交通事故の現場に遭遇し、とっさの判断で轢き逃げ犯を車で止めた場合、その車両に生じた損害について誰が責任を負うのか、という疑問を抱く方は少なくありません。この記事では、轢き逃げ犯を物理的に止めた際の法的な扱いや、車の修理代がどこから支払われるのかを詳しく解説します。
故意にぶつけた場合でも損害賠償請求は可能か?
結論から言えば、轢き逃げ犯に損害賠償を請求することは可能です。民法709条の「不法行為に基づく損害賠償請求権」が成立します。犯人の違法行為(轢き逃げ)によって発生した結果であれば、直接の接触が自発的であっても請求権は成立するのが一般的です。
ただし、損害が「緊急避難」「正当防衛」の範囲と認められるかどうかは、状況によって大きく左右されます。警察の指示があったか、過剰な追突でなかったかなどが判断基準になります。
自動車保険からの補償は受けられる?
自動車保険を使う場合、自車両保険に加入していれば修理費用をカバーできます。ただし、等級が下がり、翌年度以降の保険料が上がる可能性がある点に注意が必要です。
また、「故意の接触行為」とみなされた場合、保険適用外になることもあります。保険会社には「事故状況を正確に説明する」ことが重要で、警察の実況見分調書も有力な資料になります。
犯人から損害賠償を回収できるか?現実的な問題点
法律上の請求ができても、現実に支払ってもらえるかは別問題です。轢き逃げ犯が無職、資産なし、住所不明といった場合、回収は困難になることもあります。
そのため、自車両保険で修理し、のちに加害者へ「求償請求」する流れが一般的です。保険会社が代位弁済した後に加害者に請求する場合もあります。
緊急避難としての正当性はあるのか?
刑法37条の「緊急避難」に該当すれば、自己または他人の生命・身体を守るためにやむを得ず加害行為を行ったと評価され、法的責任が免除されることもあります。
ただし、「本当に必要な行為だったか」「他の手段がなかったか」が問われます。車で直接衝突せずにナンバー撮影や通報など他の方法が可能であった場合、過剰行為とされるリスクも。
実例:轢き逃げ車両を体当たりで止めたケース
過去の報道事例では、轢き逃げ車両を自車で遮るように停車し接触した際、「民事では賠償請求可」「刑事では不起訴」となったケースがあります。
ただし同様の行為で損害が大きかった場合、「危険行為」として加害者にも過失が認定されることもあり、あくまで状況に応じて判断されることがわかります。
まとめ:正義感ある行動も慎重に
轢き逃げ犯を車で止めた場合でも、犯人に損害賠償を請求できる可能性はあります。しかし実際には、支払い能力や法的な立証、保険の使用可否など、慎重な判断が求められます。
- 修理費を確実にカバーしたいなら自車両保険が有効
- 保険利用は等級ダウンに注意
- 犯人からの賠償は可能だが、現実的な回収は難しい場合も
- 緊急避難として認められるかは状況次第
いざというときのためにも、任意保険の見直しや自車両保険の加入を検討しておくと安心です。また、緊急時はまず警察への通報を優先し、自身の安全を最優先に行動しましょう。