子どもが成長した後、DNA鑑定によって実は自分の子ではなかったと判明するケース、いわゆる「托卵(たくらん)」問題。特に長年父親としての責任を果たし養育費を負担してきた男性にとっては、精神的にも経済的にも大きな衝撃です。ではこのような場合、法律上、過去に支払った養育費を生物学上の父親に請求することは可能なのでしょうか?本記事では、法的視点から解説します。
養育費の返還請求は原則困難だが可能性はある
一般的に、婚姻中に「夫の子」として戸籍に記載され育てられていた場合、その子は法律上の「嫡出子」とされます。たとえ生物学的な父親でなかったとしても、夫が父親としての地位を持っていた限り、支払った養育費を「返してほしい」と主張するのは困難です。
ただし、例外的に詐欺や重大な事実の隠蔽があった場合には、不当利得や損害賠償の請求として法的に争う余地があるとする見解も存在します。実際には状況や証拠、子どもの年齢などにより判断が分かれるため、慎重な検討が必要です。
親子関係の否認には家庭裁判所の手続きが必要
まず、法律上の父子関係を否定するには、家庭裁判所に対して「嫡出否認の訴え」または「親子関係不存在確認の訴え」を提起する必要があります。
この手続きには一定の期間制限(原則として子の出生を知った時から1年以内など)があるため、判明後は速やかな対応が求められます。
実父への養育費請求はできるのか?
仮に法律上の父子関係を否定できた場合、生物学的な父親に対して養育費を請求できるかという問題が次に浮上します。
理論的には、実父に対して子ども自身が養育費を請求することは可能ですが、「既に他の人物が養育してきた過去分までさかのぼって請求できるか」については見解が分かれています。実父が事情を知らなかった、母親が隠していた等の事情がある場合には請求が通らない可能性も高いです。
過去の実例と裁判例
過去には、托卵が発覚したことで精神的損害を受けたとして、元妻や実父に対し損害賠償請求を起こした事例も存在します。しかし、裁判所は子の福祉や家族関係の安定を優先し、請求を認めなかったケースが多く、養育費の返還も認められた例は非常に限られています。
一方で、近年はDNA検査の普及により、父子関係の真偽が明確になることで法的対応が問われるケースも増えています。
今後の対策と対応方法
托卵が疑われる場合、感情的にならずにまずはDNA鑑定を行い、結果をもとに家庭裁判所での手続きを進めることが重要です。弁護士への相談は必須であり、特に親子関係否認や損害賠償請求を行う際には経験豊富な専門家のサポートが不可欠です。
また、子どもの福祉や現在の生活状況への配慮も重要視されるため、慎重な言動が求められます。
まとめ:請求のハードルは高いが可能性はゼロではない
托卵が発覚した場合、法的な父子関係の否定とその後の損害賠償・養育費返還請求は可能性こそあるものの、非常に高いハードルがあります。感情的に動かず、法的手続きと専門家の助言をもとに冷静に対応していくことが求められます。
何よりも子どもの心や今後の人生に配慮しつつ、家族の在り方を見直すきっかけとして、丁寧に向き合っていくことが大切です。