道路脇に車を止めていると、店舗や施設の警備員から「車を移動してもらえますか」と頼まれることがあります。このとき、「駐車禁止の標識がない場所なら警備員を無視してよい」「警備員に言われて動いて事故になったら警備員が全責任を負う」と考えるのは適切ではありません。公道上の交通誘導をする民間警備員は警察官と同じ交通規制権限を持つわけではありませんが、運転者自身には常に安全運転義務があります。また、標識がなくても駐車・駐停車できない場所は多数あります。特に店舗・駐車場などの車両出入口付近、交差点・曲がり角付近では距離による禁止規定があるため、「ここは駐車禁止標識がないから大丈夫」とだけ判断するのは危険です。警備員から移動を求められた場合は、指示を理由に危険なタイミングで発進するのではなく、安全確認をしたうえで移動することが基本です。
警備員は警察官と同じように車を動かす命令ができる?
施設などで交通誘導をしている民間の警備員と、警察官による交通整理は法律上同じものではありません。警備員が赤色灯や誘導棒を使って車両を誘導していても、それだけで警察官と同等の交通規制権限が生じるわけではありません。
そのため、公道上で警備員から「こちらへ進んでください」「車を移動してください」と言われた場合、その合図だけを根拠として道路交通法上の禁止行為まで許されるわけではありません。信号、標識、道路標示、警察官の指示など法令上優先されるルールに従う必要があります。
ただし、「法的な強制力が警察官と同じではない」ことと、「無視しても問題ない」ことは別です。警備員は施設出入口の安全確保、歩行者保護、入出庫車両の誘導などを目的に配置されているため、危険や交通障害を避けるための合理的な依頼であれば協力するのが安全です。
駐車禁止標識がなくても駐車できない場所がある
道路交通法では、標識による駐車禁止とは別に、全国共通で駐車・駐停車が禁止される場所を定めています。したがって「駐車禁止の標識がない=どこでも駐車できる」という関係にはなっていません。
警察庁の案内によると、駐車場、車庫など、自動車の乗降・貨物の積卸し・駐車・格納・修理などのため道路外に設けられた場所の自動車用出入口から3メートル以内は原則として駐車禁止です。[参照]
例えば店舗の駐車場入口のすぐ横に車を置き、「標識がないから合法」と思っていても、入口から3メートル以内なら別の規定によって駐車禁止になる可能性があります。
交差点・曲がり角の近くならさらに注意
店舗入口の近くには交差点や道路の曲がり角があることも多く、その場合は別の駐停車禁止規定にも注意が必要です。
警察庁の案内では、交差点とその端から5メートル以内、道路の曲がり角から5メートル以内などは原則として駐停車禁止です。横断歩道や自転車横断帯についても、その端から前後5メートル以内は駐停車できません。[参照]
つまり「入口の近くに止めていた」という状況では、まず入口から3メートル、交差点や曲がり角なら5メートルといった位置関係を確認する必要があります。
道路標識がなくても交通を妨げる駐車は問題になる
形式的な駐車禁止場所に該当するかだけでなく、車を止めた結果として周囲の交通へどの程度影響しているかも重要です。
警察庁は駐車許可についても、駐車によって「交通に危険を生じ、又は交通を著しく阻害する場所」ではないことを要件としています。車線数や交通量、自転車の通行状況などを個別に検討するとしています。[参照]
例えば入口へ右折する車が自車を避けられず後方車両が次々と詰まっている場合、警備員が「ここから移動してください」と声をかけることには交通整理上の合理的な理由がある可能性があります。
「運転席にいるから駐車ではない」とは限らない
道路交通法上の「駐車」は、運転者が車から離れた場合だけを指すわけではありません。客待ち・人待ちなどで継続的に停止している場合は、運転席に人が乗ったままでも駐車に該当し得ます。
一方、人の乗り降りのための停止や、5分を超えない貨物の積卸しなどは、法律上の駐車から除かれる場合があります。
したがって「すぐ動かせる状態だった」「車内に乗っていた」という理由だけで、必ず「停車だから問題ない」と判断することはできません。何のために、どの程度の時間停止していたかで評価が変わります。
ハザードを点ければ駐車してよい場所になるわけではない
