美容整体院やサロンで初回限定の安い施術を受け、その場で高額な回数券やコースを勧められることがあります。帰宅して冷静になると、「20万円以上払ったけれど本当に通い続けるべきだったのか」「契約書をもらっていない」「クーリングオフ対象外と言われた」と不安になるケースもあります。
ここで重要なのは、店側が「回数券だからクーリングオフできない」と呼んでいるかどうかだけで判断しないことです。実際に提供される施術の内容、契約金額、契約期間、契約方法などによって、特定商取引法上のクーリングオフや中途解約が認められる可能性があります。
この記事では、美容整体・エステ系サービスの高額な回数券を契約した場合に、どのような点を確認すればよいのかを、消費者庁・国民生活センターが公表している制度を踏まえて整理します。
美容整体の回数券なら必ずクーリングオフ対象外とは限らない
まず押さえておきたいのは、一般的な店舗で商品を購入しただけの場合、消費者側の都合でいつでもクーリングオフできる制度があるわけではないという点です。一方、特定商取引法では一定の継続的なサービスを「特定継続的役務提供」として規制しています。
消費者庁の特定商取引法ガイドによると、対象にはエステティック、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、パソコン教室、結婚相手紹介サービスがあります。いわゆるエステティックについては、人の皮膚を清潔・美化したり、体型を整えたり、体重を減らしたりするための施術で、提供期間が1か月を超え、総額が5万円を超えるものが対象となります。[参照]
そのため、「整体」という看板や「回数券」という商品名だけでは結論を出せません。例えば、単に肩こりなどへの一般的な整体施術を都度受けるサービスと、痩身・小顔・体型を整えることなどを目的として継続的な施術を提供するサービスでは、法的な扱いが異なる可能性があります。名称ではなく、実際のサービス内容と契約条件を確認することが重要です。
エステティックに該当する場合は「1か月超・5万円超」が重要
特定商取引法上の「いわゆるエステティック」に該当し、さらに契約期間が1か月を超え、契約総額が5万円を超える場合には、特定継続的役務提供として法律の規制対象になる可能性があります。
例えば、20回分で20万円を超える美容目的の施術コースを契約し、20回を消化する期間が1か月を超える内容であれば、金額・期間の基準は満たすことになります。ただし、最終的には施術内容が法律上のエステティックに該当するかなど、契約全体を確認する必要があります。
国民生活センターも、エステについて利用期間が1か月を超え、総額5万円を超える契約であれば、特定継続的役務提供に該当し、法定書面を受領した日を1日目として8日以内ならクーリングオフできると案内しています。[参照]
| 確認項目 | エステティックの場合の基準 |
|---|---|
| サービス内容 | 皮膚の清潔・美化、体型を整える、体重を減らすための施術など |
| 契約期間 | 1か月を超えるもの |
| 契約金額 | 5万円を超えるもの |
| クーリングオフ | 法定書面を受け取った日から原則8日以内 |
契約書を受け取っていない場合は特に確認が必要
高額な契約なのに「クレジットカードの利用控えを受け取っていない」という点と、「契約書そのものを受け取っていない」という点は分けて考える必要があります。カード利用控えは決済に関する資料ですが、特定商取引法で求められる契約内容を記載した書面とは別物です。
特定継続的役務提供に該当する取引では、事業者には契約内容等を記載した書面の交付についてルールがあります。また、クーリングオフの期間は単純に「契約した日から8日」と考えるのではなく、法律で定められた書面を受け取った日から数えるのが基本です。消費者の承諾がある場合には、一定の要件のもと電子メールなど電磁的方法で提供されることもあります。
国民生活センターは、クーリングオフについて申込書面または契約書面のいずれか早い方を受け取った日から期間を計算し、書面の記載内容に不備がある場合には所定期間を過ぎていてもクーリングオフできる場合があると案内しています。[参照]
したがって、契約書面をまったく受け取っていないのであれば、単に「契約から8日を過ぎたら終了」と自己判断せず、契約内容を整理したうえで消費生活センター等に確認する価値があります。
「回数券だから対象外」という説明だけで判断しない
回数券という言葉から、電車の回数券や商品券のようなものを想像しがちですが、美容サービスの場合には実質的に「一定回数の継続的な施術を受ける権利」を販売しているケースがあります。特定商取引法ガイドでも、一定の要件を満たす役務を受ける権利の販売が規制対象に含まれることが示されています。
つまり、「これはコース契約ではなく回数券なのでクーリングオフできません」という説明だけでは、法律上の結論にはなりません。反対に、美容整体と名乗っているから必ずエステとしてクーリングオフできる、というわけでもありません。
