詐欺被害に遭い、振込先の銀行口座を凍結できた場合、「この後、警察は口座の持ち主を調べて逮捕してくれるのか」「凍結しただけで事件は終わってしまうのか」と気になるところです。結論からいうと、口座凍結と警察の刑事捜査は別の手続きであり、口座が凍結されたから自動的に名義人が逮捕されるわけではありません。一方、詐欺事件として警察が捜査する場合には、金融機関の情報や資金の流れ、通信記録などを手掛かりに、口座名義人や実際の犯人を特定する捜査が行われる可能性があります。また、凍結された口座に残高があれば「振り込め詐欺救済法」に基づいて被害回復分配金を受け取れる可能性があります。刑事事件の捜査とお金を取り戻す手続きは別々に進むため、両方を理解しておくことが重要です。
詐欺口座の「凍結」と「警察の捜査」は別のもの
まず押さえておきたいのが、銀行口座を凍結することと、警察が犯人を捜査・逮捕することは同じ手続きではないという点です。
金融庁によると、金融機関は犯罪利用預金口座等である疑いがあると認める口座について、取引停止などの措置を適切に講じることとされています。振り込め詐欺救済法では、詐欺などの犯罪に振込みが利用された場合、犯罪利用口座に残った資金を被害者へ分配する制度も設けられています。[参照:金融庁・振り込め詐欺等の被害にあわれた方へ]
一方、犯人を特定して刑事責任を追及するのは警察・検察による刑事手続きです。そのため、「口座凍結=犯人特定」「口座凍結=逮捕確定」ではありません。
警察は口座名義人を調べることがある
詐欺事件として捜査が行われる場合、振込先口座は犯人へつながる重要な手掛かりの一つになります。銀行口座を開設する際には原則として本人確認が行われているため、金融機関側には口座名義などの情報があります。
警察が具体的な事件について必要な捜査を進める場合には、法令に基づく照会や捜査手続きを通じて、金融機関から必要な情報を得て資金の流れなどを調べることがあります。金融庁の金融機関向け監督指針でも、預金口座の不正利用について裁判所からの調査嘱託などに適切に対応する態勢を金融機関に求めています。[参照:金融庁・金融機関向け監督指針]
ただし、口座名義人が分かったことと、詐欺の実行犯が分かったことは同じではありません。ここが詐欺事件の捜査を理解するうえで非常に重要です。
口座名義人がそのまま「詐欺の主犯」とは限らない
振込先として指定された口座が、詐欺を計画した人物本人の名義とは限りません。特殊詐欺やSNS型投資詐欺などでは、第三者名義の口座が犯罪グループに利用されるケースがあります。
例えばAという人物の名義の口座に被害金が振り込まれていても、実際に被害者をだましたのはBやCであり、Aは口座を譲渡・提供した人物だったという構図も考えられます。さらに、不正に入手された本人確認情報などが絡むケースもあるため、名義だけを見て犯人だと断定することはできません。
そのため警察が捜査する場合には、「誰の名義の口座なのか」だけではなく、「誰が口座を管理していたのか」「被害金を誰が動かしたのか」「詐欺を行った人物とどうつながっているのか」などを確認していくことになります。
口座名義人が特定されてもすぐ逮捕されるとは限らない
「銀行には氏名や住所が登録されているのだから、警察ならすぐ逮捕できるのでは」と思うかもしれません。しかし、名義人が判明しただけで直ちに逮捕できるわけではありません。
刑事事件として責任を問うためには、その人物がどのように犯罪へ関与したのかを捜査する必要があります。単に「詐欺被害金が振り込まれた口座の名義人だった」という事実と、「被害者をだました」「犯罪に使われることを認識して口座を提供した」といった事実は区別して考えなければなりません。
さらに逮捕は捜査の目的そのものではなく、法律上必要な要件を満たした場合に行われる身柄拘束の手続きです。そのため、捜査対象になった人物が必ず逮捕されるという意味でもありません。
警察は口座から「お金の流れ」を追うこともある
詐欺事件では、振込先となった最初の口座だけを調べれば終わりとは限りません。被害金が別の口座へ送金されている場合、その移転先も重要な手掛かりになります。
実際、振り込め詐欺救済法における「犯罪利用預金口座等」には、被害者が直接振り込んだ口座だけでなく、そこから資金が移転された先の口座も含まれます。[参照:金融庁・振り込め詐欺救済法の概要]
例えば「被害者→口座A→口座B→口座C」という形で短時間に資金が動いていれば、それぞれの取引状況などが事件解明の材料になる可能性があります。ただし、個別事件で警察がどこまで捜査しているかは、被害者であっても詳細を知らされない場合があります。
口座凍結後に警察から何も連絡がなくても「捜査していない」とは限らない
被害届や相談をした後、しばらく警察から連絡が来ないと「何もしてくれていないのでは」と感じることがあります。しかし連絡の頻度だけで、捜査の有無や進行状況を判断することはできません。
