交通事故の責任を問われた際、「道交法違反があれば必ず過失になるのか?」という疑問は非常に重要です。刑事・民事・行政責任の観点から、道交法違反と過失の関係を正しく理解しておくことは、運転者としてのリスク管理にもつながります。
道交法違反は過失を推認させる要素になる
結論から言えば、道交法違反が直ちに「過失」と断定されるわけではありませんが、違反の事実があると過失があると推認されやすくなるのが実務上の流れです。
たとえば「信号無視」や「一時停止無視」があれば、「通常の注意義務を怠った」と見なされ、過失責任を問われる可能性が高まります。
過失の判断には「結果との因果関係」も必要
民事上の損害賠償請求(不法行為責任)においては、道交法違反があったとしても、それが事故や損害と因果関係を持たない場合には過失が認定されないこともあります。
たとえば、信号無視をしていたとしても、事故の発生がその違反と無関係であれば、損害賠償責任を否定される余地もあるのです。
判例に見る判断例:最高裁の見解
最高裁昭和51年7月15日判決では、「車両通行帯違反」があっても、それが事故に直接的に関与していなければ過失とは認められないという判断が示されています。
違反の有無だけでなく、“事故の態様・被害者の動き・現場状況”などを総合的に考慮して過失の有無が決まるのが実務です。
刑事責任と民事責任での違い
刑事責任においては、「過失運転致死傷罪」(旧業務上過失致死傷)に該当するかどうかが問題になります。
この際も、道交法違反があれば過失の存在が推認されやすいですが、それ自体では有罪とはされず、違反内容・状況・注意義務違反の程度が検討されます。
過失が否定されるケースの具体例
例えば、深夜で交通量が極端に少なく、かつ視界が良好な交差点で黄色信号をわずかに越えて通過した場合、道交法上は違反であっても、実際に事故がなければ民事・刑事上の責任が問われないケースもあります。
また、相手方が明らかな過失(例:酒酔い運転や逆走など)をしていた場合は、自車の違反があっても相手の過失が大きく評価されることもあります。
道交法違反の記録と過失の関係に注意
行政処分(違反点数)に関しては、違反の事実があれば点数加算などの処分はなされますが、これは「過失の有無」よりも「違反事実の有無」が基準となります。
つまり、刑事・民事と異なり、道交法違反があれば自動的に行政処分の対象となるのです。
まとめ
道交法違反は、それだけで「過失」とは限りません。ただし、過失と判断される有力な根拠となり、事故との因果関係が認められれば、民事・刑事両面で責任が問われる可能性が高まります。
違反が過失か否かの判断には、事故の背景・環境・相手側の過失も重要です。トラブル回避のためには、常に「違反しない」ことを心がけ、リスクの芽を摘む行動がベストな防御策となります。