信号機のある交差点で自転車同士が衝突した場合、保険会社から「基本の過失割合は50対50ですが、修正を加えて40対60です」と説明されることがあります。このとき分かりにくいのが、「修正」とは何を意味するのかという点です。
交通事故の過失割合は、最初から事故ごとにゼロから決めるのではなく、事故の類型に応じた「基本過失割合」を出発点にして、速度、信号の状況、当事者の年齢、著しい過失など個別事情を加減して決めるのが一般的です。この加減に使われる事情が「修正要素」です。
特に自転車同士の事故については、2026年3月に刊行された「別冊判例タイムズ39号・全訂6版」で自転車同士の事故に関する基準が新設されています。信号のある交差点では、双方が交差点へ進入した瞬間の信号表示や、衝突時に信号がどう変化していたかによって基本割合が大きく変わるため、「黄色から赤」「赤から青」という数秒の違いが非常に重要です。
過失割合の「基本」と「修正」とは何か
交通事故で使われる基本過失割合とは、典型的な事故状況を前提として設定された責任割合の目安です。例えば自転車同士が信号交差点で双方とも赤信号を無視して進入し、出合い頭に衝突した典型例なら、現在の実務基準では50対50が基本とされています。
しかし実際の事故では、完全に同条件ということはほとんどありません。一方が非常に速い速度で交差点へ進入していた、スマートフォンを見ていた、被害を受けた側が児童や高齢者だった、といった個別事情があります。
そこで基本の50対50から一方の過失を10%増やすなどの調整を行います。これが「修正」です。例えば基本50対50から相手側へ10%の加算修正を行えば、最終的に自分40対相手60となります。
自転車同士・双方赤信号なら基本は50対50
2026年の別冊判例タイムズ39号で新設された自転車同士の事故基準では、信号交差点において双方が赤信号で進入した事故の基本過失割合は50対50とされています。
理由はシンプルで、どちらも「停止位置を越えて進行してはならない」という赤信号の規制に違反しており、双方に重大な信号違反があるからです。
したがって、保険会社から「まず基本は50対50」と説明されている場合、保険会社が事故態様を「双方とも赤信号で交差点へ進入した類型」に近いものとして評価している可能性があります。ただし、実際に何の類型を使ったかは担当者へ確認しないと断定できません。
[参照] グリーンリーフ法律事務所「自転車同士の事故における過失割合・最新基準」
黄色信号側と赤信号側なら基本50対50ではない
ここで非常に重要なのが、「黄色から赤だった」という表現です。交差点へ実際に進入した瞬間が黄色だったのか、すでに赤になっていたのかによって事故類型が変わります。
最新の自転車同士の基準では、黄信号で進入した自転車と赤信号で進入した自転車の事故は、基本的に黄信号側20%、赤信号側80%とされています。
つまり、本当に一方が黄色信号で進入し、もう一方がまだ赤信号の状態で見切り発車していたことを立証できるのであれば、単純な双方赤信号の50対50とは異なる評価になる可能性があります。
黄色信号でも原則は「止まれ」
「黄色ならまだ進んでいい」と思われることがありますが、法律上はそうではありません。道路交通法施行令では、黄色信号の場合、車両は原則として停止位置を越えて進行してはならないと定められています。
例外となるのは、黄色になった時点ですでに停止位置へ近接しており、安全に停止できない場合です。
したがって、遠くから黄色信号を認識できたのに加速して交差点へ入った場合と、停止線直前で黄色へ変わり安全に急停止できなかった場合では評価が違ってきます。自転車も道路交通法上の車両であり、信号に従う必要があります。
「赤から青になる直前の見切り発車」も赤信号進入なら信号違反
反対側の信号が間もなく青へ変わると分かっていても、赤信号の間に停止位置を越えて発進することはできません。
例えば相手が「もうすぐ青になると思って発進した」としても、停止線を越えた瞬間の信号が赤だったのであれば、原則として赤信号違反として評価されます。
そのため過失割合では「衝突した瞬間に青だったか」だけでなく、停止線を越えて交差点へ進入した瞬間に何色だったかを確認することが重要です。
「自分40:相手60」の10%修正として考えられるもの
保険会社が50対50を基本としたうえで40対60へ修正したのであれば、相手側に何らかの加算要素を認定している可能性があります。
