親族が亡くなったものの、実家が遠方にあり、土地や建物が誰の名義なのか、預貯金がどの程度あるのか分からないというケースは珍しくありません。相続手続きを始めるには財産と相続人の調査が必要ですが、必ずしも最初から現地まで出向かなければならないわけではありません。
現在は不動産の登記事項証明書をオンラインで請求したり、戸籍証明書を一定の条件で最寄りの市区町村窓口から取得したりできる制度があります。一方、預貯金については、不動産の登記のように全国の銀行口座を誰でも一括検索できる仕組みではないため、金融機関を特定して相続人として照会するなど別の調査が必要です。
遠方の相続では、まず「誰が相続人なのか」「どんな不動産があるのか」「どの金融機関と取引していたのか」を分けて調査すると整理しやすくなります。以下では、それぞれの確認方法と注意点を解説します。
地方にある土地・家屋の名義は東京からでも確認できる
土地や建物の所有者を確認する基本的な資料が、不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)です。不動産登記には所有権などの権利関係が記録されているため、対象となる土地・建物を特定できれば、現在の登記名義を調べる重要な手掛かりになります。
登記事項証明書については、法務局のオンライン請求制度を利用できます。法務省は「かんたん証明書請求」などによるオンライン請求を案内しており、請求した証明書を郵送で受け取る方法もあります。そのため、不動産が地方にあるからといって、原則としてその地域の法務局まで本人が出向いて確認しなければならないわけではありません。
例えば東京都内に住んでいて、九州にある実家の土地・建物を調べたいケースでも、所在地を正確に特定できれば登記事項証明書を取得して名義を確認する方法があります。[参照:法務省・登記事項証明書等の請求]
住所が分かっても登記上の土地を特定できない場合がある
不動産登記を調べる際に注意したいのが、普段使用する「住所」と不動産登記で使用される「地番」は必ずしも同じではないことです。「実家の住所なら知っている」というだけでは、目的の土地の登記事項証明書を正確に請求できないケースがあります。
地番が分からない場合には、法務局への確認や地図・公図などを利用して調査する方法があります。また、故人宛ての固定資産税の納税通知書や課税明細書が残っていれば、所在地、地番、家屋番号など不動産を特定する手掛かりになることがあります。
実家には建物が1棟しかないように見えても、土地については複数筆に分かれている場合があります。例えば「宅地の土地1筆+隣接する畑+私道の持分」といった形で所有していることもあるため、実家の建物だけ確認して財産調査を終了するのは避けたほうがよいでしょう。
相続人を確定するには戸籍の確認が重要
財産を調べる前提として重要なのが「誰が法律上の相続人なのか」を確認することです。家族が把握している親族関係と、相続手続き上必要となる戸籍上の関係が一致するとは限らないため、亡くなった人の戸籍をたどって確認します。
2024年3月からは戸籍証明書等の広域交付制度が始まり、本籍地以外の市区町村窓口でも一定の戸籍証明書等を請求できるようになりました。例えば本籍地が地方にあっても、制度の対象となる本人・配偶者・直系尊属・直系卑属の戸籍証明書等については、最寄りの市区町村窓口で請求できる場合があります。
ただし、広域交付には請求できる人や対象となる証明書について条件があります。兄弟姉妹の戸籍を兄弟姉妹という立場だけで広域交付請求することはできないなどの制約もあるため、具体的な親族関係に応じて確認が必要です。[参照:法務省・戸籍証明書等の広域交付]
預貯金は不動産とは調べ方が異なる
不動産については登記という公示制度がありますが、銀行預金については「故人が全国のどの銀行にいくら預けていたか」を一般の相続人が公開データベースで簡単に検索できるわけではありません。そのため、預貯金の調査では故人が利用していた金融機関を特定することが重要になります。
手掛かりになるのは、通帳、キャッシュカード、金融機関からの郵便物、スマートフォンやパソコンに残されたネット銀行関係の情報、確定申告書類、給与や年金の振込先などです。実家に書類が残されている場合には、現地にいる親族に確認してもらうことも有効です。
利用していた銀行が判明したら、その金融機関へ死亡の事実を伝え、相続手続きや残高証明書、取引履歴などについて問い合わせます。必要書類や照会できる範囲は金融機関によって異なるため、各銀行の相続窓口で確認することになります。
残高だけでなく過去の取引が重要になることもある
相続財産を把握する目的では、死亡日時点の預金残高が重要になります。一方、相続関係によっては過去の入出金について確認する必要が生じることもあります。
例えば亡くなる直前に多額の出金があった場合、そのお金が医療費などに使われたのか、別の財産になっているのかなどを確認する必要が出てくる可能性があります。相続人同士で疑問が生じている場合には、自己判断で結論を出さず弁護士などの専門家へ相談する方法もあります。
亡くなった父と兄がいる場合は死亡した順番も重要
