交通事故後、被害者が意識がある状態で救急搬送されたにもかかわらず、数時間から数日後に亡くなるというケースがあります。これは遺族や周囲にとって大きなショックとなりますが、医学的にはいくつかの要因で説明が可能です。本記事ではそのメカニズムと注意点について詳しく解説します。
意識がある=安全ではない理由
事故直後に意識があるという事実は、重症でないように見えるかもしれませんが、それだけでは身体の内側で起こっているダメージを判断することはできません。実際には、以下のような「隠れた致命傷」が存在する可能性があります。
たとえば脳出血や内臓損傷は、初期には無症状でも時間の経過とともに悪化することがあります。これを「遅発性合併症」と呼び、命に関わる重大な結果を招くこともあります。
脳出血や外傷性くも膜下出血のリスク
頭を打った際、出血がゆっくり進行する「硬膜下血腫」などでは、事故直後は本人に自覚症状がほとんどなく、会話も可能な状態が続くことがあります。しかし数時間後、出血の圧が脳を圧迫し、意識障害・昏睡・最悪の場合死亡に至るケースがあります。
特に高齢者では、頭部の構造的な理由から脳出血の進行がゆっくりで、事故から半日以上経って容体が急変することもあります。
内臓損傷による遅発的な出血死
内臓、特に肝臓や脾臓が損傷を受けると、目に見えない場所での出血が進行し、血圧が下がりショック状態に陥る場合があります。事故時には痛みが軽く、見逃されやすいため、緊急性の判断が難しいという課題があります。
たとえば、シートベルトで胸腹部を強打した場合、一見無傷でも内部出血が数時間にわたって進行し、死亡する可能性があるのです。
心臓や大動脈の損傷も致命的
高エネルギー外傷では、大動脈や心臓自体に損傷を負うことがあり、これも初期には症状が軽く、CTやエコーで初めて発見されることがあります。医療機関到着後に突然心停止するようなケースでは、こうした血管損傷が原因となっていることが多いです。
胸部の鈍的外傷は油断できず、搬送後に急変するケースも少なくありません。
事故直後の対応と観察が生死を分ける
こうした背景から、交通事故後は意識があるか否かに関係なく、必ず医療機関での詳細な検査(CT・MRI・エコー等)が必要です。また、病院側でも患者の状態を数時間にわたって観察し、急変に備えることが重要とされています。
事故当事者や目撃者が「意識があるから大丈夫」と判断してしまうのは非常に危険です。
まとめ:事故直後の「無事」はあくまで一時的な状態
交通事故において、事故直後に意識があるという事実だけで安心するのは早計です。体の内部では目に見えないダメージが進行している可能性があり、早期発見・早期治療が命を左右します。
事故後は必ず医療機関で精密検査を受け、異常がなくても一定時間は安静と観察を徹底することが大切です。家族や関係者は、その後の体調変化にも注意を払うようにしましょう。