お正月をはじめ日本の伝統的な食文化として親しまれている餅ですが、毎年高齢者を中心に窒息事故が発生しています。では仮に、餅を喉に詰まらせて死亡したケースで遺族が製造会社を訴えた場合、法的にはどう判断されるのでしょうか?この記事では、製造物責任法や実際の判例、製造者の注意義務などの観点から詳しく解説します。
製造物責任法(PL法)の基本とは
製造物責任法とは、製品に欠陥があり、それによって消費者が生命・身体・財産に損害を被った場合に、製造業者などに賠償責任が生じると定めた法律です。重要なポイントは、「欠陥」の有無です。製品そのものに設計上・製造上・表示上の欠陥があると認定されない限り、責任は問われにくいのが現実です。
餅の場合、製造上の異物混入などがなければ「通常の食品」であると見なされ、基本的には欠陥品とはされません。
過去の判例と裁判の傾向
実際に餅やこんにゃくゼリーなどで死亡事故が起きた際、遺族がメーカーを訴えた事例はありますが、製造者が責任を負うと認められたケースは極めて稀です。
代表的な例として、こんにゃくゼリーで死亡した子どもの親が製造会社に対して訴訟を起こした事件では、製造側の「注意喚起表示」や「使用目的に適った製造」が認められ、原告の請求は棄却されました。
「注意表示義務」の有無と限界
餅のパッケージに「高齢者や子供は注意して食べてください」などの表示があれば、製造者としての注意義務を果たしていると判断されやすいです。
逆に、まったく表示がなくリスクを認識し得なかった場合は、一定の責任を問われる可能性も否定はできません。ただし、それでも「餅」という性質自体が広く知られていることから、消費者側にも大きな注意義務があると裁判所は判断する傾向にあります。
賠償責任の成立が困難な理由
餅による窒息事故は、一般に「予見可能な危険」とされており、製造会社がこのリスクをすべて排除することは現実的ではありません。そのため、裁判では「餅そのものの性質に問題があるわけではない」とされることが多く、製造側が敗訴するのは非常に困難です。
さらに、仮に訴訟となっても、餅の咀嚼不足や家庭内での不適切な食べ方など、消費者側の過失が問われる可能性もあります。
製造会社のリスク回避策
近年では餅メーカーも事故を避けるため、以下のような対応を取っています。
- パッケージに「小さく切って食べるように」といった注意書きを記載
- 高齢者向けにやわらかい餅や切り餅を販売
- ウェブサイトなどでも注意喚起を積極的に実施
これらの対策がある限り、仮に事故が起きても「適切な注意喚起をしていた」として、メーカーの責任が否定される可能性が高まります。
まとめ
餅による窒息事故において、製造会社を訴えることは可能ですが、勝訴するのは極めて難しいといえます。餅そのものに製造上の欠陥がない限り、製造物責任は成立しにくく、注意喚起が十分にされていれば、製造側に法的責任を問うのは困難です。
したがって、事故を防ぐ最善の策は、消費者側が十分な知識と注意をもって餅を扱うことだといえるでしょう。