20代前半で多額の借金を抱えると、「この年齢で自己破産や個人再生をしてよいのだろうか」「同年代で債務整理をする人はほとんどいないのではないか」と不安になりやすいものです。しかし、債務整理は年齢によって利用の是非を決める制度ではなく、現在の債務額、収入、財産、毎月返済できる金額、借入れに至った事情などから判断するものです。
公表資料を見ると、20代で自己破産する人は実際に存在します。一方、「20~24歳の何%が債務整理をしているか」という全国民を分母にした正確な統計は公表されていません。任意整理は裁判所を使わない私的な手続でもあるため、債務整理全体について年代別の完全な人数を把握すること自体が難しいからです。
重要なのは「若いから債務整理を避ける」ことではなく、現在の収入で返済を続けられるかを数字で確認し、返済のために新たな借入れを繰り返す状態になる前に適切な方法を検討することです。この記事では、公的資料をもとに20代の自己破産の割合の読み方、400万円程度の債務で自己破産と個人再生を検討するときの違い、若いうちに手続をする場合の注意点を整理します。
20代前半の「債務整理率」を示す正確な全国統計はない
最初に押さえておきたいのは、「20代前半の人のうち何%が債務整理をしているのか」という数字は、一般に利用できる公的統計からは正確に算出できないという点です。
債務整理には任意整理、自己破産、個人再生、特定調停など複数の方法があります。法テラスも、債務整理の主な方法としてこれら4つを案内しています。任意整理は裁判所を利用せず債権者と私的に話し合う方法なので、裁判所の司法統計だけを集計しても債務整理をした人全員にはなりません。[参照:法テラス「債務、貸付」]
さらに、公表されている破産者の年代別調査も通常は「20歳代」という区分であり、20~24歳と25~29歳を分けていません。そのため、「22歳では何%」「20代前半では何人に1人」といった数字を断定するのは適切ではありません。
自己破産した人の約1割が20代だった調査もある
20代の債務整理が決してゼロではないことは、日本弁護士連合会の調査から確認できます。「2020年破産事件及び個人再生事件記録調査」の破産事件記録調査では、調査対象となった破産者1,240人のうち20歳代は123人で、全体の9.92%でした。[参照:日本弁護士連合会「2020年破産事件及び個人再生事件記録調査」]
ただし、この9.92%を「20代の9.92%が自己破産している」と読んではいけません。これは調査対象となった破産者の中で20代が占める割合であって、日本全国の20代人口を分母にした破産率ではないからです。
| 数字 | 意味 |
|---|---|
| 20代9.92% | 2020年の日弁連調査で、調査対象の破産者に占める20代の構成比 |
| 20代人口の9.92% | 意味しない |
| 20代前半の債務整理率 | この調査からは算出できない |
それでも、実際の破産事件に20代が一定数含まれていることは確認できます。「20代で破産する人などほぼ存在しない」という認識も正確ではありません。
自己破産そのものは年間数万人規模で利用されている
裁判所の司法統計によると、令和6年(2024年)の全地方裁判所における自然人の破産既済事件は74,375件で、そのうち自己破産は74,107件でした。年齢別の数字ではありませんが、自己破産が特殊な一人だけに起こる制度ではなく、毎年多数の個人が利用している法的手続であることが分かります。[参照:裁判所「令和6年司法統計年報 民事・行政編」]
裁判所自身も破産・再生手続について、「債務を負った人が経済的に苦しい状況になり、返済が事実上できなくなったときに、経済的に立ち直るための裁判手続」と説明しています。[参照:裁判所「破産・再生手続で使う書式」]
したがって、債務整理を「若くしてしてはいけない失敗」とだけ捉えるより、返済不能・返済困難になった経済状態を法律に沿って整理し、生活を再建する制度として考えるほうが制度の趣旨に近いでしょう。
借金400万円なら自己破産と個人再生のどちらがよい?