最新の双方赤信号の基準では、例えば一方の高速度進入について10%程度の修正が設定されています。また著しい過失・重過失についても5~10%程度などの修正が考慮されます。
つまり「相手への修正」という説明が、相手側の進入方法、速度、その他の注意義務違反を理由とするものであれば、50対50から相手の過失を10%増やして40対60とする説明自体は仕組みとして理解できます。
ただし、何の修正要素を使ったかは保険会社へ具体的に聞くべきです。「相手への修正です」という説明だけでは内容が分かりません。
「見切り発車だから10%修正」とは必ずしも限らない
注意したいのは、「見切り発車」という言葉そのものが必ず独立した10%修正要素になるわけではないことです。
相手が停止線を赤信号で越えたのであれば、その赤信号違反はそもそもの基本割合を決める重要な事情です。そのうえで速度やスマートフォン操作など別の事情があれば追加修正の対象になる可能性があります。
したがって、保険会社には「50対50の根拠となる事故類型は何ですか」「相手側へ入れた10%の修正要素の名称と根拠を教えてください」と質問すると整理しやすくなります。
相手が50代であることだけでは通常「高齢者修正」にはならない
相手が50代である場合、「年齢が理由で相手に有利または不利な修正が入ったのでは」と疑問を持つことがあります。
自転車事故の過失割合では児童や高齢者であることが修正要素になることがありますが、50代というだけで通常この高齢者修正を適用することは考えにくいでしょう。
2026年の自転車同士事故の基準を紹介する実務解説では、高齢者についておおむね65歳以上と説明されています。少なくとも一般的な50代を高齢者として扱うものではありません。
相手が転倒して救急搬送されたこと自体で過失割合は増減しない
相手が転倒して救急搬送されていると、「けがをした側だから過失が少なくなるのでは」と考えることがあります。しかし、けがの重さそのものと事故発生についての過失割合は別の問題です。
過失割合は、事故が起きた原因について双方がどれだけ責任を負うかという割合です。相手が重傷で、自分が無傷だったという結果だけで過失割合が逆転するものではありません。
ただし児童や高齢者など、事故類型ごとに被害者保護を目的とした年齢による修正が設定されていることはあります。また損害額については当然けがの程度が大きく影響します。
過失割合40対60なら相手の治療費にも影響する
自転車の修理代を双方とも請求しないとしても、相手がけがをしている場合は過失割合が重要になります。
例えば相手に治療費、休業損害、通院慰謝料など合計100万円の損害が認められ、相手自身にも60%の過失があるとすれば、過失相殺によって請求可能額が調整されることになります。
もっとも健康保険、各種保険、既払金なども関係するため、実際の支払額が単純に100万円×40%になるとは限りません。相手に人身損害が発生しているケースでは、物損がないから過失割合を気にしなくてよいとは言えません。
過失割合は保険会社が最終決定するものではない
保険会社から40対60を「提示」されたとしても、それは保険会社側の見解です。保険会社に一方的に最終決定する権限があるわけではありません。
当事者が合意すればその割合で示談成立となります。一方、双方が合意できなければ交渉を続け、それでも決着しなければ最終的には裁判などで判断されることになります。
したがって、提示された割合について疑問があるなら、理由を確認せずすぐ了承する必要はありません。
まず保険会社に聞くべき4つの質問
40対60という提示を受けた場合には、担当者へ次の点を具体的に確認するとよいでしょう。
| 確認項目 | 質問例 |
|---|---|
| 基本割合の根拠 | 「50対50はどの事故類型を基準にしていますか?」 |
| 信号の認定 | 「双方が停止線を越えた時の信号を何色と認定していますか?」 |
| 修正内容 | 「相手側へ10%入れた修正要素は具体的に何ですか?」 |
| 資料の根拠 | 「その判断は事故状況のどの資料をもとにしていますか?」 |
可能であれば電話だけでなく、メールや書面で説明を求めると後から整理しやすくなります。
黄色から赤・赤から青の事故では数秒のタイミングが非常に重要
信号サイクルの切り替わり付近で発生した事故では、「自分から見た信号」と「相手から見た信号」がそれぞれいつ切り替わったのかを正確に整理する必要があります。
