【民法・不動産法】抵当権実行後における建物所有者の明渡義務を検討するケーススタディ

不動産における抵当権実行後の関係者間の権利関係や明渡義務については、所有権や賃借権、占有権などが交錯する場面が多く、法的検討が求められます。今回は、競落人FがDを立ち退かせることができるかという論点を中心に、事案を整理しつつ解説します。

事案の概要と登場人物の関係整理

本件では、AがB所有の土地甲を賃借し、その上に建物乙を建築・所有していたが、後にDに建物を譲渡しました。一方、Bは土地甲に抵当権を設定し、Cからの借入の担保としていました。債務不履行により競売が実施され、Fが土地甲を競落し、所有権を取得しています。

このように、本件は建物所有者Dと、新たに土地所有権を取得したFとの関係に焦点が当てられます。

FはDに対して立退きを請求できるか

結論として、Fは原則としてDに対して土地明渡しを請求することが可能です。これは、Fが抵当権実行によって土地所有権を取得した以上、原則として土地の自由な使用収益が認められるからです。

もっとも、例外的にDが土地利用権を第三者対抗要件を具備していた場合、Fに対して対抗可能かが問題となります。

賃借権の引継ぎと登記の有無

本件では、DがAから建物を譲り受け、建物所有者となったが、その建物の登記は経由していません。民法605条の適用上、建物の所有者は土地の賃借権を引き継ぐため、Dは土地の賃借人といえる可能性があります。

しかし、土地の賃借権が登記されていない場合、Fのような第三取得者には対抗できません(民法605条、借地借家法10条等参照)。したがって、Fが賃借権の登記がないことを主張すれば、Dは土地の利用を正当化できず、明渡し請求を受けることになります。

建物収去と立退料に関する補足論点

Dが自己の費用で修復を行い、土地の価値を上げた点は、民法の不当利得(703条以下)や必要費償還請求(民法608条1項)として考慮されうる可能性があります。

特に、陥没部分の修復に必要な100万円については「必要費」として、Fに償還請求が認められる余地があります。ただし、未整地部分のアスファルト整備200万円については「有益費」に該当し、Fが選択権を有する点に留意が必要です(民法608条2項)。

Dの保護可能性と信義則の射程

Dの地位は、実質的に土地を利用する居住者であり、自己の費用で土地の維持を行ったことから、信義則(民法1条2項)に基づいて一定の保護を図るべきとの主張もありえます。

ただし、登記などの公示手段を怠った以上、その主張は裁判上は弱く、Fの明渡請求を阻止するには至らないと考えられます。

まとめ

本件では、Fは原則としてDに対して土地明渡請求をすることができます。Dが土地の賃借権を取得していたとしても、登記を経由していない以上、Fに対抗することはできません。もっとも、修復費用に関する費用償還請求や、場合によっては明渡の猶予交渉がなされる実務運用も考慮されるべきでしょう。

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