交通事故では、目に見える外傷だけが損害ではありません。被害者が精神的ショックを受け、日常生活に支障をきたすことも重大な損害にあたります。特に近年は、心の傷に対する賠償も認められるケースが増えており、法的にも無視できないものとなっています。今回は、外傷がないにもかかわらず強い精神的ダメージを受けた場合に、どのように損害賠償や加害者責任を問えるのかを解説します。
精神的損害とは何か?法律上の位置づけ
日本の民法では、加害者が他人に精神的苦痛を与えた場合でも、それが「不法行為」として認定されれば慰謝料を請求することができます。実際の医師の診断書やカウンセリング記録がその証拠となります。損害賠償の対象には、入通院慰謝料や通院交通費だけでなく、精神的損害に対する慰謝料も含まれます。
例として、交通事故後にうつ状態や急性ストレス障害(ASD)、PTSDなどを発症し、治療を受けている場合、それらが加害行為と因果関係があると認められれば、損害賠償の対象になります。
外傷なしでも認められた判例はあるのか?
実際の判例でも、「身体的外傷がなくとも、加害者の暴言や態度によって精神的苦痛を受けた」とする訴えが認められたケースがあります。特に加害者が事故現場で被害者に対し威圧的な態度や罵声を浴びせたような場合、その言動が損害賠償の根拠となり得ます。
このような事情を立証するためには、加害者の暴言が録音・録画されているか、第三者の証言があるかが重要です。ドライブレコーダーの映像に音声が含まれていれば、強力な証拠となります。
心療内科を拒否していても慰謝料請求は可能?
診断書なしでは損害賠償の請求は困難ですが、高校のカウンセラーなど第三者の専門家による記録や意見書があれば、一定の証拠能力があります。また、被害者本人が医療機関への通院を拒否している場合でも、家族が状況を記録し、必要に応じて弁護士を通じて訴訟準備を進めることも一つの選択肢です。
ただし、治療実績がないと「実害」として扱われにくいため、少なくともカウンセリングの継続や記録の保存は推奨されます。
損害賠償請求の実務的な手順
まずは自動車保険の示談交渉担当者に、精神的損害に対する請求意向を伝えましょう。そのうえで、自賠責保険の慰謝料請求または任意保険会社への請求書を提出します。
また、法テラスや弁護士相談(初回無料など)を利用し、弁護士を通じた損害賠償請求も選択肢のひとつです。加害者側の任意保険が支払いを拒否した場合でも、民事訴訟を起こすことが可能です。
加害者のモラル的責任を問うことも重要
法的責任だけでなく、モラル的責任も重要な観点です。加害者が被害者に精神的苦痛を与えたことを理解し、謝罪や和解の姿勢を示すことは、被害者の回復にも大きな影響を与えます。被害届や告訴などの法的手段ではなく、謝罪や賠償による解決を望む場合は、弁護士を通じた交渉が有効です。
まとめ:精神的苦痛も法的に評価される時代
外傷がないからといって泣き寝入りする必要はありません。加害者の行為によって精神的被害を受けた場合も、証拠を集め、冷静に手続きを進めることで救済される道があります。家族の支援と共に、一歩踏み出すことで大切な権利を守ることができます。