駐車場で車同士の接触事故を起こした際、その場では警察官と傷の位置を確認したものの、帰宅後に「自分の車のこの傷は以前からあったものではないか」と気づくことがあります。また、相手車両の傷についても、本当に今回の事故で付いたものなのか疑問が生じるケースがあります。
こうした場合に重要なのは、「接触事故を起こしたこと」と「どの傷が今回の事故によって生じたか」を分けて考えることです。接触した事実を認めていても、事故前から存在していた傷まで当然に修理費を負担することになるわけではありません。
事故後に新しい事実を思い出したのであれば、警察や加入している自動車保険会社へ、分かったことを事実ベースで伝えることが大切です。その際は相手を「便乗請求している」と決めつけるのではなく、傷の位置・高さ・形状・事故時の車両の動きなどから確認してもらう姿勢がトラブルを防ぎます。
事故後に「この傷は以前からあった」と気づいても伝えることはできる
事故現場では突然の出来事で動揺しているため、車に元からあった細かな傷をすべて正確に思い出せるとは限りません。帰宅して家族に確認したり、過去の状況を思い出したりして、傷の由来に心当たりが出てくることもあります。
その場合は、事故を取り扱った警察署・担当部署へ連絡し、「現場では今回できた傷かもしれないと話したが、帰宅後に家族と確認したところ、以前からあった傷である可能性があることを思い出した」と伝えること自体は可能です。
ここで重要なのは断定できないことまで断定しないことです。「絶対に事故の傷ではない」ではなく、「現場では分からなかったが、以前に自宅駐車場の壁へ接触したことがあり、その際の傷ではないかという心当たりがある」など、記憶している事実を正確に説明します。
警察官が傷の高さを測ったことと修理費の負担は別問題
警察は交通事故の届出を受け、事故状況を確認します。事故を警察へ届けていれば、その警察資料を基に自動車安全運転センターから交通事故証明書を取得することもできます。自動車安全運転センターは、警察へ届出のない事故については交通事故証明書を発行できないと案内しています。[参照:自動車安全運転センター]
しかし、警察官が現場で「この傷ですね」と確認したことだけで、その傷の修理費を最終的に誰がいくら負担するかまで確定するわけではありません。物損事故における損害額や賠償については、保険会社による確認や当事者間の示談など別の手続きがあります。
日本損害保険協会も、物損事故の損害には自動車の修理費などがあり、損害額や過失割合、支払方法などについて当事者双方が合意して損害賠償額が確定すると説明しています。[参照:日本損害保険協会]
事故前からあった傷まで今回の事故の修理費になるとは限らない
交通事故による損害賠償で重要になるのが、事故と損害との因果関係です。日本損害保険協会は、交通事故と相当因果関係のある損害が賠償の対象となり、事故前から存在していた車両損傷については、その分を差し引いて損害賠償額が算定されると説明しています。[参照:日本損害保険協会 交通事故の損害賠償]
例えば相手車両のバンパーに傷A・傷B・傷Cがあり、今回の接触で付いたのが傷Aだけだと判断されれば、事故前から存在していた傷B・Cまで当然に今回の事故による損害になるわけではありません。
反対に「自分の車には対応する傷が見当たらない」という事情だけで、相手の傷が今回の事故とは無関係だと断定することもできません。バンパー、タイヤ、樹脂部品など接触した場所や角度によって、自車側に目立つ傷が残らないケースも考えられるためです。
傷の向きだけで事故との関係を断定するのは難しい
「バックして接触したのだから横傷になるはずなのに、自車には縦方向の短い傷がある」という疑問が生じることもあります。しかし傷の方向だけから事故との因果関係を断定するのは難しいところです。
車同士の接触では、車両の進行方向だけでなく、接触した部品の形、相手車両との角度、バンパーの変形、接触後の車体の動きなどによって傷の形状が変わります。タイヤやホイール周辺が最初に接触した可能性がある場合には、なおさら単純な擦過傷だけとは限りません。
一方、自宅駐車場の縦溝のある壁などに以前接触した記憶があり、その傷の高さ・位置・形状まで一致するのであれば、それは保険会社へ伝える価値のある情報です。可能であれば壁側の高さや形状、過去の写真など客観的な材料も保存しておくとよいでしょう。