路肩へ止める際にハザードランプを点灯する人は多いですが、ハザードを点けることによって駐車禁止場所が駐車可能になるわけではありません。
例えば駐車場出入口から2メートルの場所や交差点のすぐ近くに止まり、ハザードを点灯していたとしても、駐車禁止・駐停車禁止の規定が消えるわけではありません。
ハザードは周囲へ車両の存在や状態を知らせるために使われることがありますが、法令上の駐車場所を合法化する「免許証」のような機能はないと覚えておくと分かりやすいでしょう。
後続車が追い越してきそうなら、警備員に言われてもすぐ発進する必要はない
警備員から「移動してください」と言われたとしても、後方から車が追い越そうとしており、その瞬間に発進・進路変更すると衝突しそうな場合には、危険なタイミングで無理に動くべきではありません。
道路交通法では、車両の運転者に安全運転義務があります。道路や交通の状況に応じ、他人へ危害を及ぼさない速度・方法で運転することが必要です。道路交通法そのものは警察庁の法令ページから確認できます。[参照]
安全な対応は「警備員を無視してずっと止まり続ける」でも「言われた瞬間に確認せず発進する」でもなく、後方・側方を確認し、安全になったタイミングで移動することです。
例えば後ろから車が来ている場合はどう動けばいい?
例えば道路左側に停車中、警備員から移動を求められたものの、右後方から後続車が自車を抜こうとしているとします。
この場合は、ミラーと目視で後方を確認し、追い越し車両が通過するまで必要に応じて待ちます。そのうえで安全を確認して発進します。「今、右から車が来ているので通過してから動きます」と警備員へ伝えてもよいでしょう。
警備員が手招きしているからという理由だけで右側へ飛び出し、後続車と接触するような運転は避ける必要があります。
警備員が「行っていい」と合図しても運転者の安全確認は必要
駐車場から道路へ出る際など、警備員が誘導棒で「進んでください」と合図することがあります。この合図があっても、運転者自身による安全確認が不要になるわけではありません。
右から自転車が来ていないか、左から車が来ていないか、歩道に歩行者がいないかなどを運転者自身も確認する必要があります。
交通誘導員の役割は安全確認を補助するものであり、運転操作と安全確認を全面的に代行するものではない、と考えておくのが安全です。
警備員の指示で動いて事故になったら誰の責任?
交通事故の責任は、「警備員が合図したから警備員100%」「運転者が運転していたから警備員0%」という単純なルールでは決まりません。
まず車を運転して発進・進路変更する以上、運転者には安全確認義務があります。そのため「警備員に行けと言われたので何も確認せず発進した」という事情だけで、運転者の責任が当然になくなるわけではありません。
一方、警備員が安全を確認したように見せて明確に誤った誘導をし、それが事故発生に具体的に影響した場合には、事故状況によって警備会社や施設側の民事上の責任が問題になる可能性はあります。ただし、これは個別の証拠や誘導内容に基づいて判断される問題であり、あらかじめ「警備員は絶対に責任を取らない」と断定することもできません。
「事故になっても警備員は責任を取らないから無視」は危険
警備員の法的権限と事故責任をごちゃ混ぜにすると、「責任を取ってくれないなら指示は全部無視すればよい」という結論になりがちですが、安全上はおすすめできません。
入口付近で車列を詰まらせていたり、入出庫車両の視界を遮っていたりするのであれば、その場に停止し続けること自体が別の事故原因になる可能性があります。
合理的な移動依頼であれば、安全なタイミングを自分で確認して移動する方が適切です。誘導どおり動くことが危険なら、「今は後ろから車が来ているので動けません」と伝え、安全になってから動けばよいのです。
私有地なら施設管理者側のルールも関係する
もう一つ確認すべきなのが、その場所が公道なのか、店舗・商業施設などの私有地なのかという点です。
店舗の敷地内や私有の進入路、駐車場であれば、その土地を管理する施設側が停車場所や利用方法を定めていることがあります。この場合、道路交通法上の駐車禁止標識がないことだけを理由に「自由に止められる」とは限りません。
施設から委託された警備員が管理者側の立場で「ここは車を置かないでください」と求めている場合には、公道で警察官が交通命令をするケースとは別の意味で、施設利用上の指示に従う必要が生じることがあります。
