海や川で知らない人が溺れている場面に遭遇したとき、「助けなかったら罪に問われるのでは?」という不安を感じる方も少なくありません。本記事では、日本の法律における救助義務の有無と、その際に取るべき行動について、わかりやすく解説します。
救助義務と刑法上の扱い
日本の刑法には「不作為(なにもしないこと)による犯罪」が原則として認められておらず、見ず知らずの人を助けなかったというだけで処罰されることは基本的にありません。ただし、例外的に「保護責任者遺棄罪」や「遺棄致死罪」に該当する可能性がある場合もあります。
たとえば、自分の子どもや介護中の高齢者など、明確な保護責任がある相手が溺れている場合、助けなければ罪に問われる可能性があります。しかし、まったく見知らぬ他人については、そのような責任は法的には課されていません。
民事責任の可能性と親族からの訴え
刑事責任は免れても、溺れた人の親族が「見殺しにされた」と感じ、損害賠償を求めて民事訴訟を起こすことは理論上可能です。ただし、民法上の不法行為が成立するためには「義務違反」と「故意または過失」が必要であり、他人を助けなかったというだけで損害賠償が認められることは極めて稀です。
実際の判例でも、赤の他人が救助を行わなかったことを理由に民事責任を問われたケースはほとんど存在しません。裁判で勝訴するハードルは非常に高いため、感情的な主張のみでは責任追及は困難です。
助けに行った人が死亡した場合のリスク
「善意で助けに行った人が亡くなった」という痛ましいニュースも現実にあります。こうした場合、遺族にとってはやりきれない状況ですが、法的には救助者の自己責任とされることが多いです。
一方で「善きサマリア人の法(善意の救助行為を保護する法律)」が整備されている国もあり、アメリカなどでは一定の救助行為が法的に保護されています。日本では明文化された保護規定はなく、救助者は原則として自己の安全を優先して判断する必要があります。
現実的に推奨される対応
実際に溺れている人を見かけた場合、自分が泳ぎに自信がない、状況が危険と判断される場合には、無理に飛び込むのではなく、すぐに119番通報する、近くの人に助けを求める、浮き輪や棒などで間接的に救助するのが現実的かつ安全な行動です。
消防庁も「救助者が二次災害に巻き込まれないよう慎重に行動する」ことを呼びかけています。正義感だけで動かず、冷静な対応が重要です。
まとめ
見知らぬ他人が溺れていても、日本の法律上は助けなかったことで刑事責任を問われることは基本的にありません。民事上の責任も成立は極めて困難です。とはいえ、人命に関わる緊急事態であるため、通報や間接的な支援など、自分の安全を確保したうえで可能な範囲の行動を取ることが推奨されます。