相手へ直接疑いをぶつけるより保険会社へ相談する
物損事故で任意保険を利用するのであれば、傷について疑問が生じた段階で、まず契約している保険会社または代理店へ連絡するのが基本です。「相手が便乗していると思う」と伝えるより、「今回の事故で付いた傷なのか確認してほしい」と相談するほうが適切です。
保険会社には、事故状況、自車と相手車両の損傷位置、修理見積もりなどを確認してもらいます。保険金請求では事故を証明する書類や修理費用を確認する書類などが用いられます。[参照:日本損害保険協会 保険金の請求について]
また家族共用車の場合、保険契約者が親であっても、事故を起こした運転者が補償対象に含まれているかを確認します。運転者限定・年齢条件など契約内容によって扱いが異なるため、自己判断せず保険会社へ事故を報告することが重要です。
今から保存しておきたい証拠と情報
事故直後に写真を撮らなかったとしても、今からできることはあります。まず自車の傷を洗車・研磨・修理する前に、車全体が分かる写真、傷の位置が分かる写真、傷を近くから撮影した写真を残します。
自宅駐車場の壁に過去に接触した可能性があるなら、その壁も撮影しておきます。傷の高さと壁の凹凸の高さが比較できるようにメジャーなどを添えて撮影すると、後で状況を説明しやすくなります。
さらに事故日時、駐車位置、バックした方向、どこで停止したか、接触時に感じたこと、警察官との会話、相手との会話、帰宅後に家族から聞いた内容などを、記憶が新しいうちに時系列でメモしておきます。ドライブレコーダーがある場合は上書きされる前に映像を保存します。
相手の傷について確認すること自体は不自然ではない
物損事故で修理費を負担する以上、どの損傷が今回の事故によるものなのか確認すること自体は不合理ではありません。ただし、事故を起こした側から相手へ直接「その傷は元からあったのでは」と強く主張すると、感情的な対立につながる可能性があります。
すでに任意保険会社へ事故連絡をしているのであれば、相手との修理費の話は保険会社を通す方法が無難です。「接触したことは認めているが、事故前からあった可能性のある傷まで今回の損害として扱われることは避けたいので、損傷の整合性を確認してほしい」と担当者へ伝えます。
接触した事実を否定することと、修理対象となる傷の範囲を確認することは同じではありません。実際に事故で生じた損害について適切に対応しながら、事故前の損傷について疑問があれば確認するという姿勢で問題ありません。
示談を急いで確定させないことも大切
事故直後は「早く穏便に終わらせたい」と考えがちですが、損傷範囲について疑問が残っているなら、確認する前に修理費全額を自分で認めたり、示談を成立させたりするのは避けたほうがよいでしょう。
日本損害保険協会も、示談が成立すると基本的には内容の変更・修正ができないため、内容や金額について慎重に判断することが重要だと案内しています。[参照:日本損害保険協会 事故から示談までの流れ]
相手との関係を悪化させたくない場合でも、「保険会社に確認してもらっています」と伝えれば、個人同士で傷の真偽を争う必要性を減らせます。修理工場の見積もりが出た場合も、保険会社の担当者に内容を確認してもらうとよいでしょう。
まとめ:後から傷の由来を思い出したら事実を訂正し、修理範囲は保険会社に確認してもらう
駐車場で接触事故を起こし、現場では自車の傷を今回の事故によるものかもしれないと話したものの、後から以前の傷だった可能性に気づいた場合、その新たに思い出した事情を警察や保険会社へ伝えることはできます。現場で動揺して曖昧な返答をしたからといって、その後に分かった事実まで黙っておく必要はありません。
また、接触事故を起こした事実を認めることと、相手車両に存在するすべての傷について修理費を負担すると認めることは別です。事故前からあった損傷は原則として今回の事故による賠償の対象ではなく、事故との因果関係を確認する必要があります。
自車・相手車両の傷について疑問がある場合は、相手を直接追及するより、現在の傷の写真、事故状況、過去の接触についての情報などを保存し、任意保険会社へ「今回の事故による損傷範囲を確認してほしい」と相談するのが現実的です。事故で実際に生じた損害には誠実に対応しつつ、事故と無関係な損傷まで安易に認めないことが、穏便かつ適切な解決につながります。