静岡県伊東市の田久保真紀市長が学歴詐称疑惑に揺れる中、「なぜ弁護士は卒業していない事実を認め謝罪するよう助言しなかったのか?」という声が上がっています。本記事では代理人弁護士の対応が法的・倫理的観点から妥当だったかどうかを、多角的に整理します。
弁護士の職務義務と代理人の立場
弁護士には依頼者を守る義務があり、事実関係に基づいた法的戦略を立てるのが基本です。依頼者が事実を誤認していた場合、その認識を覆すことよりも、依頼者の主張を正当化する法的根拠を整えることが優先されます。
田久保市長の場合、「勘違いしていた」との主張を軸に、公職選挙法違反(虚偽事項公表罪)に当たらないというロジックを展開しました。選挙期間中に卒業を公表していなかったことがその根拠です。
謝罪を避けた理由と戦略的判断
代理人弁護士は、謝罪や事実の自主的な開示を促すよりも、依頼者の認識と矛盾のない主張体系を構築する方が、訴訟リスクを低く抑えられると判断した可能性があります。
また、卒業証書の提示を拒否し、“捜査機関に委ねる”という選択は、疑義をブラックボックス化し時間稼ぎをする戦略として機能したとも考えられます。
他の弁護士なら同様の対応を取るのか?
今回のような政治スキャンダル案件では、依頼者本人の発言が二転三転するリスクが高いため、他の弁護士でも同様に謝罪より防御重視の戦略を選ぶ例は珍しくありません。
特に公職選挙法のように「故意」が問われる犯罪では、故意の存在が立証されないことが重要であり、認識の齟齬を主張軸に据える対応は合理的です。
法的・倫理的責任は問えるのか?
もし卒業証書が偽物だった場合、代理人がそれを知りつつ提出していたなら、有印私文書偽造罪や同行使罪の責任があり得ます。しかし現在、虚偽と断定できる証拠はなく、「勘違いだった」という主張が法的に崩されていないため、代理人の法的責任は現時点では問われにくい状況です。
また、公職選挙法違反については、選挙期間中の虚偽公表が認められなければ、刑事責任は成立しにくいとされています。
実例比較と弁護士の選び方
過去の政治家の学歴詐称事件でも、代理人弁護士は事実の早期開示よりも「事実関係の争点を明確化」「法的責任を限定する」ことに重点を置いた対応をとることが多く、今回もその流れと一致しています。
依頼者にとって弁護士を選ぶ際は、「謝罪・示談戦略を望むか、それとも公的責任を避けたいか」といった意向の共有が重要です。
まとめ:代理人の対応は法的戦略上の選択と解釈できる
結論として、弁護士が「卒業していないことを認め謝罪するよう勧めなかった」対応は、依頼者の認識と法的戦略に整合性を持たせるための合理的な判断と考えられます。必ずしも不当とは限らず、むしろ現実的なリスク回避策として選択された可能性が高いです。
教育・政治スキャンダル案件では、依頼者の言動が後に逆効果になることもあるため、弁護士には冷静な法的構築能力が求められます。