ニュースや報道で「証拠は弁護士に預けているため警察も手を出せない」といった発言を目にすることがあります。一般市民にとっては「それってズルいのでは?」という印象を持つかもしれません。しかし、弁護士の役割や刑事訴訟法の観点から見ると、そこには一定の合理性と法的枠組みが存在しています。今回は、弁護士に預けられた証拠と警察の押収との関係について、法的にどう扱われているのかを詳しく解説します。
弁護士に証拠を預けたら押収できない?
結論から言えば、弁護士に預けたからといって絶対に警察が押収できないわけではありません。ただし、刑事訴訟法上には「秘密交通権」や「弁護人の秘匿権」といった規定があり、一定の制限が加わります。
例えば、刑事訴訟法第105条や最高裁判例では、弁護士が職務上知り得た事実について、正当な理由がある場合は秘匿する権利があるとされており、令状なしに強制的に押収することは原則としてできません。
「弁護士秘匿特権」の意味と背景
この特権は「弁護活動の自由と独立性を保障するため」のもので、依頼者との信頼関係を確保する重要な仕組みです。仮に警察が容易に弁護士のもとを捜索できるとなれば、依頼者は安心して相談することができず、防御権の侵害につながりかねません。
たとえば、被疑者が「自分に不利な証拠だが真実を伝えておきたい」と考えたとき、その証拠がすぐ押収されてしまう環境では正確な事実把握が困難になるおそれがあります。
警察は本当に何もできないのか?
警察や検察が裁判所から押収令状を取得すれば、弁護士が保管している物でも押収が可能になるケースがあります。ただし、裁判所も秘匿性が認められるか、証拠性が明らかか、捜査の必要性が高いかを慎重に判断する必要があり、むやみに令状を出すことはできません。
また、令状が出ても弁護士会が間に入り、令状執行の適正性を監督する「立ち合い制度」が取られることもあります。
悪用は可能なのか?
一見すると「弁護士に預けておけば証拠隠滅できるのでは」と感じるかもしれませんが、それは現実的ではありません。仮に証拠隠滅目的で弁護士と共謀した場合、弁護士自身が共犯や幇助犯として処罰対象となる可能性があります。
たとえば、依頼者が犯罪に関わる物を弁護士に預け、弁護士がそれを秘匿するような行為があった場合、証拠隠滅罪(刑法104条)が成立する余地があり、倫理規定違反により弁護士資格を失うこともあり得ます。
話題の「卒業証書」のようなケースは?
報道で話題になるような「弁護士が預かっている卒業証書」は、仮に事実確認のための一証拠であっても、そのものが刑事事件の核心とはいえない限り、弁護士の自主的開示がない限り強制押収は困難です。
しかし、その証書の真贋や経緯に刑法上の詐欺・文書偽造などの可能性が絡めば、警察や検察が押収を求める判断もあり得ます。
まとめ:弁護士預かりの証拠は万能ではない
弁護士に証拠を預ければ一切押収されないという誤解は危険です。確かに弁護士秘匿特権に守られる場面もありますが、それには正当な職務遂行という前提が必要です。
そして、警察や検察が令状をもって適法に押収することも法律上は可能です。重要なのは「正当な手続き」があるかどうか。法の支配の下で、真実追及と権利保護のバランスが取られているのです。