信号のない交差点で自転車と自動車が出会い頭に衝突した場合、「自転車が逆走していた」「自動車は一時停止してから徐行していた」といった事情があると、どちらの過失が大きくなるのか判断が難しくなります。
特に注意したいのは、「自転車が逆走していたから自転車が100%悪い」「自動車が一時停止したから自動車は0%」とは通常いえないことです。交通事故の示談では、事故類型に応じた基本過失割合を出発点として、一時停止、右側通行、速度、見通し、衝突位置などの具体的事情を加味して割合を調整します。
この記事では、信号のない交差点で自動車側に一時停止規制があり、自動車が停止後に徐行して進入したところ、右側通行していた自転車と接触したようなケースを中心に、過失割合の考え方を整理します。
まず確認|自転車の「逆走」は道路交通法上どう扱われる?
自転車は道路交通法上の軽車両です。警察庁が示す「自転車安全利用五則」でも、車道通行が原則であり、車道では左側を通行することが明記されています。[参照] 警察庁「自転車は車のなかま」
したがって、車道の右側を自転車で進行していたのであれば、一般に「逆走」と呼ばれる右側通行に該当する可能性があります。事故の過失割合を決める際にも、自転車の右側通行が修正要素として考慮される類型があります。
ただし、「逆走」という言葉だけで判断するのは危険です。自転車が車道を右側通行していたのか、歩道を通行していたのか、自転車道・自転車通行帯だったのかによって適用される交通ルールや事故類型が変わるためです。
自動車側に一時停止標識がある交差点の基本過失割合
交通事故実務で参考にされる「別冊判例タイムズ」の基準では、信号のない交差点で直進自動車と直進自転車が衝突し、自動車側に一時停止規制がある場合、基本過失割合は自動車90%・自転車10%とされる類型があります。[参照] さいとうゆたか法律事務所「信号機のない交差点での過失割合」
反対に、自転車側に一時停止規制があり、自転車がそれを無視して進入した類型では、基本割合が自動車60%・自転車40%とされます。つまり「車対自転車なら常に車が90%」というわけではありません。
| 信号のない交差点の代表例 | 自動車 | 自転車 |
|---|---|---|
| 自動車側に一時停止規制 | 90% | 10% |
| 自転車側に一時停止規制 | 60% | 40% |
※上記は典型的な直進同士の事故における基本割合であり、個別事故の最終的な割合ではありません。事故態様や修正要素によって変動します。
車が一時停止してから徐行した場合はどうなる?
ここが非常に重要です。一時停止規制が自動車側にあったとしても、実際に自動車が停止線で一時停止し、安全確認をして低速で交差点へ進入した事情は、過失割合を検討するうえで意味があります。
前述の判例タイムズの基準を紹介する弁護士の解説では、自動車側に一時停止規制がある事故について、自動車が一時停止した場合には10%の修正が考えられるとされています。つまり基本の「車90:自転車10」から、「車80:自転車20」程度が検討対象になるケースがあります。
ただし、「停止線で止まった」という事実だけで自動車の責任が大幅になくなるわけではありません。一時停止は、単に車輪を一度止めれば終わりではなく、その後に交差道路の安全を確認して進行することが重要だからです。
自転車の逆走があればさらに自転車側の過失が増える?
自転車の右側通行は、事故類型によって過失割合の修正要素になります。例えば、一時停止規制のない同幅員の信号なし交差点における自転車と自動車の出会い頭事故では、基本割合を自転車20%・自動車80%としたうえで、「自転車が右側通行・左方から進入」という事情について自転車側に5%を加算する基準が紹介されています。[参照] 横浜都筑法律事務所「自転車と車の過失割合」
ただし、この「5%」をあらゆる事故へ機械的に加算できるわけではありません。自動車側に一時停止規制があるケースは別の事故類型ですし、自転車がどちらから交差点へ進入したか、右側通行によって自動車からの発見が困難になったかなども問題になります。
したがって、「車が一時停止したから80:20、さらに逆走だから75:25」と単純計算して確定させることはできません。75:25や80:20といった割合が交渉上検討される余地はありますが、現場状況を確認しないまま断定するのは適切ではありません。
実際の裁判でも「一時停止した車」が必ず有利になるわけではない
参考になる裁判例として、名古屋地方裁判所の2019年12月20日判決があります。紹介されている事案では、自動車側に一時停止規制があり、自動車は交差点へ入る前に停止し、低速で進入していました。
それでも裁判所が認定した割合は自動車90%・自転車10%でした。自動車側が右方だけを確認して左方を十分確認していなかった事情などが指摘されています。[参照] 裁判例を紹介する弁護士解説
この例からも分かるように、「停止した」「徐行した」という事実だけを見るのではなく、停止後にどこまで安全確認をしていたのかが重要です。ドライブレコーダー映像が残っていれば、停止時間、再発進時の速度、自転車が見えるようになった時点、ブレーキ操作などを客観的に確認できます。
「車は一旦停止したのに事故になった」場合のポイント
一時停止した自動車と自転車が接触した事故では、次のような事情をまとめて確認する必要があります。
