近年、交通事故の映像がインターネット上で拡散されることが増え、バスと歩行者の接触事故に関する議論も活発になっています。中でも「走行中のバスに優先権がある」とする意見が見受けられますが、法律上は本当にそうなのでしょうか?本記事では、道路交通法や判例を基に歩行者と車両の関係を考察します。
歩行者と車両の「優先関係」はどこで決まる?
道路交通法では、原則として「歩道がある場合、歩行者は歩道を通行しなければならない」とされ、車両は車道を通行することが前提です(道路交通法第10条・第17条)。
ただし、交差点や横断歩道、バス停付近などの状況によっては、歩行者と車両が交錯するケースがあります。特に横断歩道では、車両側に一時停止義務があることが明文化されています(第38条)。
バスの「運行中」には優先されるのか?
よくある誤解として「バスは定められたダイヤで運行しているから優先される」という主張があります。しかし、法律上そのような優先権は存在しません。
確かに、バスが車道を走行中であれば、歩行者が不用意に飛び出すことは危険です。ただし、そのことと「バスに優先権がある」という法的主張は別問題で、基本的には車両側に安全運転義務(第70条)が課されています。
歩行者にも義務はあるのか?
もちろん、歩行者にも一定の遵法義務があります。道路交通法第13条では、「横断歩道や信号機のある場所を優先して渡るよう努めること」などが規定されています。
また、車道を斜めに横断する、バスの発車に割り込むように横断する、といった行為は危険行為として責任を問われることがあります。ただし、それでも車両側の注意義務が完全に免除されることはありません。
実際の判例に見る判断基準
たとえば、過去の判例(東京地判平成23年1月31日)では、横断歩道外での事故においても、「運転者は歩行者の存在を予見できたはずで、減速または回避義務があった」とされ、車両側の過失が認定されています。
このように、たとえ歩行者の行動に一部落ち度があっても、車両側の回避努力や状況判断が問われることは多く、「バスは優先だから歩行者が悪い」と一概に言うことはできません。
安全な共存のための心がけ
歩行者は「交通弱者」として保護される一方で、横断時の注意や信号遵守などの責任があります。同様にバスなどの大型車両を運転する側は、死角の多さや制動距離の長さを踏まえ、慎重な運転が求められます。
特に交差点付近や停留所周辺などは事故の多発地点であり、双方の注意が必要です。道路はすべての人が使う公共空間であり、互いの立場を尊重する姿勢が不可欠です。
まとめ:優先権ではなく「義務と配慮」のバランスを
バスと歩行者の接触事故において、「バスに優先権がある」といった単純な結論に頼るのではなく、道路交通法の定めや判例、そして事故現場の具体的状況を踏まえて考えることが重要です。
結論としては、法的には原則として歩行者優先であり、車両側に強い注意義務があります。ただし、歩行者も無謀な行動を避け、事故を未然に防ぐ努力をする必要があるのです。