例えば、自分が黄色で停止線を越え、その後赤になった。一方、相手はまだ赤の段階で停止線を越え、衝突時には相手側が青になっていた、という事故も考えられます。
最新基準では、黄信号側と赤信号側の事故について、衝突時に赤信号側の信号が青になっていた場合を修正要素として扱っています。このように「進入時」と「衝突時」の両方の信号状況が問題になるケースがあります。
黄信号対赤信号で衝突時に相手が青なら40対60になる基準もある
2026年の最新基準では、黄信号で進入した自転車と赤信号で進入した自転車の基本割合は黄側20、赤側80です。
ところが、衝突した時点では赤側の信号がすでに青になっていた場合、黄信号側へ20%加算する修正が設けられています。その結果、黄信号側40:相手60になるケースがあります。
これは質問のような「こちらは黄色から赤、相手は赤から青」という事故で特に確認しておきたいポイントです。ただし実際の事故がこの基準へ正確に該当するかどうかは、停止線通過時刻、信号周期、進行方向、衝突地点などを確認しなければ判断できません。
[参照] 別冊判例タイムズ39号に基づく信号交差点の自転車同士事故基準
保険会社の「50対50から修正」という説明と結果が同じでも根拠は確認したほうがよい
興味深いのは、事故状況によっては別の計算過程でも最終的に40対60という同じ数字になる可能性があることです。
例えば「双方赤信号として50対50から相手側へ10%修正」という考え方でも40対60になります。一方、「黄対赤を20対80として、衝突時には赤側が青だったため20%修正」という考え方でも40対60になります。
最終的な数字が同じでも、どちらの事故態様を認定したのかによって、追加証拠が出たときの評価は変わります。そのため割合だけでなく「なぜ40対60なのか」を確認することが重要です。
証拠がなければ双方の証言だけで争いになることもある
「自分は黄色だった」「相手はまだ赤だった」という主張が食い違った場合、証拠が重要になります。
自動車と違って自転車にはドライブレコーダーが付いていないことも多く、客観的な映像がなければ事故当事者の説明だけでは信号状況を確定できない場合があります。
その場合、事故直後の警察への説明、目撃者、周辺店舗や住宅の防犯カメラ、交差点の信号周期などを組み合わせて事故状況を検討します。
防犯カメラ映像は早めに確認する
交差点周辺にコンビニ、マンション、店舗、駐車場などがあれば、防犯カメラに事故が映っている可能性があります。
ただし防犯カメラ映像は一定期間で上書きされることが多いため、事故から時間が経つほど入手が難しくなります。
必要な場合は警察や弁護士を通じた確認も検討できます。自分で店舗へ問い合わせる場合も、映像を直接渡してもらえるとは限らないため、保存だけ依頼できないか相談する方法があります。
信号サイクルを確認する意味
交通信号には一定の表示周期があります。一方が赤から青になった時点を確認できれば、交差する方向がいつ黄色・赤になっていたのかを推測する材料になります。
例えば「相手側が青になった0.5秒後に衝突した」と映像から分かれば、事故直前の双方の信号状態や交差点内にいた時間を分析できます。
ただし信号周期は変更されることもあるため、事故当時の設定を確認する必要があります。専門的な検討が必要になった場合には弁護士への相談も選択肢になります。
黄色信号になった場所も重要
黄信号については、「黄色になった瞬間にどこにいたか」が重要です。
停止線から十分離れていて安全に停止できる位置だったのに、そのまま進んだ場合は黄信号規制への違反が問題になります。一方、停止線直前で黄色へ切り替わり、急停止すると転倒などの危険がある状態なら、道路交通法施行令上の例外に該当する可能性があります。
「黄色だった」という事実だけで必ず20%の過失になると決めつけず、その時の位置や速度についても整理しましょう。
相手のけがの大きさと責任割合を混同しない
事故後、相手だけが救急車で運ばれると心理的に「自分が加害者なのでは」と感じてしまうことがあります。
しかし民事上の過失割合では、双方がどのように交差点へ入ったのかを中心に判断します。転倒の仕方によってたまたま一方だけが重傷になる事故もあるためです。
もちろん救護義務や事故後の対応は別途重要ですが、相手が救急搬送された事実だけを理由として自分の過失割合を増やすものではありません。
自転車同士でも人身事故の賠償額は高額になることがある
自転車には自動車のような自賠責保険制度がありません。そのため、自転車事故では個人賠償責任保険などの加入状況が重要になります。