- どちら側の道路に一時停止標識・停止線があったか
- 自動車が実際に完全停止していたか
- 停止後の速度はどの程度だったか
- 交差点の左右の見通しはどうだったか
- 自転車は車道・歩道・自転車通行帯のどこを走っていたか
- 自転車が道路の左側・右側のどちらを走行していたか
- 自転車が交差点の左右どちらから来たか
- 自転車の速度や減速の有無
- 自動車と自転車のどの部分が接触したか
- ドライブレコーダーや防犯カメラ映像があるか
例えば、自動車が停止線で完全停止し、死角があるため少しずつ前へ出ていたところ、高速の自転車が通常予想しにくい方向から右側通行で飛び込んできた場合には、自転車側の過失を増やす事情が複数存在する可能性があります。
逆に、車が形式的には一時停止したものの、その後ほとんど左右確認をせずに交差点へ進入した場合には、「一時停止した」という一点だけを理由に自動車側の過失を大きく減らすことは難しくなります。
自転車が逆走していても車が0%になりにくい理由
自転車は軽車両なので交通ルールを守る義務があります。そのため右側通行などの違反が事故発生に影響していれば、自転車にも過失が認定され得ます。
一方、自動車の運転者にも交差点進入時の安全確認義務があります。特に自動車側に一時停止規制が設けられている交差点では、その規制自体が自動車側に慎重な進行を要求しています。
そのため、典型的な出会い頭事故では「相手が逆走していた」というだけで自動車0%・自転車100%になるとは考えにくく、双方の行動と事故回避可能性を比較して割合が決められます。
検査入院して翌朝退院した場合は過失割合に影響する?
事故後に自転車側が念のため検査入院し、翌日に退院したという事情は、主として損害額や人身事故としての処理に関係する事情です。入院したから自転車側の過失が小さくなる、あるいは軽傷だから自動車側の過失が小さくなる、という単純な関係ではありません。
過失割合は基本的に「事故がどのように発生したのか」を基準に判断します。一方、治療費、入院費、通院交通費、休業損害、慰謝料などは、発生した損害を算定する段階で問題になります。
例えば損害額が100万円で自転車側の過失が20%と認定されれば、過失相殺によって賠償額を調整するというのが基本的な考え方です。ただし、自賠責保険の傷害部分には独自の減額ルールがあるため、実際の支払額を単純に「100万円×80%」だけで計算できるとは限りません。
示談交渉ではドライブレコーダーが非常に重要
「車は確実に一時停止した」「自転車は逆走していた」という主張が双方で食い違った場合、客観的な証拠が重要になります。特に有力なのがドライブレコーダー映像です。
映像には、停止線で車が完全に停止したか、交差点へどの程度の速度で進入したか、自転車がどちらから現れたか、発見から衝突まで何秒あったかなどが残っている可能性があります。
上書きされる前に事故時の映像を別媒体へ保存しておくことが大切です。交差点周辺の店舗や住宅などに防犯カメラがある場合もありますが、保存期間が短いことがあるため、必要であれば保険会社や弁護士を通じて早めに対応を検討します。
保険会社から提示された過失割合は確定ではない
示談交渉で保険会社から「今回はこちらが80、相手が20です」などと提示されても、それだけで法律上の過失割合が確定するわけではありません。保険会社は事故状況や過去の裁判例、実務上の基準などを参考に割合を提示します。
納得できない場合には、どの事故類型を基準にしたのか、どの修正要素を適用したのかを確認することが重要です。「自転車の右側通行を考慮しているか」「車の一時停止を修正要素として評価したか」と具体的に確認すると争点を整理しやすくなります。
自動車保険に弁護士費用特約が付いている場合は、過失割合について交通事故を扱う弁護士へ相談する方法もあります。特にドラレコ映像と保険会社の提示割合が大きく食い違っているケースでは、個別判断を受ける価値があります。
まとめ|「車が一時停止・自転車が逆走」だけでは割合は確定しない
信号のない交差点で自動車側に一時停止規制がある直進車同士の事故では、実務上の基本過失割合として自動車90%・自転車10%が出発点になる類型があります。ただし、自動車が実際に一時停止していた場合には、自動車側の過失を10%程度減らす修正が検討されることがあります。
さらに自転車の右側通行が事故発生に影響していた場合には、自転車側に不利な事情となる可能性があります。しかし、右側通行の修正を機械的に加算して「必ず75:25」「必ず80:20」などと決めることはできません。
重要なのは、一時停止規制がどちら側にあったか、自転車がどこをどう走っていたか、左右の見通し、自動車の停止後の安全確認、双方の速度、衝突位置を総合的に確認することです。
また、検査入院して翌朝退院したという傷害の程度と、事故そのものの過失割合は分けて考える必要があります。実際の示談では、まずドライブレコーダー映像を確実に保存し、保険会社が採用した基本割合と修正要素を確認したうえで交渉するのが現実的です。
※本記事は一般的な交通事故実務の考え方を解説したもので、個別事故の過失割合を確定するものではありません。道路形状、規制、当事者の進行方向、年齢、速度、見通し、証拠などによって結論は変わります。