複数の親族が亡くなっている場合、相続では誰が先に亡くなったのかが非常に重要です。父が亡くなった時点で長男が存命だったのか、それとも長男が先に亡くなっていたのかによって、その後の相続関係が変わる可能性があります。
例えば父の死亡後に子である長男が亡くなったケースでは、父の相続によって長男が取得した相続上の権利について、今度は長男自身の相続が発生する可能性があります。一方、長男が父より先に死亡しており、長男に子がいる場合などには代襲相続が問題となる場合があります。
そのため「父と長男が亡くなった」という情報だけでは、誰がどの財産を相続するのかを確定できません。死亡日、配偶者や子の有無、他の兄弟姉妹などの親族関係を戸籍によって整理する必要があります。
土地・建物の名義が故人のままとは限らない
実家だから当然父親名義だろうと思っていても、登記を取得すると祖父母など以前の世代の名義のままになっているケースがあります。その場合、現在の相続だけではなく、過去に発生した相続についても関係者を整理しなければならないことがあります。
逆に、生前に贈与や売買などによって別の人へ所有権が移転し、その登記が済んでいる可能性もあります。誰が固定資産税を払っていたかだけで所有者を断定せず、登記情報を確認することが基本です。
なお、相続によって不動産を取得したことを知った日から一定期間内に相続登記を申請することが義務化されています。相続登記については法務省が手続きや制度を案内しているため、不動産が相続財産に含まれることが判明したら早めに確認しましょう。[参照:法務省・相続登記の申請義務化]
借金など「マイナスの財産」にも注意する
相続財産の調査では、土地や預金などプラスの財産だけを確認すればよいわけではありません。借入金、未払い金、税金などの債務が残されている可能性もあります。
特に「預金がいくらあるか分からない」という状態で、資産があることだけを期待して手続きを進めるのは注意が必要です。相続では一定の場合に相続放棄という選択肢がありますが、家庭裁判所への申述には原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内という期間があります。
財産の全容が分からず調査に時間が必要な場合には、期間伸長を家庭裁判所へ申し立てる制度もあります。相続放棄を検討する可能性がある場合は、財産を処分するなどの行動をする前に専門家へ相談することが重要です。[参照:裁判所・相続の放棄の申述]
遠方の実家を調べるときの進め方
地方の実家にすぐ行けない場合でも、最初にできる調査はかなりあります。何から手を付ければよいか分からないときは、次のような順番で情報を整理すると分かりやすくなります。
- 父・兄など関係者の死亡日と親族関係を確認する
- 必要な戸籍を取得して法定相続人を整理する
- 実家の正確な所在地・地番・家屋番号を調べる
- 土地・建物の登記事項証明書を取得して所有者を確認する
- 固定資産税関係書類などから他の不動産がないか確認する
- 通帳・カード・郵便物などから利用金融機関を特定する
- 各金融機関へ相続人として必要な照会を行う
- 借金や未払い金など負債についても調査する
この段階までなら、郵送、オンライン請求、最寄りの行政機関、電話などを組み合わせることで、遠隔地から進められる部分があります。実家に重要書類が残されている場合など、最終的に現地確認が必要になることはありますが、「調査を始めるためにまず地方へ行かなければ何も分からない」とは限りません。
複雑な相続では司法書士・弁護士・税理士を使い分ける
相続関係が複雑な場合は専門家への相談も選択肢になります。不動産の相続登記を中心に相談したい場合は司法書士、相続人同士の争いや法律問題がある場合は弁護士、相続税の申告や税務上の判断が必要な場合は税理士が主な相談先となります。
特に「父と兄が相次いで亡くなった」「実家の登記名義人が分からない」「相続人が全国に散らばっている」といったケースでは、複数の相続が連続して発生している可能性があります。戸籍を集めただけでは権利関係を判断しにくい場合もあるため、早い段階で専門家へ資料を見せると整理しやすくなります。
相談するときには、分かる範囲で家系図、死亡日、実家の住所、固定資産税関係書類、通帳などの情報をまとめておくと話が進みやすくなります。
まとめ|遠方の実家でも相続調査は東京から始められる
地方に実家があっても、土地・建物の名義確認や戸籍の収集など、相続財産調査の一部は東京など遠隔地から進めることができます。不動産については登記事項証明書を確認し、預貯金については故人が利用していた金融機関を特定して個別に手続きを進めるのが基本です。
重要なのは「実家まで行けるか」よりも、最初に相続人・不動産・預貯金・負債を分けて整理することです。特に複数の親族が亡くなっている場合には、死亡した順番によって相続関係が変わる可能性があるため、戸籍による確認が欠かせません。
また、相続放棄には原則3か月という期間がある一方、不動産については相続登記の申請義務もあります。財産や負債の状況が分からない場合ほど放置せず、まず取得できる資料から調査を開始し、判断が難しければ司法書士・弁護士・税理士など適切な専門家へ相談することが安全な進め方です。