兄弟3人の相続で「遠方だから現金だけ欲しい」は通る?預金・土地・建物の遺産分割と不動産を誰も欲しくない場合の解決策

両親が亡くなり、子ども3人で預金・土地・建物を相続する場合、「現金を多く受け取りたい人」と「使い道のない不動産を引き取りたくない人」の対立が起きることがあります。特に一人が遠方に住んでいると、「不動産の管理ができないから現金だけを相続したい」と主張するケースがあります。

しかし、遠方に住んでいるという理由だけで、その相続人に預金だけを優先的に取得できる法律上の権利が生じるわけではありません。相続人全員が合意すれば「遠方の相続人は現金、近くの相続人は不動産」という分け方はできますが、一人が希望しただけで他の相続人に不動産を押し付けられるわけではありません。

また弁護士が代理人として「現金のみを希望する」と主張していても、それは依頼者の希望・交渉案を示しているという意味です。弁護士が付いたことによって、その人だけに現金を取る特別な権利が発生するわけではありません。誰も不動産を欲しくないのであれば、不動産を売却して現金化する「換価分割」などを含めて検討することになります。

父も母も亡くなり子ども3人だけなら法定相続分は原則3分の1ずつ

父母がともに亡くなり、父の相続について配偶者がおらず、相続人が子ども3人だけである場合、遺言など特別な事情がなければ、法定相続分は原則として3人それぞれ3分の1です。

民法900条では、同順位の子が複数いる場合、その相続分は原則として等しいと定められています。[参照:e-Gov法令検索「民法」第900条]

ただし「3分の1」というのは、預金を3分の1、不動産を3分の1ずつ必ず受け取るという意味ではありません。遺産全体の価値を基準として、誰がどの財産を取得するかを遺産分割協議で決めることができます。

「遠方だから現金だけ欲しい」は希望としては言えるが、当然には通らない

相続人が遠方に住んでいて、不動産を管理できないから現金だけ欲しいと希望すること自体は自由です。遺産分割協議では、それぞれが希望する分け方を主張できます。

しかし、遠方居住だから預金を優先的に取得できるという民法上のルールはありません。近くに住む兄弟も「自分も不動産は使わないので現金が欲しい」と希望しているなら、原則としてその希望も同じように考慮されます。

つまり「遠くに住んでいるから不動産を相続できない」「実家の近くに住んでいる人が土地と家を引き取るべき」という自動的な決まりはありません。住所の近さだけで相続財産の種類が決まるわけではないのです。

弁護士が「現金だけ欲しい」と言ってきても、それが法的な決定ではない

相続人の一人が弁護士を依頼すると、弁護士から遺産分割案や要求が書面で届くことがあります。しかし、弁護士の通知書は裁判所の判決や審判ではありません。

例えば「依頼者は預貯金のみの取得を希望します」「不動産については他の相続人が取得してください」と書かれていても、これは基本的には交渉上の提案です。他の相続人が同意しなければ、それだけで分割方法が確定することはありません。

弁護士が付いている相続人の希望が、付いていない相続人の希望より法律上優先されるわけではありません。内容に納得できない場合は、その場で同意せず、自分側も弁護士へ相談して条件を整理することができます。

預金だけを一人に渡し、残り2人が不動産を取る分け方は全員合意なら可能

遺産分割は、相続人全員が合意すればかなり柔軟に決められます。例えば、預金3,000万円、不動産評価額6,000万円で、子ども3人が相続人なら、単純計算では一人3,000万円相当が一つの基準になります。

この場合、一人が預金3,000万円を取得し、残る二人が不動産を3,000万円相当ずつ取得するという現物分割は可能です。全員が納得していれば、住所が遠いか近いかは問題になりません。

ところが不動産が売りにくい、維持費がかかる、誰も住まないなどの事情があると、「評価額3,000万円の不動産」と「現金3,000万円」は心理的・経済的に同じ価値とは感じられないことがあります。ここが相続トラブルになりやすいポイントです。

不動産は固定資産税評価額だけで決めない方がよい

土地や建物について「評価額が3,000万円だから現金3,000万円と同価値」と単純に扱うのは注意が必要です。相続税評価額、固定資産税評価額、路線価、不動産会社の査定価格、実際に売却できる価格はそれぞれ異なります。