詐欺事件では同じグループによる被害が複数の都道府県にまたがっている場合や、多数の被害口座・電話番号・SNSアカウントなどが関係している場合があります。そのため一人の被害者から見ると進展がないように見えても、別の事件との関連を含めて捜査される可能性があります。
捜査状況を知りたい場合は、相談した警察署や担当部署へ事件・相談の受付状況を確認することができます。ただし捜査上の秘密や関係者への影響があるため、捜査手法や具体的な進捗をすべて説明してもらえるとは限りません。
「口座を凍結できた」だけで被害届を出さなくてよいわけではない
金融機関へ連絡して口座を凍結できた場合でも、警察への届出がまだであれば、警察にも被害を申告しておくことが重要です。
金融庁も、振り込め詐欺等の被害に遭った場合には「警察と振込先の金融機関に連絡してください」と案内しています。警察への相談は最寄りの警察署のほか、警察相談専用電話「#9110」も案内されています。[参照:金融庁・振り込め詐欺等の被害にあわれた方へ]
警察への被害申告と銀行への連絡は「どちらか一方をすればよい」のではなく、刑事捜査と被害金回復という異なる目的があるため、両方への対応が基本となります。
警察庁も犯罪利用口座の凍結について金融機関と連携している
犯罪に使われた銀行口座への対応は、警察と金融機関がまったく別々に行っているわけではありません。警察庁では「金融機関に対する犯罪利用預金口座等に係る凍結検討依頼及び凍結口座名義人リスト等の運用」について通達を出しています。[参照:警察庁・組織犯罪対策部関係通達]
このことからも、犯罪利用口座に関する情報が特殊詐欺などへの対策に利用されていることが分かります。
ただし、この仕組みがあるからといって、個々の凍結口座について必ず名義人が逮捕されるという意味ではありません。実際の刑事責任は個別の証拠と捜査によって判断されます。
口座凍結後は「逮捕」と「返金」を分けて考える
被害者にとって非常に重要なのが、犯人の逮捕と被害金の返金は別ルートで進むという点です。犯人がまだ逮捕されていなくても、振込先口座にお金が残っていれば振り込め詐欺救済法による被害回復分配金を受け取れる可能性があります。
金融庁によると、金融機関が犯罪に利用されたと疑うに足りる相当な理由があると認めた口座について所定の手続きを進め、口座名義人の預金等債権が消滅した後、その残高を原資として被害者へ被害回復分配金を支払う制度があります。[参照:金融庁・振り込め詐欺救済法Q&A]
犯人の逮捕を待たなければ返金手続きを始められない制度ではありません。刑事捜査の進展だけを待つのではなく、振込先金融機関へ被害回復分配金について確認することが大切です。
凍結口座にお金が残っていれば返ってくる可能性がある
被害回復分配金の原資になるのは、原則として犯罪利用口座に残っている資金です。そのため、被害直後に金融機関へ連絡することには大きな意味があります。
例えば50万円を詐欺口座へ振り込み、犯人が引き出す前に口座が凍結されて50万円程度が残っていれば、返金につながる可能性があります。一方、凍結前にほぼ全額が引き出されてしまえば、その口座から回収できる金額は少なくなります。
金融庁も「犯人が預金口座等からお金を引き出してしまうと支払は受けられません」と注意喚起しています。詐欺に気付いたら時間を置かず、金融機関と警察へ連絡することが重要です。[参照:金融庁]
口座に残高があっても全額返ってくるとは限らない
口座を凍結できたからといって、自分が振り込んだ金額が必ず全額返金されるわけではありません。同じ口座へ複数の被害者が送金しているケースがあるからです。
金融庁によると、被害回復分配金は口座残高を原資とし、複数の被害者から申請があり、被害額の合計が口座残高を上回る場合には、各被害者の被害額に応じて按分されます。また、預金等債権を消滅させた口座の残高が1,000円未満の場合には支払いが行われません。[参照:金融庁・被害回復分配金について]
例えば口座残高が100万円でも、同じ口座を利用した詐欺の被害総額が500万円あれば、一人だけが100万円を先に受け取れるわけではありません。所定の手続きによって分配額が決定されます。
返金までには半年以上かかることもある
口座が凍結された後、「数日で銀行からお金が戻ってくる」と考えない方がよいでしょう。被害回復分配金には、預金等債権の消滅手続きや支払手続きなどがあります。
金融庁は、実際に被害回復分配金の支払いを受けるまでには少なくとも半年以上かかるのが一般的と案内しています。手続きの進捗によって期間は異なります。[参照:金融庁・振り込め詐欺救済法Q&A]
「凍結されたのに数週間経っても返金されない」というだけで手続きが失敗したとは限りません。進行状況については振込先の金融機関へ問い合わせることができます。
被害回復分配金は自分で申請が必要になる