借入総額が約400万円だからといって、自己破産と個人再生のどちらかが自動的に決まるわけではありません。債務額だけではなく、収入、財産、家計、借金の種類、住宅や自動車を保有しているか、借入原因などによって適した手続が変わります。
大まかにいうと、自己破産は返済不能の状態にある人が利用し、免責が許可されれば原則として対象となる債務の支払責任を免れることを目指す手続です。一方、個人再生は継続的な収入を得られる見込みがある人などが、法律上必要な一定額を原則3年間で返済し、計画どおり返済できれば残りの対象債務の免除を受ける制度です。税金や養育費など、いずれの制度でも扱いが異なる債務があります。[参照:法テラス]
| 主な比較 | 自己破産 | 個人再生 |
|---|---|---|
| 返済能力 | 返済できない状態で検討 | 継続・反復した収入の見込みが必要 |
| 対象債務 | 免責許可により原則支払責任を免れることを目指す | 一定額を返済後、残額の免除を目指す |
| 財産 | 一定以上の財産は処分対象になり得る | 財産を保持できる場合があるが清算価値が返済額に影響 |
| 住宅 | 所有住宅は原則として維持が難しい | 条件を満たせば住宅ローン特則を利用できる場合がある |
| 年齢 | 20代だから不可という制度ではない | 年齢より収入など利用要件が重要 |
400万円を個人再生すると「100万円」が一つの目安になる場合がある
400万円程度の無担保債務について個人再生を検討する場合、具体的な数字を知ると制度を理解しやすくなります。大阪地方裁判所の案内では、債務総額が100万円以上500万円以下の場合、債務額を基準にした最低返済額は100万円とされています。[参照:大阪地方裁判所「倒産部」]
仮に400万円の対象債務があり、他の条件から見ても返済総額が100万円となり、これを原則3年間・36回で返済すると単純計算では月約2万7,800円です。ただし、「400万円なら必ず100万円に減る」という意味ではありません。
個人再生では保有財産の清算価値が100万円より高ければ、それ以上の返済が必要になることがあります。また給与所得者等再生では可処分所得の2年分という基準も関係します。裁判所も、返済総額は清算価値以上である必要があり、給与所得者等再生では可処分所得基準も加わると説明しています。[参照:裁判所「裁判手続 民事事件Q&A」]
400万円でも自己破産が適することはある
「400万円なら個人再生、1,000万円なら自己破産」というように借金額だけで手続を分けることはできません。例えば手取り収入から家賃、食費、光熱費、税金、社会保険料など必要生活費を差し引くと、毎月ほとんど返済資金が残らない場合には、個人再生の返済計画を継続することが難しい可能性があります。
法テラスも、支払い可能な額がない、またはほとんどない場合には自己破産の申立てが考えられ、債務を大きく減額すれば支払える場合には個人再生などが考えられると案内しています。[参照:法テラス「任意整理後の支払いが困難な場合」]
例えば手取り18万円で生活に必要な支出が17万円なら、400万円を任意整理で数年間返済することには無理が生じる可能性があります。一方、手取り25万円で必要生活費が17万円、安定した勤務を続けられるのであれば、個人再生を含む返済型の方法を検討できる可能性があります。これはあくまで考え方を示した例であり、実際の判断には全債務・収入・財産の確認が必要です。
「20代なのに自己破産したら人生が終わる」は正確ではない
自己破産には確かに不利益があります。財産の処分、手続中の一定の資格・職業上の制限、信用取引への影響などを理解してから選択する必要があります。しかし、自己破産をすると一生就職できない、戸籍に破産者と記載される、選挙権がなくなるといった説明は正しくありません。
大阪地方裁判所は、破産手続開始後には警備員や生命保険募集人など特定の資格・職業について一時的な制約が生じること、財産が換価対象になることなどを案内しています。一方、こうした制約はすべての仕事を禁止するものではありません。[参照:大阪地方裁判所「破産手続について」]
むしろ20代は、その後数十年間の生活があります。返済不能なのに「若いから」という理由だけで問題を先送りし、借金返済のための借金を続けて債務額を増やすことが、必ずしも将来にとって有利とは限りません。
若いうちに債務整理をした人に起こりやすい「その後」をモデルケースで考える
インターネットには個人の体験談が多数ありますが、その内容を一般化することはできません。借入原因、職業、収入、家族構成、財産、依頼した専門家によって結果は大きく違うためです。ここでは実在人物の体験談を装うのではなく、制度上考えられる経過を架空のモデルケースとして紹介します。
モデルケースA:23歳、借金400万円、手取り19万円、財産はほとんどなく毎月の返済が10万円近くになり、新たな借入れで返済する状態になったケースです。専門家に相談した結果、家計から継続返済できる金額がほとんどないと判断されれば、自己破産を検討する余地があります。免責が認められた後は、新たな借入れに頼らず収入の範囲で生活する家計へ切り替えることが生活再建の中心になります。
モデルケースB:24歳、借金400万円、会社員で手取り26万円、毎月一定額を返済できる状態で、残したい財産があるケースです。この場合には個人再生を検討する余地があります。ただし実際の返済総額は財産額や可処分所得などによって変わるため、「400万円が必ず100万円になる」とは限りません。
どちらも架空の例ですが、ポイントは年齢ではなく「今後3~5年にわたって現実にいくら返済できるのか」です。債務整理を経験した人の感想だけで方法を決めるのではなく、自分の家計を数字に置き換える必要があります。
任意整理が400万円に適するとは限らない
