大きな地震が発生すると、道路上の自動車も揺れ、信号待ちなどで停止していた車同士が接触する可能性があります。自分ではアクセルを踏んでいなくても、揺れによって車体が動いたり、前後の車との間隔が変わったりすることは考えられます。
こうしたケースでは、「地震が原因なら普通の交通事故とは違うのではないか」「小さな傷しかなければ警察を呼ばなくてもよいのではないか」と迷いやすいところです。しかし、事故原因と警察への報告義務は分けて考える必要があります。
この記事では、地震発生時に車同士が接触した場合の警察への連絡、道路交通法上の基本的な考え方、地震直後に優先すべき行動、保険会社への連絡まで順番に解説します。
地震によって車同士がぶつかった場合も交通事故として対応するのが基本
道路上で車同士が接触して車両などに損害が生じた場合、運転者自身が意図して車を動かしたかどうかだけで対応を判断するものではありません。地震によって車体が動いたケースであっても、実際に車両同士が接触して損害が生じているのであれば、自己判断で「事故ではない」と処理せず、警察に状況を伝えて指示を受けるのが適切です。
道路交通法第72条では、交通事故があった場合、運転者等は車両を停止し、負傷者の救護や道路上の危険を防止するために必要な措置を行ったうえで、警察官に事故の日時・場所、死傷者、損壊した物やその程度などを報告することが定められています。[参照:e-Gov法令検索・道路交通法]
つまり、「自分の運転ミスではなく地震が原因だった」という事情と、「事故が起きたので警察へ報告する」という手続きは別問題として考えるのがポイントです。
警察への連絡は「誰が悪いかを認めること」ではない
警察へ事故を報告すると、自分の過失を認めることになると思う人もいるかもしれません。しかし、事故の報告と民事上の過失割合は同じものではありません。
例えば赤信号で3台の車が停止しており、強い揺れによって中央の車が前の車に接触し、さらに後ろの車とも接触したとします。この場合、「中央の車が前進操作をしたから衝突した」という通常の追突事故とは事情が大きく異なります。
事故発生時には、まずいつ、どこで、どのような状況で接触したのかを警察に伝えることが重要です。地震による揺れの程度や車両の位置関係などは、その後に事故原因や責任関係を整理する際の重要な事情になり得ます。
地震直後は警察への連絡より先に安全確保が必要になることもある
通常の交通事故では速やかな警察への報告が必要ですが、大地震の最中には何よりも人命を守る行動が重要です。倒壊する建物、落下物、津波、火災、道路の陥没などが迫っている状況で、事故現場にとどまり続けることが安全とは限りません。
警察庁は、大地震が発生した際に運転中だった場合、急ハンドルや急ブレーキを避け、安全な方法で道路の左側に停止し、停止後は地震情報や交通情報を確認して周囲の状況に応じて行動するよう案内しています。[参照:警察庁・大地震が発生したときに運転者がとるべき措置]
したがって、車同士が接触した場合でも、津波警報が出ている、建物が倒壊しそう、火災が迫っているといった緊急時には、その場で事故処理を完了させることより生命の安全を確保することが優先されます。安全な場所へ避難した後、可能になった段階で警察へ状況を説明し、指示を受けることになります。
地震による接触事故が起きたときの基本的な対応
周囲に差し迫った危険がない場合には、通常の交通事故と同様に落ち着いて対応します。特に外見上は小さな接触でも、相手方との連絡先交換だけで済ませてしまわないことが重要です。
基本的には、次のような順序で対応すると整理しやすくなります。
- 自分と同乗者、相手方にけががないか確認する
- 二次事故や落下物など周囲の危険を確認する
- 安全を確保できる範囲で警察へ事故を報告する
- 相手車両の運転者と氏名・連絡先などを確認する
- 安全な状況であれば車両の位置や損傷部分を写真で記録する
- 加入している自動車保険会社・代理店へ連絡する
大規模災害時には110番などが非常に混雑する可能性があります。緊急性の高い救助要請が多数発生することも考えられるため、警察や自治体から災害時の通報方法について案内が出ている場合には、その指示にも従います。
地震が原因なら修理代を必ず相手に払ってもらえるとは限らない
警察への報告とは別に難しいのが、車両の修理費を誰が負担するかという問題です。地震という自然災害が直接の原因で車が動いて接触したケースでは、通常の前方不注意による追突事故と同じように責任を判断できるとは限りません。
例えば、完全に停車していた車が極めて強い地震動によって動き、隣接する車に接触したのであれば、運転者に事故を回避できる可能性があったのかなど、具体的な事情を踏まえて判断する必要があります。そのため、「後ろから当たったから100%後ろの車が悪い」「地震だから誰にも責任がない」などと、その場で決めつけないことが大切です。
自分の車の損害について車両保険を利用できるかどうかについても、契約内容や事故原因によって異なります。地震・噴火・津波による損害は一般的な車両保険では補償対象外となる契約もあるため、加入している保険会社に確認する必要があります。
小さな傷しかなくても警察へ報告しておいた方がよい理由
バンパーに小さな擦り傷が付いただけなど、被害が軽微だと当事者同士で済ませたくなるかもしれません。しかし、道路交通法上の事故報告は、修理費が高いか安いかだけで決まるものではありません。
また、事故後に保険を利用する場合には、事故が発生した事実を確認するため交通事故証明書などが必要になることがあります。事故直後には傷がないように見えても、後からバンパー内部などの損傷が判明する可能性もあります。
地震という特殊な状況だからこそ、当事者だけで事故原因や責任を決めず、警察と保険会社に事実関係を伝えておくことが後々のトラブル防止につながります。
大地震では事故処理そのものが通常どおり進まない可能性もある
震度の大きな地震では、警察も救助活動、交通規制、道路の安全確認など多数の緊急対応を行います。そのため、軽微な物損事故について警察官が通常時と同じ速度で現場に到着できるとは限りません。
警察庁によると、大規模地震発生時には道路の損壊や信号機の作動停止などにも注意が必要であり、地域によっては緊急車両の通行を確保するため交通規制が実施されることもあります。[参照:警察庁・災害時の交通安全]
そのため、警察に連絡した後は「その場で待機するのか」「安全な場所へ車を移動させるのか」などについて指示を確認するのが安全です。余震が続いている状況では、事故車両の確認に気を取られて周囲の危険を見落とさないことも重要です。
まとめ:地震が原因の接触でも警察に状況を報告し、安全を最優先に行動する
信号待ちなどで停車している最中に地震が発生し、揺れによって前後の車と接触した場合でも、車両等に損害が生じる交通事故が発生したのであれば、原則として警察へ報告して状況を説明すると考えておくのが適切です。地震が原因であることは、警察への報告が不要になる理由とは別の問題です。
一方、大地震では津波、火災、建物の倒壊、道路の損壊など、事故処理より緊急性の高い危険が発生することがあります。その場合には生命を守る行動を優先し、安全を確保したうえで警察へ連絡してください。
また、警察への報告をしたからといって、それだけで誰かの過失や損害賠償責任が決まるわけではありません。地震による接触事故では通常の追突事故とは異なる事情があるため、事故状況を記録し、警察への報告とあわせて加入している保険会社にも相談することが大切です。