有名人のSNS投稿を真似して食中毒になったら法的責任はある?生肉投稿と刑事・民事責任を解説

SNSでは、有名人やインフルエンサーが食事の写真や動画を投稿し、それを見た人が同じ食べ方を試すことがあります。では、加熱用として販売されている肉を生で食べるなど、健康上の危険がある行為を有名人が紹介し、それを真似した人が食中毒になった場合、投稿者は刑事責任や損害賠償責任を負うのでしょうか。

法律上は、「投稿を真似した人に被害が発生した」という事実だけで、直ちに投稿者が犯罪になるわけではありません。刑事責任では故意・過失、投稿と結果との因果関係などが問題となり、民事責任では故意・過失による権利侵害や損害、因果関係などが検討されます。さらに、単なる個人的な投稿なのか、危険な行為を積極的に勧めたのか、広告だったのかによっても評価が変わり得ます。

そして法律以前の問題として、生や加熱不十分の肉には食中毒の危険があります。厚生労働省は、新鮮な肉であっても食中毒菌が付着している可能性があり、肉は中心部まで十分に加熱することが重要だと注意喚起しています。[参照:厚生労働省]

投稿を真似して食中毒になっても、直ちに投稿者が犯罪になるわけではない

刑事責任を考える場合、「その人の投稿を見て真似した結果、食中毒になった」という時間的なつながりだけでは十分ではありません。どのような内容を発信したのか、危険性を認識していたのか、被害の発生を予見できたのか、投稿と被害との間に法律上評価できる因果関係があるのかなど、具体的事情を検討する必要があります。

例えば、有名人が単に自分の食事として「今日はこれを食べた」と写真を掲載し、閲覧者が自主的に同じ行為をしたケースと、「スーパーの加熱用肉も生で食べられる。みんなも試して」と積極的に推奨したケースでは事情が大きく異なります。

さらに、投稿者自身が実際には生肉を食べていなかったのに、注目を集める目的で安全であるかのように演出していた、といった事情が加われば、法的評価の材料も増えます。つまり、「有名人の真似をして被害に遭った=有名人が自動的に有罪」という単純な仕組みではありません。

刑事責任では故意・過失と因果関係が重要になる

他人に健康被害が発生した場面で刑事責任が問題になる場合、傷害罪や過失傷害罪などの成立要件に該当するかが具体的事実に基づいて検討されます。刑法上、故意による傷害については傷害罪、過失によって人を傷害した場合については過失傷害罪の規定があります。

しかし、SNSに危険な食べ方を投稿したというだけで、投稿者が当然にこれらの犯罪に該当するわけではありません。投稿者の認識や行為態様に加え、閲覧者自身が食品を購入して調理・摂取するという独立した行為をしているため、その結果まで投稿者に刑事法上帰属させられるかは慎重な判断が必要です。

例えば「自分は生で食べた」という個人的な体験談と、「これは絶対安全だから子どもにも生で食べさせてください」という具体的な推奨では、危険の作り出し方が同じとはいえません。投稿の文言、対象となった食品、注意書きの有無、投稿者の知識などを含めて個別に判断されます。

「生肉を食べても安全」という情報自体が危険な理由

牛・豚・鶏などの肉には、腸管出血性大腸菌、カンピロバクター、サルモネラ属菌などによる食中毒のリスクがあります。見た目やにおいだけで食中毒菌の有無を判断することはできません。

特に重要なのが、「新鮮だから生でも安全」とは限らないという点です。厚生労働省は、食肉を原因とする食中毒を防ぐため、中心部まで十分に加熱するよう案内しています。[参照:厚生労働省]

例えば、スーパーで一般的な調理用として購入した鶏肉を「新鮮そうだから」と鶏刺しのように食べるのは危険です。農林水産省も、生や加熱不十分な鶏肉料理によるカンピロバクター食中毒について注意を呼びかけています。[参照:農林水産省]

民事では損害賠償責任が問題になる可能性もある

刑事事件にならない場合でも、民事上の責任は別に検討されます。民法709条は、故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者について、これによって生じた損害を賠償する責任を定めています。

そのため、危険性を知りながら安全だと虚偽の説明をして摂取を強く促したなど、具体的事情によっては不法行為責任が争われる余地があります。ただし、ここでも「投稿を見た」「真似した」「体調を崩した」という三つの事実だけから損害賠償義務が自動的に発生するわけではありません。

