家族が会社で横領したら親に弁済義務はある?会社へ現金を支払う前後に確認すべきこと

会社員による横領や着服が発覚したとき、本人だけでなく親や配偶者などの家族に会社から連絡が入り、被害額の弁済を求められることがあります。しかし、「家族なのだから当然に支払わなければならない」という法律関係になるわけではありません。特に数百万円以上の現金を家族が支払うケースでは、横領額の根拠、誰がどのような立場で支払うのか、支払いによって何が解決するのかを文書で確認することが重要です。

この記事では、従業員による横領が発覚した場合の本人と家族の責任、家族による被害弁償、領収書や示談書がない場合の問題点、すでに現金を渡してしまった場合に確認しておきたい事項を整理します。個別事件では事実関係によって結論が変わるため、実際に高額な金銭が動いている場合には弁護士への相談も検討してください。

会社のお金を横領した本人には民事・刑事の問題が生じる

会社の金銭を業務上預かっている従業員が自分のものとして取得した場合、状況によっては業務上横領罪などの刑事責任が問題になります。それとは別に、会社が受けた損害について本人に返還や損害賠償を求めるという民事上の問題もあります。

つまり、刑事事件と被害弁償は同じものではありません。横領した金額を返したから必ず刑事事件にならないというわけでもなく、逆に刑事処分を受ければ会社への損害賠償義務が自動的に消えるわけでもありません。

実際の横領事件では、本人側が被害金を弁償したうえで会社との示談を目指すことがあります。ただし、被害弁償や示談が刑事処分にどのような影響を与えるかは、被害額、行為の態様、期間、前科の有無、会社側の意向などさまざまな事情によって異なります。

横領した従業員の親や兄弟に当然の弁済義務があるわけではない

重要なのが、横領した本人とその家族の責任を分けて考えることです。成人した従業員が会社のお金を横領したとしても、親、義父母、兄弟姉妹などが親族であるという理由だけで本人の損害賠償債務を負担するのが原則ではありません。

法テラスも家族の債務について、債務者の家族であるということだけでは支払義務はないと案内しています。保証人になっている場合など、別の法律上の根拠があるケースとは区別する必要があります。[参照:法テラス「債務、貸付」]

たとえば30歳の会社員Aが勤務先から500万円を横領した場合、A本人には会社から損害賠償を請求される可能性があります。しかし、Aの母親が横領に関与しておらず、保証など特別な法律関係もないのであれば、「母親だから500万円を払う義務がある」と単純にはいえません。

家族が本人に代わって被害弁償すること自体はあり得る

一方、法律上の支払義務がないことと、家族が任意に弁済することは別問題です。刑事事件では、本人に十分な資力がないため、親などの家族が資金を用意して被害弁償を行うケースがあります。

たとえば本人が横領した500万円をすでに使ってしまい返済できない場合に、母親が本人を助ける目的で500万円を準備し、会社がこれを被害弁償として受け取る、といったこと自体は考えられます。

ただし、この場合は「家族に法律上の支払義務があったから払った」のか、「本人のために任意で被害弁償した」のかを混同しないことが大切です。また、家族自身が債務を引き受ける契約をするなど、新たな法律関係が発生することもあるため、書面の内容を確認せず署名・押印するのは避けた方が安全です。

数百万円を現金で渡すなら書面を残すことが非常に重要

被害弁償として高額な現金を会社へ渡す場合、特に重要なのが証拠です。現金は銀行振込と違って金融機関の取引履歴が自動的に残らないため、後日「いつ、誰が、誰に、いくら、何のために渡したのか」を証明しにくくなります。

たとえば500万円を会社担当者へ現金で渡したにもかかわらず領収書がなければ、後になって支払金額や支払いの趣旨について争いが生じる可能性があります。そのため、少なくとも支払日、金額、支払者、受領者、会社名、支払いの目的が確認できる資料を残しておくことが重要です。

確認事項 確認する理由
支払金額 実際にいくら弁済したのかを明確にするため
支払いの名目 横領被害の弁償なのか、別の債務なのかを明確にするため
受領者 会社の権限ある担当者が受領したことを確認するため
残額 支払い後も会社が請求する金額があるのか確認するため
示談の有無 支払いだけなのか、事件全体を解決する合意なのかを区別するため