特に地方の古家、再建築しにくい土地、接道条件の悪い土地、老朽化した建物などは、帳簿上の評価額があっても、実際にはなかなか売れないことがあります。建物解体費や残置物処分費が必要になる場合もあります。

誰か一人に不動産を取得させる案を検討するなら、できれば複数の不動産会社から査定を取り、実際の市場価値を確認してから預金とのバランスを考える方が公平です。

3人とも不動産が欲しくないなら「換価分割」が有力

相続人3人とも「できれば現金が欲しい」「誰も土地や家を使わない」という状態なら、最も分かりやすい方法の一つが換価分割です。

換価分割とは、相続した土地や建物を売却し、売却代金を相続人間で分ける方法です。裁判所も遺産分割の方法として現物分割・代償分割・共有分割・換価分割を案内しています。[参照:裁判所「遺産分割調停」]

例えば預金1,500万円、不動産を売却した手取りが1,500万円なら、遺産全体3,000万円を3人で1,000万円ずつ分けるといった形が考えられます。誰か一人だけが売りにくい不動産を引き取る不公平感を減らせます。

換価分割では「売却価格」ではなく手取り額を見る

不動産を2,000万円で売却できたとしても、その2,000万円がそのまま相続人へ残るとは限りません。仲介手数料、測量費、登記関係費用、残置物処分、建物解体費などが必要になるケースがあります。

また取得費や売却価格などによっては譲渡所得税が発生する可能性があります。国税庁の資料でも、換価分割は相続財産を金銭に換価し、その換価代金を分割する方法として整理されています。[参照:国税庁「相続税法」教材]

したがって「土地が2,000万円で売れるから3人で666万円ずつ」と決める前に、売却に必要な経費と税金を確認しておく必要があります。

一人が不動産を取り、他の兄弟へ現金を払う「代償分割」もある

誰か一人が実家を残したい、将来自分で利用したいという場合には代償分割が使われることがあります。これは特定の相続人が不動産を取得し、その代わりに他の相続人へ代償金を支払う方法です。

例えば遺産が3,000万円相当の家だけで子ども3人なら、長男が家を取得し、長男自身の預金から次男と三男へそれぞれ1,000万円ずつ支払うといった形です。

ただし裁判所が説明しているとおり、代償分割には不動産を取得する人に代償金を支払えるだけの資力が必要です。[参照:京都家庭裁判所「遺産分割調停」]

誰も不動産を欲しくないのに、近くの兄弟へ押し付けるのは合理的とは限らない

実家の近くに住んでいるというだけで、その人が不動産を必要としているとは限りません。使わない土地や建物を取得すれば、固定資産税、草刈り、修繕、火災・倒壊への対応など管理負担が生じます。

空き家の場合は、定期的な換気や庭木の管理、近隣対応なども必要になります。建物の状態が悪ければ解体費用が将来発生する可能性もあります。

したがって「遠方の一人には現金、近くの二人には不動産」という案が公平かどうかは、単純な距離ではなく、不動産の実際の価値と将来負担まで考えて判断する必要があります。

不動産を兄弟3人の共有にする方法もあるが慎重に

話がまとまらないと「とりあえず土地と家を3人共有にしておく」という案が出ることがあります。遺産分割の方法として共有分割自体はあります。

しかし裁判所も、共有分割について、将来管理や処分方法をめぐって共有者間の意見が食い違う可能性があるため注意が必要と説明しています。[参照:裁判所「遺産分割調停」]

特に一人が遠方、二人が地元という状況では、草刈り・修繕・売却時期などをめぐって負担が偏ることもあります。将来さらに子や孫へ相続されると共有者が増える可能性もあるため、共有は「とりあえず」の解決策として安易に選ばない方がよいでしょう。

預貯金も現在は遺産分割の対象になる

以前は預貯金について相続開始時に当然分割されるという考え方がありましたが、最高裁判所大法廷は2016年12月19日、共同相続された普通預金・通常貯金・定期貯金について、相続開始と同時に当然に相続分で分割されるものではなく、遺産分割の対象になると判断しました。

つまり「自分の法定相続分3分の1に当たる預金だけ先にもらう」ということが当然にできるわけではなく、基本的には遺産全体の分割の中で調整されます。

そのため一人だけが「預金から自分の3分の1をもらい、不動産には一切関与しない」と一方的に確定させられるものではありません。

具体例|預金2,400万円、不動産3,600万円ならどう分ける?