路肩ならどこでも駐車できるわけではない
道路の端へ十分寄せれば常に駐車できるわけでもありません。駐車可能な道路であっても、道路交通法に定める駐車方法を守る必要があります。
さらに、駐車によって車両が通行するために必要な余地がなくなる場所などでは駐車が禁止されます。警察庁の駐車許可制度でも「無余地」となる場所には制約があることが示されています。[参照]
狭い道路や入口付近では、車体を左へ寄せていても交通への影響が大きい場合があります。
「右折待ちの車で後ろが詰まっている」場面は特に慎重に
施設入口へ右折しようとする車がいて、その後ろに車列ができている場面では、周囲の車が右側から抜こうとしたり、反対車線側へ膨らんだりする可能性があります。
そこに路上駐車車両があると、通過できる幅がさらに狭くなり、右折車、追い越そうとする後続車、対向車の動線が重なることがあります。
こうした状況で警備員が車両の移動を求めるのは、単に「邪魔だから」というだけでなく、出入口周辺の事故を防ぐ目的である可能性があります。法的に駐車可能かだけでなく、その瞬間の交通状況から安全かを考えることが大切です。
警察官から移動を指示された場合は警備員とは話が違う
民間警備員と警察官を混同しないことも重要です。警察官が道路交通法に基づいて交通整理や危険防止のための指示を行っている場合、その指示は民間警備員のお願いとは性質が異なります。
したがって、「前に警備員のお願いを断ったから、警察官の指示も断れる」ということにはなりません。現場に警察官がいる場合には、警察官による交通上の指示へ従う必要があります。
警備員からの依頼について疑問があり、道路上でトラブルになっている場合も、その場で言い争うより、安全な場所へ移動してから施設管理者などへ確認する方が安全です。
移動を求められたときの安全な対応
警備員から路上の車を移動するよう頼まれたときは、次の順序で考えるとトラブルを避けやすくなります。
| 確認すること | 対応 |
|---|---|
| 出入口から3m以内ではないか | 該当するなら原則として駐車禁止 |
| 交差点・曲がり角から5m以内ではないか | 該当するなら原則として駐停車禁止 |
| 後方から車が来ていないか | 危険ならすぐ発進せず通過を待つ |
| 自転車・歩行者がいないか | ミラーだけでなく目視でも確認 |
| 施設出入口を妨げていないか | 安全に移動できるなら別の場所へ移す |
| 警備員の誘導が危険に見える | 無理に従わず安全確認を優先する |
| 私有地か | 施設管理者の利用ルールも確認 |
ポイントは「警備員に従うか無視するか」の二択ではなく、「移動の必要性は理解しつつ、安全確認の責任は自分で持つ」という考え方です。
まとめ:警備員を無視すれば安全という考え方は避ける
民間の警備員は、通常、警察官と同じ交通規制権限を持っているわけではありません。しかし、それを理由に「移動してください」という依頼を常に無視してよいわけでもありません。
特に店舗や駐車場などの自動車用出入口から3メートル以内は、駐車禁止標識がなくても原則として駐車禁止です。また交差点や道路の曲がり角から5メートル以内などは駐停車自体が禁止されています。[参照]
ハザードを点灯していてもこれらの規制が解除されるわけではありません。また運転席に座っていれば必ず「停車」になるというものでもなく、客待ちなど継続的な停止なら駐車に該当する可能性があります。
一方、警備員から移動を求められた瞬間に後続車が自車を抜こうとしているなら、衝突の危険を冒してまで直ちに発進する必要はありません。後方・側方を確認し、必要なら追い越し車両を先に通してから安全に移動します。
事故になった場合も「警備員に言われたから運転者は責任ゼロ」とは通常考えられません。運転者自身の安全確認義務は残ります。反対に、警備員の明確な誤誘導が事故へ影響した場合には警備会社などの責任が問題になる余地もありますが、事故ごとの具体的事情で判断されます。
したがって最も安全なのは、「警備員は責任を取らないから無視する」という対応ではなく、まず自分が止まっている場所が本当に駐車可能か確認し、移動を求められたら周囲を十分確認して安全なタイミングで移動することです。