街中などで警察官から職務質問を受け、「カバンの中を見せてください」と所持品の確認を求められることがあります。そのとき、下着、医薬品、趣味の品、プライベートな書類など、他人にはできれば見られたくない物が入っていることもあるでしょう。
こうした場合、恥ずかしい物が入っていることを無理に隠したり、その場から逃げようとしたりする必要はありません。「私物で人に見られたくない物が入っています。できれば配慮して確認してもらえませんか」と率直に伝えるのが現実的です。
また、通常の職務質問に伴う所持品検査と、犯罪捜査として令状などに基づいて行われる捜索は同じものではありません。どのような法的根拠で確認を求められているのかによって対応も変わるため、基本的な仕組みを知っておくと落ち着いて対応できます。
職務質問と所持品検査はどのような仕組みなのか
職務質問は警察官職務執行法第2条を根拠として行われます。警察官が、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して、犯罪を犯した、または犯そうとしていると疑う相当な理由がある人などを停止させて質問できる制度です。警察庁の所管法令ページから警察官職務執行法を確認できます。[参照:警察庁 所管法律]
警察庁の資料でも、職務質問に付随する所持品検査について、相手方の任意の協力を得たうえで実施することが基本として示されています。[参照:警察庁資料]
ただし、「任意なら警察官は本人の承諾なしに何もできない」とまで単純化するのも正確ではありません。判例上、職務質問の状況、所持品検査の必要性・緊急性、侵害される利益とのバランスなどによって、承諾がなくても一定の限度で許容され得る場合があります。そのため現場で力ずくの抵抗をするのではなく、疑問があれば確認の目的や根拠を尋ねるのが適切です。
見られたくない物があるなら最初に伝えてよい
カバンの中にプライベートな物がある場合、警察官へその事情を伝えること自体に問題はありません。「見せられません」とだけ言うより、「違法な物ではありませんが、非常に私的な物が入っているので、人目のある場所では出したくありません」と具体的に説明したほうが意図を理解してもらいやすくなります。
例えば、人通りの多い駅前でバッグを確認されるのであれば、「周りの人から見えないように確認していただけますか」とお願いする方法があります。確認が必要だとしても、第三者に中身を見られることへの抵抗感は別の問題だからです。
また、警察官の性別にかかわらず抵抗があるなら、そのことも伝えて構いません。「異性には見られたくない物があります」「可能なら男性警察官に確認してほしいです」などと希望を伝えることはできます。ただし、希望した性別の警察官へ必ず交代してもらえる制度上の保証があるわけではありません。
「恥ずかしい物」の具体的な内容まで先に説明する必要はない
プライバシーに関わる物が入っている場合、周囲に人がいる状態で具体的な品名まで大声で説明する必要はありません。まずは「個人的で人に見られたくない物が入っています」と伝え、必要に応じて警察官と相談すればよいでしょう。
例えば下着、性的なプライベート用品、治療に使用する物、個人的な手紙などが入っていたとしても、それ自体が違法な物でなければ、単に「恥ずかしい」という理由で慌てる必要はありません。
むしろ急にバッグを抱え込んだり、警察官の手を払いのけたり、逃げたりすると、別のトラブルにつながる可能性があります。恥ずかしさと法的な問題は分けて考え、落ち着いて事情を説明することが大切です。
所持品検査を断ればすぐ逮捕されるわけではない
通常の職務質問は、逮捕や令状に基づく強制捜査とは性質が異なります。警察大学校の資料でも、職務質問とそのための停止・同行は任意活動としての性質を持ち、質問への回答を強制するものではないと説明されています。また、所持品検査についても一定の法的限界があります。[参照:警察庁警察大学校資料]
したがって、通常の職務質問でバッグを見せることに抵抗がある場合、「これは任意の確認ですか」「見せる必要がある理由を教えてください」と尋ねることはできます。拒否したという事実だけから直ちに犯罪者になるわけではありません。
一方で、職務質問に伴う所持品検査には判例によって一定範囲の行為が認められているため、「任意だから一切触れさせない権利が常にある」と断定するのも適切ではありません。また、すでに逮捕されている場合や、捜索差押許可状など別の法的根拠がある場合には話が変わります。
令状による捜索の場合は通常の職務質問と区別する
警察官がカバンの確認を求める場面がすべて任意の所持品検査とは限りません。犯罪捜査が進み、裁判官が発付した捜索差押許可状などに基づいて捜索が行われるケースもあります。
警察庁が紹介している捜査事例にも、職務質問の対象者が所持品検査などに応じなかった後、裁判所へ捜索差押許可状を請求し、令状の発付を受けて所持品などを捜索したケースがあります。[参照:警察庁 捜査の最前線]
そのため確認を拒否したい場合には、単に押し問答をするより「これは任意の所持品検査でしょうか。それとも令状などに基づく捜索でしょうか」と確認すると状況を整理しやすくなります。
現場ではどう伝えるのがよい?具体例
職務質問でプライベートな物を見られたくない場合は、感情的に拒絶するより、短く事情と希望を伝える方法があります。
例:「違法な物は入っていませんが、かなり個人的な物があります。周りから見えないように確認してもらえますか?」
例:「異性には見られたくない私物が入っています。可能であれば男性警察官に対応していただくことはできますか?」
例:「所持品を見せてほしいというのは任意のお願いでしょうか。確認が必要な理由を教えてください。」
このように、警察官の業務そのものを妨害するのではなく、自分のプライバシーへの配慮を具体的に求める形にすると意思が伝わりやすくなります。
警察官の性別より「第三者から見えないこと」をお願いする方法もある
「女性警察官には見られたくない」というケースでも、実際には警察官本人より、通行人や知人など周囲の第三者に見られることのほうが困る場合があります。その場合は警察官の性別を変えてもらうことだけにこだわらず、確認場所への配慮を求める方法もあります。
例えば「人通りの多い場所なので、周囲から中身が見えないようにしてください」と伝えることができます。状況によって対応できる範囲は異なりますが、何を嫌だと感じているのかを明確にすることが重要です。
なお、警察署や交番へ同行するよう求められた場合も、通常の職務質問に伴う同行なのか、逮捕などによるものなのかでは法的な意味が異なります。分からなければ「同行は任意ですか」と確認して構いません。
まとめ:恥ずかしい物があるなら率直に伝え、プライバシーへの配慮を求める
職務質問で「カバンの中を見せてください」と言われた際に、異性や第三者には見られたくない物が入っているなら、「違法な物ではありませんが、プライベートな物があるので配慮してほしい」と先に伝えるのが現実的です。
必要であれば、周囲から見えない場所での確認や、可能なら同性警察官による対応を希望することもできます。ただし同性警察官への交代が必ず認められるとは限りません。
また、通常の職務質問に伴う所持品検査と、令状などを根拠とする強制的な捜索は区別する必要があります。対応に疑問があるときは「これは任意ですか」「どのような理由で確認が必要ですか」と落ち着いて尋ね、力ずくで抵抗することは避けるのが大切です。