弁護士や社長が支払いの場に立ち会わなければ法律上必ず無効になる、という単純なものではありません。会社から権限を与えられた担当者が対応することもあり得るからです。問題は誰がどの権限で受領したのか、そして支払いを証明できる資料があるのかという点です。

領収書も示談書もない場合は何を確認すればよいのか

すでに高額な現金を渡しているのに領収書などを受け取っていない場合には、当時の状況をできるだけ早く整理しておくことが大切です。日時、場所、金額、現金を渡した相手の氏名・役職、同席者、支払い前後の電話・メール・SMS・手紙などを保存します。

会社から届いた横領に関する通知書があれば、それも重要な資料になります。また、現金を用意するため銀行からまとまった額を引き出しているのであれば、預金通帳や取引明細も保存しておくとよいでしょう。それだけで会社への支払いを完全に証明できるとは限りませんが、当日の経緯を裏付ける材料になります。

そして会社に対して、支払った金額について受領を証明する書面や領収書の発行を求めることが考えられます。あわせて、その支払いが誰のどの債務に充当されたのか、横領被害額はいくらとされているのか、支払い後の残額はいくらなのかも書面で確認しておくと、状況を整理しやすくなります。

「お金を払った=示談成立」とは限らない

注意したいのは、被害金を支払ったことと示談が成立したことは必ずしも同じではない点です。たとえば横領額が800万円とされ、家族が500万円を支払った場合、それが単なる一部弁済なら300万円の請求が残る可能性があります。

一方、「500万円の支払いをもって民事上の請求をすべて解決する」と会社と合意しているのであれば意味は大きく異なります。そのため、示談する場合には、支払額だけでなく、残りの請求をどう扱うのかなどを明確にした示談書・合意書を作成することが重要になります。

また、家族が支払ったことによって刑事上の問題まで完全に終了したと考えるのも早計です。被害届や告訴、捜査、刑事処分などは民事上の弁済とは別の問題を含みます。

会社から家族へ突然高額な支払いを求められた場合の対応

まだ支払っていない段階で会社から数百万円、数千万円単位の弁済を求められた場合には、その場で現金を渡したり、内容を十分理解しないまま念書へ署名したりするのではなく、まず請求の根拠を書面で確認することが重要です。

特に確認したいのは、横領したとされる本人が事実を認めているのか、会社が算定した被害額の根拠は何か、家族自身に何を根拠として請求しているのかという点です。横領事件では刑事事件と民事上の損害賠償が同時進行する可能性もあるため、金額が大きいほど当事者だけで処理しない方が安全です。

弁護士へ相談する際には、会社から届いた通知、メールやSMS、支払いに関する資料、本人から聞いた事情などをまとめて持参すると話が進みやすくなります。費用面を含め相談先が分からない場合には、法的トラブルの案内を行う法テラスを利用する方法もあります。[参照:日本司法支援センター 法テラス]

まとめ:横領した本人と家族の責任を分け、支払いの証拠を必ず確認する

会社で横領が発生した場合、基本的に問題となるのは横領した本人の刑事責任と、会社に生じた損害についての民事上の責任です。親や兄弟などは、家族であるという理由だけで当然に本人の損害賠償債務を負うわけではありません。ただし、家族が本人のため任意に被害弁償をすることはありますし、保証や債務引受など別の法律関係があれば結論が変わる場合があります。

特に注意したいのは、高額な現金を会社へ渡したのに領収書や合意書がないケースです。弁護士や社長がその場にいなかったことだけで異常とは断定できませんが、数百万円規模の支払いであれば、受領者、金額、支払いの目的、残額、示談の有無を証明できる資料を確保することが重要です。

すでに支払い済みで証拠が十分にない場合には、会社とのやり取りや現金の出金記録などを保存し、会社へ受領確認書等の発行を求めることを検討します。金額が大きい、会社側の説明と本人の説明が食い違う、追加請求を受けているといった場合には、資料を持って早めに弁護士へ相談することが適切です。

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