も否定できません。では、もしそのような事態が発生し、客に被害が及んだ場合、ミスをしたアルバイト自身が法的な責任を負うことはあるのでしょうか?
アルバイトのミスで発生した損害は「誰が責任を負う」のか?
結論から言うと、一般的にはアルバイト本人が全額の損害賠償責任を負うことはありません。日本の民法では、「使用者責任」(民法第715条)という考え方があり、従業員が職務中に発生させた損害は、雇用主(会社)が原則として責任を負うとされています。
つまり、保冷剤の入れ忘れが原因で食中毒が発生し、損害賠償請求をされた場合、責任の大半は店舗運営者や会社が負担するのが通常です。
ただし「重大な過失」や「故意」があれば話は別
とはいえ、アルバイトの行為が重大な過失または故意(わざと)によるものであれば、使用者責任の対象外として、従業員個人に損害賠償が請求される可能性もゼロではありません。
たとえば、「何度も保冷剤の重要性を注意されていたにもかかわらず、怠慢で無視した」「保冷剤をわざと抜いた」といった事情があれば、一部の責任を負うケースも考えられます。
判例ではどうなっている?アルバイトの責任範囲の実例
過去の判例においても、業務上のミスによって損害が発生した場合、裁判所は「労働者の責任を一部にとどめるべき」という考えを取る傾向があります。たとえば、配送ミスで商品が壊れたケースや接客ミスで損害が出たケースでも、個人に全額賠償を求めるのは過酷すぎるという判断が多いです。
つまり、裁判になっても「ミスの程度」や「職場の教育体制」などが考慮されるため、一概に「全額弁償しなければならない」とはなりません。
店舗側に求められる「適切な管理体制」
食中毒など健康被害に関わる業務では、店舗側がマニュアルの整備や教育をしっかり行っているかも問われます。アルバイトに責任を押しつけるのではなく、「指導責任」や「監督義務」を果たしていたかも重要な判断材料になります。
店舗マネージャーや責任者が「保冷剤の有無を確認するチェックリスト」などを導入していれば、事故自体を防ぐことも可能です。
損害が発生した場合の対応の流れ
- まずは店舗責任者に報告し、誠意をもって謝罪対応を行う
- 店舗側が損害賠償に応じた後、アルバイトが一部弁償を求められる場合がある
- その際、労働者としての保護や雇用契約内容が考慮される
これらの対応は基本的に店舗側主導で行われ、アルバイトが一人で責任を負う事態は非常に稀です。
まとめ
アルバイト勤務中に保冷剤を入れ忘れ、万が一お客様に食中毒などの被害が発生した場合、原則として損害賠償責任は雇用主が負います。ただし、故意や重大な過失がある場合には、本人にも一部責任が問われる可能性があります。働く側としては、ミスを防ぐ努力とともに、もしものときのために職場のマニュアルや責任体制を理解しておくことが重要です。