被害回復分配金については、対象となる支払手続きが開始されたら申請期間内に手続きを行うことが重要です。
金融庁によると、申請には本人確認資料や振込明細書など被害を証明する資料を添えて、振込先金融機関へ提出します。振込明細書を紛失していても申請そのものが不可能になるわけではなく、金融機関へ振込内容などを十分説明することで申請できる場合があります。[参照:金融庁・被害回復分配金の申請方法]
申請期間を過ぎると、その支払手続きから分配金を受け取れなくなるため、金融機関から届く連絡や郵便物は見落とさないようにしましょう。
凍結された口座の手続き状況を確認する方法
振込先口座について被害回復の手続きが進んでいるかは、振込先の金融機関へ問い合わせることができます。
また、対象口座について公告が行われると、預金保険機構が公開する「振り込め詐欺救済法に基づく公告」で、口座の残高や支払申請期間などを確認できます。金融庁の振り込め詐欺救済法ページからも案内されています。[参照:金融庁・振り込め詐欺救済法]
警察に「犯人は捕まりましたか」と問い合わせることと、金融機関に「被害回復分配金の手続きはどうなっていますか」と問い合わせることは目的が異なります。両方を並行して確認するのがポイントです。
警察や銀行へ渡せる証拠は消さずに保存する
詐欺事件では銀行振込の記録だけでなく、犯人とのやり取りが重要な証拠になることがあります。被害に遭った後も、腹立たしさからメッセージやアカウントをすぐ削除しない方がよいでしょう。
保存しておきたいものとしては、振込明細、振込日時、振込先の銀行名・支店名・口座番号・名義、電話番号、メール、SMS、LINEなどのメッセージ、SNSアカウント、相手から送られたURL、契約書や請求書、広告の画面、相手との通話日時などがあります。
ウェブサイトやSNSは削除される可能性があるため、画面のスクリーンショットだけでなくURLや日時も一緒に記録しておくと整理しやすくなります。追加資料が見つかった場合には、すでに相談している警察の担当者へ提出方法を確認するとよいでしょう。
「返金できます」という二次詐欺にも注意
詐欺被害者を狙い、「凍結口座からお金を取り戻せる」「被害金を全額回収できる」などと言って手数料を要求する二次被害にも注意が必要です。
金融庁は過去に、振り込め詐欺救済法による返金制度を装った詐欺について注意喚起しています。振り込め詐欺救済法に基づく被害回復分配金の手続きは、預金保険機構と金融機関によって行われる制度です。[参照:金融庁・返金制度を装った詐欺への注意喚起]
「警察の紹介」「金融庁の指定業者」「被害回復専門機関」などを名乗って突然連絡してきた相手に、追加のお金や暗証番号、インターネットバンキングのパスワード、ワンタイムパスワードなどを渡してはいけません。
口座凍結後に被害者がやっておきたいこと
詐欺の振込先口座が凍結された後は、「あとは警察と銀行に任せれば終わり」と考えず、刑事手続きと返金手続きをそれぞれ確認しておくと安心です。
| 確認事項 | 主な確認先 |
|---|---|
| 詐欺被害の届出・相談 | 警察署 |
| 追加証拠の提出 | 相談・届出をした警察 |
| 口座の凍結・状況確認 | 振込先金融機関 |
| 被害回復分配金の手続き | 振込先金融機関 |
| 公告・申請期間の確認 | 金融機関・預金保険機構 |
特に重要なのは、返金手続きについて警察からの連絡だけを待たないことです。振り込め詐欺救済法による手続きの進捗については、振込先金融機関へ確認してください。
まとめ:口座凍結は重要な一歩だが、それだけで逮捕が決まるわけではない
詐欺の振込先口座が凍結された場合、その口座は事件解明につながり得る重要な手掛かりです。警察が詐欺事件として捜査する場合には、口座名義や取引状況、資金の移動などを含めて犯人へつながる情報を調べる可能性があります。
ただし、口座凍結と刑事捜査は別の手続きであり、「凍結されたから必ず名義人を逮捕する」「名義人が判明したからその人が詐欺の主犯である」とは限りません。第三者の口座が犯罪グループに利用されていることもあるため、警察は実際に誰が口座を管理し、誰が詐欺に関与したのかを証拠に基づいて捜査することになります。
一方、被害金の回復については犯人逮捕とは別に進めることができます。金融庁によれば、犯罪利用口座に資金が残っている場合には、振り込め詐欺救済法に基づく被害回復分配金を受け取れる可能性があります。ただし残高や他の被害者の人数によっては全額返金されない場合があり、実際の支払いまで半年以上かかることも一般的です。[参照:金融庁・振り込め詐欺救済法Q&A]
すでに口座を凍結できている場合は、警察には事件の捜査・追加資料について確認し、振込先金融機関には被害回復分配金の手続きについて確認するというように、二つを分けて対応するのがポイントです。振込明細や犯人とのメッセージなどの証拠も削除せず保存しておきましょう。