現場で理不尽なクレームを受け、体調を崩して通院を余儀なくされる接客業の店員は少なくありません。しかし、そうした被害が「加害者に処罰されにくい」という現状に疑問を感じる人も多いでしょう。今回は、客からのクレームと店員からの通院被害がどう扱われているのか、法律と企業対応の視点から解説します。
「お客様の声」が絶対視される背景
日本の接客業では「顧客第一主義」が強く根付き、「お客様は神様です」という言葉が今でも現場で使われています。この文化があることで、顧客からのクレームが正当性を持つものとして扱われやすい土壌があります。
そのため、たとえ不当な要求や暴言があったとしても、企業側が「クレームを重く受け止める」姿勢を取り、結果的に店員の不利益になることもあるのです。
クレームに対する「処罰」の違いとは?
顧客が企業や行政機関にクレームを入れた際、それが正当なものであれば、内部的な注意・指導・処分といった「処罰」が発生することがあります。
一方、店員が顧客からの暴言や嫌がらせで通院するような精神的被害を受けた場合、加害者(顧客)に明確な処罰が課されることは非常に稀です。これは、加害者が民間人であり、雇用関係や指揮命令系統が存在しないため、企業側に処分権限がないからです。
カスタマーハラスメントは刑事・民事上の違法行為になり得る
客からの暴言・恫喝・長時間の拘束などは、実は刑法の「強要罪」や「脅迫罪」、民法の「不法行為」に該当する可能性があります。しかし、被害届の提出や訴訟提起といった行動を店員個人がとるのは現実的に困難です。
企業側が被害者を守るために積極的に対応しない限り、顧客の行動が「処罰」されることはほとんどありません。
企業の対応とその限界
近年では、厚生労働省によるカスハラ対策マニュアルの公開など、企業にも対応が求められています。店舗では「迷惑行為はお断り」と掲示するケースも増えてきました。
しかし、現場では「売上優先」や「クレーム対応に慣れるべき」といった風潮が根強く、加害行為が黙認されてしまうことも多々あります。結果として、被害者である店員が自費で通院し、精神的苦痛を我慢する形になりがちです。
店員側がとれる対処法
明確にカスタマーハラスメントと判断できる行為に対しては、以下のような対処が考えられます。
- 被害の日時・内容・相手の特徴を記録する
- 診断書や通院履歴などの証拠を残す
- 企業の相談窓口や上司に正式に報告する
- 労働組合や外部相談機関(労基署、法テラス)に相談する
また、社内でのハラスメント報告制度やメンタルヘルスケア制度を活用することも重要です。
まとめ|「処罰がない」のではなく、「処罰されにくい」現実
店員が客からのクレームによって心身に支障をきたしても、それに対する法的・企業的な処罰が実行されにくいのは、制度上の空白や文化的背景が影響しています。
それでも、被害を可視化し、記録と報告を行うことで、少しずつ職場環境は変えられます。自分自身を守る行動を取りつつ、社会全体の理解を進めることが求められている時代です。