示談金に上限はある?高額な示談金と税金・贈与税の関係、税金逃れ目的の示談が認められない理由を解説

交通事故や傷害、名誉毀損、男女間のトラブルなどでは、当事者同士の話し合いによって解決するために「示談金」が支払われることがあります。そこで気になるのが、示談金には法律上の上限があるのか、当事者が自由に金額を決められるのかという点です。

さらに、損害賠償金や慰謝料には税金がかからないケースがあるため、「贈与する代わりに形式上トラブルを作り、示談金としてお金を渡せば贈与税を回避できるのではないか」と考える人もいるかもしれません。しかし、税務上は単に支払いの名称を「示談金」「慰謝料」「損害賠償金」にすれば非課税になるわけではありません。

この記事では、示談金の金額がどのように決まるのか、損害賠償金等が非課税になるケース、そして実態のない訴訟や示談を利用した贈与税回避がなぜ問題になるのかを整理します。

示談金には法律上の上限があるのか

示談とは、紛争の当事者が話し合いによって解決条件を決めることを一般に指します。そのため、交通事故の慰謝料のように一定の算定基準が存在する分野はあるものの、あらゆる示談について一律に「最高○万円まで」と定めた一般的な上限が存在するわけではありません。

ただし、「上限がない」ということと「被害を主張する側が好きな金額を一方的に決定できる」ということは別です。たとえば被害者が1,000万円を要求すること自体と、相手に1,000万円を支払う法的義務が生じることは同じではありません。示談は原則として当事者間の合意が必要になるため、相手が金額に同意しなければ、その条件で示談が成立するわけではありません。

話し合いがまとまらず裁判になった場合には、実際に発生した損害、行為の内容、因果関係、過失、精神的苦痛など、その事件の具体的事情や証拠を基に裁判所が判断します。したがって、被害者が非常に高額な金額を希望したからという理由だけで、その全額が当然に認められるわけではありません。

「示談金」という名前だけでは税金の扱いは決まらない

税金を考える際に非常に重要なのが、お金の名称だけではなく、その支払いが実際には何のために行われたのかという点です。

国税庁は、交通事故などによって受け取る治療費、慰謝料、一定の損害賠償金について非課税となる場合があることを案内しています。たとえば、心身に加えられた損害について受け取る慰謝料などは非課税となるケースがあります。一方、損害賠償金という名称でも、所得の必要経費を補填する性質の金額などは課税対象になる場合があります。詳しくは国税庁の[参照:加害者から治療費、慰謝料及び損害賠償金などを受け取ったとき]で確認できます。

国税庁は消費税に関する損害賠償金の説明でも、損害賠償金に該当するかどうかについて、名称ではなく実質によって判定する考え方を示しています。[参照:国税庁「損害賠償金」]

本当の損害に対する慰謝料・損害賠償金なら非課税になる場合がある

たとえば交通事故によって負傷し、加害者から治療費や慰謝料を受け取ったケースを考えてみましょう。このような金銭は単なる財産のプレゼントではなく、事故によって発生した損害を補填する目的があります。そのため、税法上の要件を満たす損害賠償金等については所得税が非課税になる場合があります。

重要なのは、現実に損害があり、その損害との対応関係を説明できることです。事故でけがをした、物を壊された、精神的な損害を受けたといった実態があり、その解決として相当な慰謝料・賠償金が支払われる場合と、単に財産を移転したい場合では前提が異なります。

また、すべての「示談金」が自動的に非課税になるわけでもありません。支払いの原因や性質によって所得税その他の税金の扱いが変わる可能性があるため、高額な示談では税理士や税務署への確認が重要になります。

贈与を「示談金」という名前に変えても贈与税を回避できるとは限らない

個人から財産を贈与によって取得した場合、原則として贈与税の対象になります。国税庁も、個人から贈与により財産を取得した場合には贈与税が課されることを案内しています。[参照:国税庁「贈与税がかかる場合」]