投稿者の故意・過失、投稿内容と摂取行為・健康被害との因果関係、被害者側の判断や行動などが問題になります。被害者自身にも過失が認められれば、民法722条に基づく過失相殺が問題となる場合もあります。[参照:e-Gov法令検索・民法]

個人的な投稿と「食べることを勧める投稿」は分けて考える

SNS上の情報にはさまざまな段階があります。法律上の評価を考えるうえでも、単なる体験の共有なのか、他人への推奨なのかを区別することが重要です。

投稿の例 考えるべきポイント
「今日これを食べた」と写真だけ掲載 基本的には本人の体験の紹介
「生で食べたらおいしかった」 危険な行為を肯定的に紹介しているか
「スーパーの肉は生で食べても安全」 安全性について事実と異なる説明をしていないか
「絶対安全。みんなも生で食べて」 具体的な危険行為を積極的に推奨しているか
商品提供を受けて安全性を宣伝 広告・表示に関する別の法的問題がないか

もちろん、上の表だけで犯罪や損害賠償責任の有無を判断することはできません。実際の事件では投稿全体の文脈や投稿者・閲覧者の行動などが検討されます。

「真似した側の自己責任」だけですべて終わるとも限らない

SNSを見る側にも、情報をそのまま信じず安全性を確認することは求められます。特に食品の安全性については、有名人の知名度と医学・食品衛生に関する専門性は別物です。「フォロワーが多いから正しい」という保証はありません。

一方で、「SNSを真似したのだから全部自己責任」と必ず結論付けられるわけでもありません。発信者が危険性を認識しながら虚偽の安全情報を意図的に広めていた場合など、事情によって法的評価が変化するためです。

したがって、発信者側と閲覧者側のどちらか一方だけを機械的に責めるのではなく、誰が何を知り、何を伝え、その情報によってどのような行動と結果が生じたのかを具体的に見る必要があります。

有名人やインフルエンサーほど発信時の注意が必要

フォロワーの多い人物による投稿は、多数の人が目にします。法律上の責任が直ちに発生するという意味ではありませんが、影響力が大きいほど危険な情報が拡散した場合の社会的影響も大きくなります。

食品について発信する場合、「自分は大丈夫だった」という経験だけから安全性を一般化するのは避けるべきです。食中毒は、同じ食品を食べても必ず全員が同じ症状になるとは限らないためです。

特に、生食を想定していない食肉について「安全」「絶対大丈夫」などと断定したり、フォロワーへ生食を促したりすることは避け、行政機関など信頼できる情報源に基づいた発信をすることが重要です。

SNSを見た側は「有名人がやっている」より公的情報を確認する

健康や生命に関係する情報については、SNS投稿を実際に試す前に、厚生労働省、農林水産省、自治体などの情報を確認する習慣が有効です。

例えば「この肉は生で食べられるのか」と疑問に思った場合、投稿者が誰かではなく、商品の表示や販売者の案内を確認します。「加熱用」「十分に加熱してください」と表示されている商品なら、その指示に従うべきです。

また、SNS上で危険なチャレンジや食品の摂取方法が流行していても、流行していること自体は安全性の根拠になりません。食品衛生については、公的機関や専門家の情報を優先することが被害防止につながります。

まとめ|SNSを真似した食中毒だけで投稿者が自動的に罪になるわけではない

有名人が生肉を食べる写真を投稿し、それを見た人が真似して食中毒になったとしても、その事実だけで投稿者が自動的に犯罪者になるわけではありません。刑事責任については故意・過失や因果関係など、具体的な事情に応じて犯罪の成立要件を満たすかが問題になります。

民事上の損害賠償についても同様に、投稿者の故意・過失、権利侵害、損害、因果関係などが検討されます。単なる食事写真と、危険性を知りながら「安全だから真似して」と積極的に勧める行為では、法的評価が異なる可能性があります。

そして最も重要なのは、法的責任の有無以前に食中毒を防ぐことです。有名人が食べていたことは食品の安全性を保証する根拠にはなりません。生や加熱不十分な肉には食中毒のリスクがあるため、商品の表示と公的機関の情報に従い、必要な加熱を行うことが基本です。

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