子ども3人が相続人で、遺産が預金2,400万円、不動産の実勢価値3,600万円、合計6,000万円だとします。特別受益や寄与分などを考えない単純なケースなら、一人当たりの取得目安は2,000万円です。

遠方の一人が「現金2,000万円だけ欲しい」と希望し、残りの二人が同意すれば、その人に預金2,000万円を配分することはできます。残る二人は、預金400万円と不動産3,600万円を合わせて4,000万円相当取得する形です。

しかし残り二人も不動産を欲しくないのであれば、その案に同意する義務はありません。不動産を売却して現金化し、最終的に3人で均等に分ける案を提示することもできます。

不動産が「売れない」場合はさらに慎重に評価する

問題が難しくなるのは、家や土地に買い手が付かない場合です。例えば査定では500万円でも、実際に何か月売り出しても買い手が付かないなら、その不動産を現金500万円と完全に同じものとして扱うと不公平感が生じます。

反対に「使えない土地だから価値0円」と相続人の感覚だけで決めるのも適切ではありません。第三者への売却可能性、固定資産税、建物の状態、接道、賃貸可能性などを専門家に確認した方がよいでしょう。

必要なら不動産鑑定士による評価を検討することもあります。家庭裁判所の遺産分割調停でも、必要に応じて遺産について鑑定を行うことがあります。[参照:裁判所「遺産分割調停」]

3人で話がまとまらなければ家庭裁判所の遺産分割調停へ

相続人全員で協議しても分割方法が決まらない場合は、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てることができます。

裁判所によると、調停では当事者それぞれから事情を聴き、資料を確認し、必要に応じて鑑定なども行いながら、それぞれが希望する分割方法を確認して合意を目指します。[参照:裁判所「遺産分割調停」]

調停で合意できなければ、原則として審判へ移り、裁判官が遺産の種類・性質その他の事情を考慮して分割方法を判断します。つまり最後まで「遠方だから現金」という一人の希望だけで決まるわけではありません。

審判では不動産の売却を命じることもある

誰も不動産を取得したくなく、代償金を払って引き取る人もいない場合には、換価分割が現実的な選択肢になります。

裁判所の遺産分割資料では、当事者全員が合意すれば不動産を任意売却することができ、合意できない場合には審判で競売を命じる方法があると説明されています。一般には競売より任意売却の方が選ばれることが多いとされています。[参照:広島家庭裁判所「遺産分割手続について」]

競売になると任意売却より条件が悪くなる可能性もあるため、誰も不動産を必要としていないのであれば、紛争が長期化する前に全員で売却条件を決める方が経済的な場合があります。

近くに住んでいる2人が管理してきた事情は自動的に取り分を増やすわけではない

実家の近くに住む兄弟が、親の生前に介護や財産管理をしていたり、死亡後に土地・建物を管理したりしているケースもあります。しかし「近くに住んで面倒を見た」というだけで、自動的に相続分が増えるわけではありません。

被相続人の財産の維持・増加について通常期待される程度を超えた特別な貢献があった場合には、「寄与分」が問題になることがあります。家庭裁判所にも寄与分を定める手続があります。[参照:裁判所「相続に関する調停」]

一方、死亡後に一人だけが固定資産税、庭の管理費、修繕費などを立て替えているのであれば、その支出について遺産分割と合わせて整理すべき場合があります。領収書・振込記録などは保存しておきましょう。

遺言・生前贈与・寄与分があると単純な3分の1にならないこともある

「兄弟3人だから必ずすべて3分の1」で終わらないケースもあります。父が有効な遺言を残している、生前に一部の子へ大きな贈与をしている、特別な寄与があるなどの場合です。

