近年、インターネット上での誹謗中傷や違法な投稿に対して「発信者情報開示請求」を行うケースが増えています。特に集合住宅などでLAN配線方式を利用し、1つのグローバルIPを全戸で共有している物件では、投稿者の特定がより複雑になります。この記事では、特定に必要なステップや費用感について詳しく解説します。
集合住宅のLAN配線方式とIPアドレスの仕組み
集合住宅においては、インターネット回線を一括で契約し、建物内で各戸へLAN配線を通す「インターネット完備物件」が多く存在します。この場合、住人は個別にプロバイダ契約を行わず、1つのグローバルIPを住民全体で共有する構造となっています。
そのため、1つのIPアドレスで複数の住戸の通信が混在し、個人を特定するには“さらに踏み込んだ情報開示”が必要です。
投稿者特定に必要な4段階の開示請求とは?
LAN配線型集合住宅での発信者情報開示には、以下のステップを経る必要があります。
- ① 書き込み先サイトへの開示請求
ログIP・タイムスタンプなどの記録情報を請求します。 - ② プロバイダ(ISP)への開示請求
IPアドレスの割当先(通常は建物全体)を把握します。 - ③ 中間業者(マンションISPなど)への開示請求
プロバイダとユーザーの間にいるLAN業者(マンションISP)からMACアドレスやポート番号などの記録情報を得る必要があります。 - ④ 契約者(不動産管理会社など)への照会
中間業者のログから各戸の対応関係を把握し、実際の投稿者を特定します。
このように、通常よりも多層的な開示が必要なため、一般的なプロバイダ契約に比べて難易度・手続き数が上がります。
投稿者特定の可否と技術的なハードル
技術的には、中間業者が通信ログ(NATログやMACアドレスとの対応記録)を保存していれば、特定は可能です。
しかしながら、
- ログの保存期間が短い(3〜6ヶ月)
- 中間業者がそもそも開示に非協力
- 誰でもアクセス可能なWi-Fiなどで書き込みが行われていた
という場合には、特定が困難または不可能になるリスクもあります。
損害賠償請求・刑事告訴の費用と現実
開示請求に加え、損害賠償請求(民事)や刑事告訴(名誉毀損・侮辱など)まで行う場合、費用はさらに増加します。
弁護士費用や裁判手数料を含め、総額で100万円以上かかるケースが大半で、以下が主な内訳です。
- 発信者情報開示請求費用:30〜50万円(各段階で別途)
- 損害賠償請求の訴訟費用:20〜40万円
- 刑事告訴に必要な文書・調査費:10万円前後
複数の開示が必要な場合や裁判が長期化した場合には、150万円以上かかることも珍しくありません。
まとめ:LAN方式物件の投稿者特定は「技術」と「コスト」が壁
集合住宅でのLAN配線方式であっても、技術的・法的な条件が揃えば投稿者を特定することは可能です。ただし、4段階の開示請求に加えて、裁判や請求を進める場合には100万円を超えるコストが現実的に必要です。
本格的な請求を検討する際は、IT法務に詳しい弁護士へ事前相談を行い、費用対効果や実現可能性を十分に精査することが重要です。