家庭裁判所の審判で養育費が確定したにもかかわらず支払いがない場合、審判書を債務名義として相手方の給与などに対する強制執行を申し立てることができます。養育費には、すでに支払期日を過ぎた未払分だけでなく、一定の条件のもとで将来支払期日が到来する分についても給与等を継続して差し押さえられる仕組みがあります。
ただし、「20歳になる月まで。その後、大学等に在籍していれば22歳になった後最初に到来する3月まで」といった条件付きの審判では、単純に22歳後の3月までを当然に将来分として記載できるとは限りません。強制執行では審判書の主文・債務名義に書かれた支払義務の内容を正確に反映する必要があり、特に「大学等に在籍していれば」という条件をどう扱うかが重要です。
以下では、養育費の給与差押えにおける将来分の考え方と、大学在籍を条件に支払期間が延長される審判で注意すべきポイントを整理します。個別事件では審判主文の正確な文言によって扱いが変わり得るため、最終的な記載方法は申立先の地方裁判所の民事執行担当窓口や弁護士へ確認することが重要です。
養育費は未払分だけでなく将来分の給与差押えもできる
通常の金銭債権では、まだ支払期限が来ていない債権を直ちに取り立てることはできません。しかし養育費などの扶養義務に基づく定期金債権には特別な仕組みがあります。一度でも期限が到来した養育費が支払われていない場合、一定の要件のもとで、まだ期限が到来していない将来分についても給与など継続的に支払われる債権を差し押さえることができます。
裁判所も、養育費の債権差押えについて「すでに支払期が過ぎている養育費だけではなく、まだ期限が来ていない分も請求する場合」の専用書式を公開しています。[参照:裁判所・養育費等に基づく差押えの請求債権目録]
給与を差し押さえる場合についても、裁判所は未払分と将来分を合わせて請求するときの「差押債権目録」を用意しています。つまり養育費の場合、毎月不払いが発生するたびに必ず新しい給与差押えを申し立てなければならない制度ではありません。[参照:裁判所・養育費等に基づく差押えの差押債権目録]
「20歳まで、大学在籍なら22歳後の3月まで」という審判のポイント
問題になりやすいのが、養育費の終期に条件が付いているケースです。例えば審判書が「子が満20歳に達する月まで」としたうえで、「その時点で大学等に在籍している場合には、満22歳に達した後最初に到来する3月まで」と定めているケースです。
この場合、20歳までの支払義務と、大学等への在籍という条件が満たされた場合の延長部分を分けて考える必要があります。特に将来分の給与差押えでは、現時点ですでに大学在籍という条件が成立していることと、将来20歳になった時点で大学に在籍しているかどうかが未確定であることは同じではありません。
また「現在大学生だから22歳後の3月まで自動的に差押えできる」と一般化するのも危険です。審判主文がどの時点の在籍を条件としているか、条件付き債権として執行上どのように扱われるかを確認する必要があります。
現在19歳で4年制大学に在籍している第一子の場合
例えば第一子が現在19歳で4年制大学に在籍しており、審判書が「満20歳になる月まで。ただし大学等に在籍している場合には満22歳になった後最初に到来する3月まで」と定めているとします。
このケースでは、現在すでに大学へ在籍しているという事実があります。ただし、そこから直ちに「22歳後の3月までの全期間を確定期限が到来していない定期金債権として記載できる」と断定するのは避けるべきです。審判の具体的な文言によっては、20歳到達時など一定時点での在籍が支払期間延長の条件になっている可能性があるからです。
したがって第一子については、審判書主文をそのまま申立先の地方裁判所の債権執行担当へ提示し、「大学在籍を条件とする20歳以降の部分を今回の将来定期金債権に含められるか」を確認するのが確実です。在学証明書など条件成就を示す資料について案内される可能性もあるため、自己判断で終期を書き換えないことが重要です。
現在16歳の高校生で大学進学予定の場合
第二子が現在16歳の高校生で、将来は大学進学を予定しているケースでは事情が異なります。「進学予定」は、現時点で大学等に在籍していることを意味しません。受験結果、本人の進路変更、就職などによって将来の状況が変わる可能性があります。
審判書が「20歳になる月まで」を基本的な終期とし、大学等への在籍を条件に22歳後の3月まで延長すると定めているのであれば、現時点で無条件に存在する部分としては、まず20歳までを基準に考えるのが自然です。
ただし、ここでも審判書の具体的文言が最優先です。「大学進学予定だから22歳まで」と当事者側で推測して請求債権目録へ記載するのではなく、現時点で条件が成立していない延長部分を今回の申立てでどのように扱うべきか、申立先裁判所へ確認するのが安全です。
20歳になった時点で大学在籍が確定したら再申立てが必要?
