家族内で円満に話し合いが進み、「父の遺産をすべて母が相続する」と決めた場合でも、正式な手続きを経なければ法的には相続が完了しません。本記事では、築30年の実家と現金1,000万円をお母様一人が相続する場合の流れを、必要書類・実務の視点から解説します。
相続の基本:法定相続と遺産分割協議の違い
相続人が複数(例:配偶者+子ども)いる場合、法定相続ではそれぞれに相続分が発生します。今回のケースでは、母1/2、子2人でそれぞれ1/4が原則です。
ただし、全員が合意していれば、誰か1人が全財産を相続することも可能であり、それを正式に示すのが「遺産分割協議書」です。
必要な書類一覧
お母様単独で不動産や預金を相続するには、以下の書類が必要です。
- 被相続人(お父様)の戸籍謄本(出生から死亡まで)
- 相続人全員の戸籍謄本・住民票
- 遺産分割協議書(署名・実印押印)
- 相続人全員の印鑑登録証明書
- 固定資産評価証明書(土地・建物)
- 不動産登記簿謄本(法務局)
これらは法務局・市区町村役場・金融機関で取得できます。
家(不動産)を母に名義変更する流れ
不動産の相続登記は、母が単独で所有者となるために不可欠です。2024年4月から登記の義務化が開始され、相続開始から3年以内の手続きが必須となっています。
手続きは法務局で行い、「相続登記申請書」「登記原因証明情報」「遺産分割協議書」などを提出します。司法書士への依頼も可能です。
現金(預貯金)の名義変更・引き出し手続き
銀行に対しては、遺産分割協議書・印鑑証明書・被相続人の戸籍類を添えて手続きを行います。窓口での手続きが基本で、金融機関ごとに様式が異なるため、事前に必要書類を確認しましょう。
複数の口座がある場合、それぞれで手続きが必要となります。
相続税申告の要否と特例の活用
遺産総額が3,600万円(配偶者と子2人の場合の基礎控除)以下であれば、相続税の申告は不要です。今回のように「家+現金1,000万円」の場合、多くは非課税となる可能性が高いです。
ただし、土地の評価や預金残高により課税対象になることもあるため、不安な場合は税理士に相談を。
実例:母がすべて相続したケースの流れ
実際に、同様の状況で母が家と現金を相続したケースでは、兄弟が協力して1週間以内に戸籍と評価証明を取得し、1か月以内に法務局で登記申請を完了。銀行は協議書と印鑑証明を添えて約2週間で手続きが完了しました。
協議が円満なら、手続きはスムーズに進みます。
まとめ:母が単独で相続するためのステップ
・相続人全員で「母が全て相続する」旨の遺産分割協議書を作成
・必要書類をそろえ、不動産は法務局で登記、預金は各金融機関で手続き
・相続税の申告要否を判断し、基礎控除以下なら申告不要
・専門家(司法書士・税理士)を活用すると、手続きの負担軽減に
財産が多くなくても、正式な手続きを行うことで、今後のトラブルや相続登記義務違反を回避できます。