性善説に基づいたように見える法律・条例とは?制度設計に込められた信頼の哲学

日本の法制度の中には、人間の本質的な善性を前提にしているかのように見える法律や条例が存在します。この記事では、性善説的な発想で設計された制度をいくつか取り上げ、その背後にある法哲学や社会的意味について考察します。

性善説と法律の関係とは

法律の多くは人間の「悪意ある行為」を防ぐために設計される傾向があります。これを性悪説的発想といいます。一方、性善説に立った法制度では、人々が基本的に良識を持ち、自律的に行動することを前提に、自由や信頼に基づく仕組みが構築されます。

法制度上このような発想が見られるのは、特に行政の簡略化や自己責任の尊重、規制緩和などの領域です。

旅券法に見る「信頼前提」の設計

旅券(パスポート)の発給において、日本では基本的に申請者本人が虚偽の申告をしないことを前提に、比較的簡易な手続きで発行されます。

特にマイナンバーカード連携後の電子申請では、本人確認や戸籍情報の照会も自動化されており、行政が「国民を信用する」仕組みとして設計されています。

図書館の無人返却制度

多くの自治体図書館では、無人返却ポストや自動貸出機が導入されており、「本を返すかどうかは利用者の良心次第」という構造です。

これは性善説の具体的な応用であり、利用者を管理せずとも秩序が保たれるという信頼が前提となっています。

マイナンバーカードの自己管理と活用

マイナンバー制度では、利用者がカードを自己管理し、健康保険証や行政手続きに任意で活用できます。このように情報を政府が一方的に利用するのではなく、「本人の善意と判断」に任せるスタイルは、性善説に通じる部分があります。

制度は悪用もできる一方で、基本は「正しく使ってくれる」という信頼に基づいています。

青少年の深夜外出禁止条例に見られるグレーゾーン

多くの自治体にある「青少年健全育成条例」では、深夜の外出や徘徊の禁止がうたわれていますが、その運用は厳格ではなく、補導=即罰則ではない場合がほとんどです。

これは、子どもや保護者が善意で生活しているという前提のもと、厳罰ではなく教育・指導に重きを置く姿勢が背景にあります。

無届イベントやパフォーマンスの容認例

地方自治体によっては、公園や公共空間での小規模なパフォーマンスや演奏に対し、「許可制」ではなく「事後報告制」や「黙認」を選ぶケースがあります。

これは管理ではなく、善意の表現活動を尊重する姿勢であり、まさに性善説的運用といえます。

まとめ

法制度の中には、あえて厳格に取り締まらず、人の善意や良識に委ねる構造を持つものが存在します。これらは明文化された「性善説の法律」ではないにせよ、制度設計の前提に信頼が置かれている点で大きな意味を持っています。

社会の成熟度が高いほど、こうした性善説的制度は成立しやすく、私たち一人ひとりの行動がその運用に影響を与えていることを忘れてはなりません。

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