そのため、たとえば本当は親から子へ多額の現金を無償で渡すことが目的なのに、形式上だけ「慰謝料500万円」「示談金1,000万円」などという書類を作れば当然に非課税になる、という仕組みではありません。

税金は書類に付けたタイトルだけで判断されるものではないため、実態のない損害や紛争を作って示談金を装う方法を、贈与税回避の手段として利用することは避けるべきです。

わざと訴訟を起こせば非課税の示談金にできるのか

裁判を起こしたという事実そのものが、お金を非課税の損害賠償金に変えるわけではありません。実際には贈与することが目的なのに、税負担を避ける目的で架空の紛争を作り、その解決金として財産を移転するような方法には重大な税務・法的リスクがあります。

たとえば「AさんがBさんへ1,000万円を渡したい」という事情しかないのに、実際には存在しない損害についてBさんがAさんを訴え、その後「1,000万円で和解した」という形を作ったとしても、裁判や和解という外形が存在するだけで、本来の財産移転の性質が必ず変わるわけではありません。

税務では実際の取引内容や資金移動の原因などが問題になります。国税庁の説明でも、離婚による財産分与についてさえ、財産分与が多過ぎる場合や、贈与税・相続税を免れるために離婚したと認められる場合には贈与税が課されるとされています。[参照:国税庁「離婚して財産をもらったとき」]

つまり、形式的な法律行為を用意すれば課税関係を自由に変更できる、と考えるのは危険です。まして、虚偽の事実や証拠を用いて裁判手続を利用することは、税務以外の法的問題につながる可能性もあります。

高額な示談金では「金額の根拠」を残すことが重要

実際のトラブルについて高額な示談をする場合には、「なぜこの金額なのか」を説明できる資料を残しておくことが重要です。事故なら治療費、休業による損害、後遺障害、修理費など、紛争の種類によって金額の根拠となる事情は異なります。

示談書にも、単に「500万円を支払う」とだけ記載するのではなく、何についての解決金なのか、支払期限、支払方法、対象となる紛争、清算条項などを事案に応じて明確にすることが考えられます。特に高額な案件では、弁護士に示談書の作成や内容確認を依頼する意味があります。

さらに、税務上の取扱いは法律上の損害賠償責任とは別の論点です。数百万円・数千万円規模になる場合には、示談成立前に税理士へ課税関係を確認しておくと安全です。

示談金と贈与の違いを具体例で整理

ケース 金銭の性質 税務上の考え方
交通事故で負傷し慰謝料を受領 心身の損害に対する賠償 要件を満たせば非課税となる場合がある
壊された私物について賠償を受領 資産の損害の補填 一定の損害賠償金は非課税となる場合がある
友人から理由なく500万円をもらう 贈与 原則として贈与税を検討する
実際の損害がないのに「示談金」として500万円を受領 名称と実態が一致しない 名称だけで非課税になるとはいえない

このように、判断するときは「示談金という名前かどうか」ではなく、なぜその人がお金を受け取る権利を持っているのかを見ると理解しやすくなります。

まとめ:示談金は自由な交渉が可能でも、税金まで自由になるわけではない

示談金について、すべての事件に共通する一律の上限が設定されているわけではありません。しかし、被害者側が希望する金額を提示できることと、その金額を相手へ法的に強制できることは別問題です。示談なら当事者の合意が基本となり、裁判なら損害や証拠などに基づいて判断されます。

また、本当の心身・資産の損害に対して受け取る慰謝料や損害賠償金には非課税となるものがありますが、「示談金」と名付ければ何でも非課税になるわけではありません。国税庁も損害賠償金について、その内容や性質に応じて課税関係が異なることを示しています。

贈与税を避ける目的で架空の紛争や訴訟を作り、贈与を示談金・慰謝料に見せかける方法は適切な節税策とはいえません。実際に高額な示談を行う必要がある場合には、紛争そのものについては弁護士、課税関係については税理士や税務署へ相談し、実態に即して処理することが重要です。

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