自己破産に抵抗があるため、まず任意整理を希望する人も少なくありません。しかし任意整理は借金そのものが大幅に免除されることを保証する制度ではなく、法テラスによると残元金を3~5年程度で分割返済する内容で合意するケースが多いとされています。債権者には交渉に応じる義務もありません。[参照:法テラス]
仮に400万円の元金を利息なしで60回、つまり5年間で単純に返すだけでも月約6万6,700円です。36回なら月約11万1,100円になります。実際には債務内容や交渉結果によって異なりますが、これだけの返済を生活費と並行して継続できるかを確認する必要があります。
「自己破産を避けたい」という気持ちだけで毎月の返済能力を超えた任意整理を選ぶと、途中で支払いができなくなり、改めて自己破産や個人再生を検討することになる場合があります。そのため最初の段階で複数の手続を比較することが重要です。
債務整理は早く相談したほうが選択肢を検討しやすい
返済が厳しくなったときに特に避けたいのは、返済日を乗り切るため別の消費者金融やカードローンから借り、その借金をさらに別の借入れで返す状態です。元金が減りにくいうえ、債権者数と総債務額が増えて状況が複雑になります。
法テラスも、多重債務など借金の返済に無理がある状況では、早急に債務整理を行う必要があると案内しています。[参照:法テラス]
「まだ20代だから自力で何とかしなければ」と考えて相談を何年も遅らせることが、必ずしも良い選択とは限りません。専門家への相談は自己破産を決めることと同義ではなく、任意整理・個人再生・自己破産などのうち何が現実的かを確認するために利用できます。
相談前に「400万円の内訳」をすべて整理しておく
専門家へ相談するときは、「借金が約400万円」と伝えるだけでなく、債権者ごとの金額を整理すると判断が早くなります。消費者金融、銀行カードローン、クレジットカードのキャッシング・ショッピング、奨学金、車のローン、知人からの借金など、種類も確認します。
加えて、手取り月収、賞与、家賃、食費、光熱費、通信費、保険、税金など毎月の支出、預貯金、自動車、保険解約返戻金などの財産も書き出します。個人再生では財産額が最低返済額に関係し、自己破産でも財産の有無は手続に影響するためです。
簡単な一覧を作るなら、「債権者名・残高・毎月返済額・金利・滞納の有無」の5項目を並べます。借入総額400万円でも、毎月の返済が4万円なのか12万円なのかでは緊急性も大きく違います。
家族や勤務先に必ず知られるとは限らないが、状況によっては影響する
若い人が債務整理をためらう理由として、家族や会社に知られる不安があります。ただし、手続をしただけで裁判所から勤務先へ一律に通知される制度ではありません。一方、勤務先から借金をしている、給与差押えがすでにある、家族が保証人になっている、家族名義の財産との関係を説明する必要があるなど、個別事情によって周囲に知られる可能性は変わります。
特に保証人付きの債務を整理すると、本人が支払わなくなった分について保証人へ請求される可能性があります。「家族には絶対秘密にできる」と考えて手続を選ぶのは危険です。
勤務先、家族、保証人への影響が心配なら、相談時に最初から伝えてください。手続ごとの影響を確認してから選択することが重要です。
費用が心配なら法テラスの制度も確認する
借金の返済ができない状態では、弁護士費用を用意できないという問題もあります。一定の収入・資産要件などを満たす場合、法テラスの民事法律扶助制度による無料法律相談や弁護士・司法書士費用等の立替制度を利用できる可能性があります。
法テラスでは債務整理についても相談先の案内を行っています。自己破産・個人再生のどちらを選ぶべきかは個別判断になるため、費用面を理由に何も相談せず返済を続ける前に、利用できる制度を確認する価値があります。[参照:法テラス「借金でお困りの方へ」]
なお、裁判所は一方当事者の法律相談には応じられないため、「自分は自己破産と個人再生のどちらがよいか」という個別相談は弁護士などへ行う必要があります。大阪地方裁判所も債務整理の相談は弁護士へするよう案内しています。[参照:大阪地方裁判所]
まとめ|20代前半でも債務整理は選択肢になる。年齢より返済可能性で判断する
20~24歳の人のうち何%が債務整理をしているかという正確な全国統計はありません。任意整理を含む債務整理全体を網羅した年代別統計がなく、公表調査も「20歳代」という区分が中心だからです。
一方、日本弁護士連合会の2020年調査では、調査対象となった破産者の9.92%が20代でした。これは20代人口全体の破産率を意味する数字ではありませんが、20代で自己破産を利用する人が実際に一定数いることは分かります。[参照:日本弁護士連合会]
借入総額が400万円程度の場合、安定した収入があり一定額を継続返済できるなら個人再生を検討できる可能性があります。債務額基準だけでみれば100万~500万円の範囲では100万円が最低返済額の一つの基準となりますが、財産の清算価値や、給与所得者等再生なら可処分所得などによって実際の返済額は変わります。反対に返済へ回せる余力がほとんどなく、支払不能の状態であれば自己破産を検討する余地があります。
「若いのに債務整理をしてよいか」ではなく、「今の返済を続けた場合に3年後、5年後の債務と生活がどうなるか」で考えることが大切です。返済のために新しく借りる状態になっている、毎月赤字になる、延滞が始まっているといった場合は、年齢を理由に先延ばしせず早めに専門家へ相談したほうが選択肢を比較しやすくなります。
自己破産、個人再生、任意整理にはそれぞれ利点と不利益があり、400万円という金額だけでは最適な方法を決定できません。まず全債務、手取り収入、生活費、財産、保証人の有無を整理し、弁護士などに複数の手続を比較してもらうことが、生活を立て直すための現実的な第一歩です。