相手が骨折などの重傷を負った場合には、治療費だけでなく休業損害、慰謝料、後遺障害による損害などが発生する可能性があります。
自転車事故だから数万円で終わるとは限らないため、相手が救急搬送されているケースでは加入している個人賠償責任保険や自転車保険へ速やかに事故報告しておくことが重要です。
個人賠償責任保険は自転車保険以外に付いていることもある
「自転車保険に入っていない」と思っていても、個人賠償責任補償が別の保険へ付帯している場合があります。
例えば火災保険、自動車保険、傷害保険、クレジットカード関係の保険などに特約として付いていることがあります。また家族の契約で補償対象になっている場合もあります。
相手に人身損害が生じているなら、家族が加入している保険も含めて補償の有無を確認しておくと安心です。
40対60に納得できない場合は無料相談も利用できる
保険会社へ根拠を聞いても説明に納得できない場合、交通事故を扱う弁護士へ相談する方法があります。
日弁連交通事故相談センターでは、自動車・二輪車事故等について無料法律相談を実施しています。自転車同士の事故について利用できる範囲は相談内容によって異なるため、事前に問い合わせて確認するとよいでしょう。
また加入している保険に法律相談費用や弁護士費用を補償する特約がないか確認する方法もあります。
保険会社の提示を確認するときのチェックポイント
| ポイント | 確認内容 |
|---|---|
| 自分の進入時信号 | 黄色だったのか赤だったのか |
| 相手の進入時信号 | 赤だったのか青へ変わった後なのか |
| 衝突時の信号 | それぞれ何色だったのか |
| 黄色になった位置 | 安全に停止できる場所だったか |
| 基本過失割合 | 50対50とした事故類型は何か |
| 修正要素 | 相手側の何を理由に10%修正したか |
| 速度 | どちらかに高速度進入がなかったか |
| 年齢 | 児童・高齢者修正の対象か |
| 映像 | 防犯カメラ等の客観証拠があるか |
この項目を一つずつ確認すると、保険会社がなぜ40対60と考えたのかが見えやすくなります。
まとめ:40対60の「相手への修正」は、基本割合から相手の過失を増やす調整をしたという意味
交通事故で保険会社がいう「修正」とは、典型的な事故類型から導かれた基本過失割合に対し、実際の事故固有の事情を考慮して割合を増減することです。
自転車同士が信号のある十字路で双方赤信号の状態で交差点へ進入した事故については、2026年の最新基準では基本50対50です。一方に高速度進入などの修正要素があれば、例えば40対60へ調整されることがあります。
ただし、「こちらは黄色から赤、相手は赤から青」という事故では、そもそも双方赤信号の50対50とは別の基準が該当する可能性があります。最新基準では、黄信号側対赤信号側なら基本20対80とされており、さらに衝突時に赤信号側が青へ変わっていた場合には黄信号側へ20%を加算する修正があり、結果として40対60になるケースも示されています。
したがって、保険会社から40対60を提示されている場合は、数字だけを見るのではなく「50対50はどの類型を使ったのか」「10%の相手への修正とは具体的に何か」を確認することが重要です。
また相手が50代であることだけを理由に通常の高齢者修正が入るとは考えにくく、救急搬送されたことそのものも事故発生についての過失割合を直接増減させる事情ではありません。負傷の程度は損害額には大きく関係しますが、事故原因についての責任割合とは分けて考えます。
今回のような信号切替直前の事故では、停止線を越えた時点の信号表示が最重要です。「黄色だった」「青になった」という衝突時の印象だけではなく、双方がいつ停止線を越えたのか、防犯カメラや目撃者、信号サイクルなどの客観資料を確認できるか検討しましょう。
保険会社の40対60はあくまで提示された見解であり、それだけで最終確定するわけではありません。説明を受けたうえで納得できなければ、示談へ同意する前に交通事故を扱う弁護士などへ相談することもできます。
[参照] e-Gov法令検索「道路交通法施行令・信号の意味」
[参照] グリーンリーフ法律事務所「自転車同士の事故における過失割合と損害賠償・別冊判例タイムズ39号」
[参照] アトム法律事務所「自転車同士の事故状況別の過失割合」
[参照] 日弁連交通事故相談センター「過失割合に納得できない場合」