例えば、骨格の調整や一時的な身体のケアを主目的とする一般的な整体であれば、特定商取引法上のエステティックに当たらない可能性があります。一方、小顔、痩身、ボディライン改善などを目的として勧誘され、実際の施術も「体型を整える」ことなどを目的としている場合には、エステティックへの該当性を具体的に検討する必要があります。
契約2日後なら早めに「解約したい」という意思を証拠に残す
契約直後に解約したいと考えた場合、電話だけでやり取りを終わらせるのではなく、解約を申し出た日時と内容が後から確認できる状態にしておくことが大切です。
特定継続的役務提供に該当してクーリングオフする場合、消費者庁は書面または電磁的記録による通知が可能と案内しています。電子メールなら送信済みメールを保存し、ウェブ上の専用フォームを利用するなら送信内容や完了画面のスクリーンショットを保存しておくことが推奨されています。[参照]
特に契約から2日程度しか経過していないのであれば、「対象かどうか分からないから何もしない」という状態は避けたいところです。事業者への意思表示と並行して、消費生活センターに契約内容を説明して確認すると安全です。
まず集めておきたい契約・決済の資料
契約書を受け取っていなくても、契約の内容を確認する材料は残っていることがあります。店舗とのやり取りを削除せず、可能な限り保存しておきましょう。
- 店舗名・所在地・電話番号
- 契約した日時
- 20回など購入した回数
- 施術内容と施術目的
- 契約金額
- 有効期限・利用期間
- クレジットカードの利用明細
- 店舗から受け取ったメールやLINEなど
- 予約画面・会員ページのスクリーンショット
- 広告や初回クーポンの画面
- 勧誘時に説明された内容のメモ
- 解約を申し出た日時と店舗側の回答
正確な契約金額を覚えていない場合でも、カード会社のアプリや利用明細で決済額を確認できることがあります。まず「何円を何という名目で決済したのか」を確定させると、その後の相談がしやすくなります。
また、契約内容が分からないのであれば、店舗に対して契約金額、回数、1回当たりの料金、有効期限、解約条件などが分かる資料の提示を求めることも考えられます。
クーリングオフ期間後でも中途解約できるケースがある
仮に特定継続的役務提供に該当するエステ契約で、クーリングオフ期間を過ぎていたとしても、それだけで「残り20回すべてを利用するしかない」ということにはなりません。
特定商取引法では、対象となる特定継続的役務提供について、契約期間中であれば将来に向かって中途解約できる制度があります。エステティックの場合、サービス開始後の中途解約で事業者が請求できる金額にも上限が設けられています。基本的には、すでに提供されたサービスの対価に加え、2万円または未提供サービス分の10%のいずれか低い額が損害賠償等の上限となります。[参照]
ただし、これも対象となるエステ契約であることが前提です。一般的な整体など特定継続的役務提供に該当しない契約では、契約書や店舗の解約規約、民法・消費者契約法など別のルールを検討することになります。
「クーリングオフできません」と言われたら消費者ホットライン188へ
店舗との見解が食い違っている場合、消費者自身が法律上の「エステ」と「整体」の境界を判断するのは簡単ではありません。そのため、契約金額が20万円を超えるようなケースでは、店舗との交渉だけで結論を出さず、第三者の相談窓口を利用する方法があります。
国民生活センターは、エステの契約やクーリングオフなどで困った場合、最寄りの消費生活センター等への相談を案内しています。全国共通の消費者ホットライン「188(いやや!)」に電話すると、原則として最寄りの消費生活相談窓口につながります。[参照]
相談するときは、「美容整体で20回の回数券を購入した」という説明だけでなく、施術の目的が小顔・痩身・姿勢改善・体型改善などのどれなのか、契約期間、金額、契約書面を受け取ったか、契約から何日経過したか、店舗からどのような説明を受けたかを具体的に伝えると判断材料になります。
まとめ:美容整体の高額回数券は名称ではなく契約の実態を確認する
美容整体の回数券について、「回数券だからクーリングオフ対象外」と一律に判断することは適切ではありません。特定商取引法上のエステティックに該当し、1か月を超える期間・5万円を超える金額などの条件を満たせば、特定継続的役務提供としてクーリングオフや中途解約の対象になる可能性があります。
一方で、「美容整体」という名称だけでエステティックに該当するわけでもありません。施術の具体的な目的・内容、契約期間、総額などから判断する必要があります。
特に、20万円を超える契約をしたにもかかわらず契約書面を受け取っておらず、契約から数日以内に解約を希望している場合は、時間を置かずに契約資料や決済記録を保存し、解約の意思表示を証拠に残したうえで、消費者ホットライン188などへ相談するのが現実的です。高額な美容サービスの契約では、店舗側の説明だけで諦めず、公的な相談窓口で契約の実態を確認することが重要です。