第二子が20歳になった時点で実際に大学等へ在籍し、審判で定められた延長条件が成立した場合には、その時点で20歳以降の養育費について執行できる状態になる可能性があります。
もっとも、今回の差押命令がどの範囲まで発令されるかによって、その後の手続は変わります。今回の差押えが20歳までの債権のみを対象として終了する内容なら、延長条件が成立した後の養育費について、必要に応じて改めて差押えを申し立てることが考えられます。
一方で、条件付きの延長部分を含めてどのような差押命令が可能なのかは、債務名義の記載内容と執行裁判所の判断に関わります。そのため「必ず再申立てになる」と断定せず、最初の申立て時に第二子の条件付き延長部分についても担当書記官へ確認しておくと、その後の手続を見通しやすくなります。
給与差押えでは勤務先が「第三債務者」になる
給与差押えでは、養育費を支払う義務がある相手方が「債務者」、勤務先会社が「第三債務者」となります。勤務先が大企業かどうかによって養育費債権の内容が変わるわけではありません。
会社が法人の場合には、申立てに第三債務者である会社の資格証明書が必要になることがあります。東京地方裁判所の案内では、第三債務者が法人の場合、申立日から3か月以内に発行された代表者事項証明書を必要書類として案内しています。[参照:東京地方裁判所・養育費等に基づく差押え]
上場企業であっても、申立書では会社名を知っているだけでは足りず、本店所在地や代表者など第三債務者を正確に特定する必要があります。登記事項と勤務先としての実態を確認しておくことが大切です。
審判書だけでなく確定証明書・送達証明書なども確認する
家事審判に基づいて給与差押えを申し立てる場合には、債務名義となる審判書だけを提出すればよいとは限りません。裁判所の案内では、審判書正本に加えて確定証明書、送達証明書などが必要書類として挙げられています。
申立書は一般に、申立書表紙、当事者目録、請求債権目録、差押債権目録などから構成されます。「請求債権目録」は何をいくら請求するのかを特定するもの、「差押債権目録」は勤務先に対する給与債権のうち何を差し押さえるのかを特定するものなので、名称が似ていても役割が異なります。
特に複数の子について養育費を請求する場合には、裁判所が「子が複数」の専用書式を公開しています。未払額、将来分、各子の支払終期を混同しないよう、裁判所の最新書式を利用することが重要です。[参照:裁判所・請求債権目録の書式]
未払額と将来分を分けて計算する
請求債権目録を作成するときには、すでに期限が到来している未払養育費と、まだ期限が到来していない将来の定期金債権を分けて整理すると分かりやすくなります。
例えば月額5万円で3か月分が未払いなら、原則として期限到来済みの元本は15万円です。それとは別に、翌月以降の月額5万円について、債務名義で認められた終期までの将来分を扱うことになります。
途中まで一部支払いがある場合はさらに注意が必要です。いつの分として支払われたのかを確認し、すでに弁済された金額を二重に請求しないよう、通帳、振込履歴、審判で定められた各月の支払日を時系列で整理しておくとよいでしょう。
2026年から養育費の執行制度にも変更がある
養育費をめぐる民事執行制度は改正が行われており、裁判所は令和8年(2026年)4月から、養育費等の扶養義務に係る定期金債権について、財産調査と判明した給与への差押えを一つの申立てにつなげる「ワンストップ執行手続」を案内しています。[参照:裁判所・財産開示]
もっとも、すでに相手方の勤務先が正確に判明しているケースでは、通常の給与差押えを利用できる場合があります。どの手続を選ぶべきかは、債務名義や把握している財産・勤務先情報などによって異なります。
裁判所の書式も制度改正に伴って更新されるため、過去にインターネット上で配布された書式を流用するのではなく、申立てをする時点で裁判所公式サイトから最新の書式・記載例を取得するのが安全です。
まとめ:大学在籍を条件とする将来分は審判主文を確認して記載する
養育費が一度でも不払いとなった場合、給与など継続的に支払われる債権に対しては、期限到来済みの未払養育費とともに、まだ期限が到来していない将来分を差し押さえられる制度があります。そのため、毎月の不払いごとに一から手続を繰り返す必要があるとは限りません。
一方、「20歳まで。ただし大学等に在籍していれば22歳後の最初の3月まで」という条件付きの審判では、20歳以降の部分を現在の差押申立てへどこまで含められるかは、審判主文の正確な文言と条件の成就状況を確認して判断する必要があります。現在大学生の19歳の子と、まだ高校生で大学進学予定の16歳の子では、条件が現時点でどこまで成立しているかも異なります。
このようなケースでは、審判書正本を手元に置いたうえで、申立先となる地方裁判所の民事執行・債権執行担当へ「この主文の場合、各子について確定期限未到来の定期金債権を何月分まで記載するか」を確認するのが最も確実です。必要に応じて弁護士へ審判書そのものを見せて相談すれば、過大請求や将来分の記載漏れを防ぎやすくなります。