また母が先に亡くなった際の相続手続が完了していない場合には、父の相続だけを見るのではなく、母の遺産がどのように承継されたかも確認する必要があります。

父名義と思っていた不動産に母の持分が残っているなど、登記上の所有者と現在の相続関係が複雑になっている場合もあるため、土地・建物の登記事項証明書、預金残高、遺言の有無などをまず整理することが重要です。

相手に弁護士が付いているならこちらも専門家へ相談してよい

兄弟の一人がすでに弁護士を依頼している場合、他の兄弟が自分たちだけで相手方弁護士と交渉し続けなければならないわけではありません。

特に「預金は依頼者、不動産は残り二人」という提案が来ているなら、不動産の実勢価格や売却可能性まで含めて本当に公平かを確認する必要があります。相手の弁護士は依頼者の利益を守る立場であり、兄弟3人全員の中立的な助言者ではありません。

遺産額が大きい、不動産の価値に争いがある、相手方が調停を示唆している場合などは、自分側でも相続に詳しい弁護士へ資料を持って相談すると判断しやすくなります。

話し合うときは「誰が何を欲しいか」より先に遺産総額を確定する

遺産分割でいきなり「私は現金」「あなたは土地」と話し始めると、不公平感から対立しやすくなります。先に財産一覧と評価を共通化することが大切です。

  • 各銀行の預貯金残高
  • 土地・建物の所在地と登記名義
  • 不動産会社による査定価格
  • 株式・保険・その他の金融資産
  • 借金・未払税金などの負債
  • 不動産の維持費・処分費用
  • 過去の大きな生前贈与の有無
  • 遺言書の有無

例えば「預金1,500万円+売れる見込みの薄い古家1,500万円」と、「現金3,000万円」は同じ3,000万円でも実際の使いやすさが大きく違います。まず不動産の現実的な価格を把握してから分け方を検討した方が合理的です。

3人とも現金希望なら売却して分ける案を中心に検討しやすい

三人全員が本音では現金を希望し、実家を残したい人も利用する人もいないのであれば、「遠方の一人だけ現金、地元の二人が不動産」という形に無理にする必要はありません。

不動産を市場で売却できるのであれば、売却諸費用を差し引いた手取りを預金と合わせ、各自の相続分に応じて分ける方法は公平性を説明しやすいでしょう。

「不動産を誰が引き取るか」という対立を、「不動産を売って現金にできるか」という問題へ置き換えることが、解決への近道になるケースがあります。

まとめ|遠方だから現金だけを取れる権利はない。誰も不動産を欲しくないなら換価分割を検討

父母が亡くなり、相続人が子ども3人だけであれば、遺言や特別受益・寄与分などを考えない基本形では法定相続分は原則として3分の1ずつです。ただし、各人が預金・土地・建物をそれぞれ3分の1ずつ取得しなければならないわけではなく、遺産全体について分割方法を協議できます。

一人が遠方に住んでいるからといって、その人だけに「現金のみを取得し、不動産は他の兄弟へ渡す」ことを一方的に決められる権利はありません。そのような分け方は、全員が合意すれば可能というだけです。

また相手に弁護士が付いて「現金のみ欲しい」と主張していても、それは依頼者の希望を代理して交渉している段階です。弁護士から通知が来たこと自体で、その案へ同意する義務はありません。

残りの二人も不動産を欲しくないのであれば、土地・建物を売却し、その売却代金と預金を合わせて分ける換価分割が有力な解決策です。裁判所も、現物分割、代償分割、共有分割と並んで換価分割を遺産の分け方として案内しています。[参照:裁判所「遺産分割調停」]

協議がまとまらない場合は家庭裁判所の遺産分割調停を利用でき、調停が成立しなければ審判へ移ります。審判では遺産の種類・性質その他の事情を考慮して裁判所が判断するため、「遠くに住んでいる」という事情だけで現金取得が当然に優先されるものではありません。[参照:裁判所「遺産分割調停」]

実際の交渉では、まず預金額、不動産の実勢価格、売却費用、管理負担を数字で明確にし、「3人とも現金希望なら不動産を売却できないか」を検討するのが合理的です。相手方がすでに弁護士を付けているなら、不動産査定や財産一覧を準備したうえで、自分側も相続に詳しい弁護士へ相談すると、偏った条件で合意してしまうリスクを減らせます。

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