交通事故を起こしたあと、「車両保険を使わなければ自動車保険の等級は下がらないのか」と疑問に思う人は少なくありません。結論からいうと、車両保険を使ったかどうかだけで等級が決まるわけではなく、契約している自動車保険から事故に対してどの補償の保険金が支払われたかによって翌年度の等級への影響が決まります。
そのため、自分の車を自費で修理して車両保険を使わなかったとしても、対人賠償保険や対物賠償保険などを使えば、一般的には事故として等級が下がる可能性があります。反対に、事故を保険会社へ報告しただけで保険金を一切請求しなければ、通常はその連絡だけを理由に等級が下がるわけではありません。
この記事では、車両保険を使わない場合でも等級が下がるケース、3等級ダウン事故・1等級ダウン事故・ノーカウント事故の違い、事故有係数適用期間、保険を使うか自費で払うかの考え方まで分かりやすく整理します。
自動車保険の等級は「車両保険を使ったか」だけでは決まらない
自動車保険のノンフリート等級制度では、通常1等級から20等級までが設定され、事故がなく保険を使わなければ翌年に1等級上がるのが基本です。
一方、事故によって保険金の支払いを受けた場合には、その事故の種類に応じて翌年度の等級が下がったり、事故有係数が適用されたりします。
重要なのは、「車両保険を使用したか」ではなく、その事故について等級制度上カウントされる補償を使ったかどうかです。
車両保険を使わなくても対人・対物賠償を使えば等級が下がることがある
例えば、自分の車の修理費は10万円なので自費で直し、車両保険を使わなかったとします。
しかし事故で相手の車にも損害を与え、対物賠償保険から相手の修理費50万円が支払われた場合、その事故は一般的に3等級ダウン事故として扱われます。
つまり「自分の車について車両保険を使っていないから等級は下がらない」という理解は正しくありません。
対人賠償保険を使った場合も一般的には3等級ダウン
事故で相手をけがさせ、自分の任意保険の対人賠償保険から保険金が支払われた場合も、一般的には3等級ダウン事故として扱われます。
例えば現在15等級で、3等級ダウン事故を1件起こして対人賠償保険を使用した場合、翌年度は原則12等級になります。
さらに単に等級が3つ下がるだけでなく、一定期間「事故有」の割増引率が適用されるため、保険料への影響は等級数字だけを見るより大きくなることがあります。
3等級ダウン事故とは
自動車同士の衝突、電柱への衝突、物損事故、人身事故など、一般的な交通事故で対人賠償・対物賠償・車両保険などを使用すると、3等級ダウン事故に該当することが多くあります。
3等級ダウン事故が1件あると、翌年度の等級が3つ下がり、事故有係数適用期間が原則3年加算されます。
例えば20等級で3等級ダウン事故を1件起こした場合、翌年度は17等級となり、一定期間は「事故有」の割増引率で保険料が計算されます。
事故有係数適用期間とは
同じ等級でも、「無事故」の契約と「事故有」の契約では割引率が異なります。
例えば同じ15等級でも、無事故係数と事故有係数では、事故有係数のほうが一般的に保険料が高くなります。この仕組みによって、保険金を使った事故の影響が一定期間保険料へ反映されます。
3等級ダウン事故1件の場合、事故有係数適用期間は原則3年です。その後無事故で更新を続ければ、1年経過するごとに事故有係数適用期間が1年ずつ減っていきます。
車両保険でも1等級しか下がらない事故がある
車両保険を使う事故がすべて3等級ダウンになるわけではありません。
例えば盗難、台風、洪水、火災、落書き、飛来物との衝突など、契約条件上の特定事故で車両保険を使用した場合には、1等級ダウン事故として扱われることがあります。
この場合、翌年度の等級は1つ下がり、事故有係数適用期間も原則1年加算されます。具体的な事故分類は保険会社や約款で確認する必要があります。
飛び石でフロントガラスを交換した場合は?
走行中に前方車両から飛んできた石でフロントガラスが割れ、車両保険で修理するケースがあります。
このような飛来物・落下物との衝突による車両損害は、一般的には1等級ダウン事故として扱われます。
例えば10等級から車両保険を使用すれば翌年度は9等級となり、事故有係数適用期間が1年付くという形です。ただし契約商品によって補償条件が異なるため、実際に保険を使う前に保険会社へ確認しましょう。
保険を使っても等級が下がらない「ノーカウント事故」もある
自動車保険には、保険金を受け取っても等級に影響しない「ノーカウント事故」があります。
例えば人身傷害保険、搭乗者傷害保険、弁護士費用特約など、一定の補償だけを利用した事故は、一般的にノーカウント事故として扱われます。
ノーカウント事故だけであれば、ほかに等級ダウン事故がなければ通常どおり翌年度に1等級上がります。
弁護士費用特約だけを使っても等級は通常下がらない
相手がいる事故で過失割合や損害賠償について弁護士へ依頼するため、弁護士費用特約を使用することがあります。
一般的な自動車保険では、弁護士費用特約だけを使用した場合はノーカウント事故となり、等級は下がりません。
そのため「特約を使うと翌年の保険料が上がるのでは」と心配して利用を控える必要がないケースもあります。ただし契約している保険商品の約款を確認してください。
人身傷害保険だけなら等級が下がらないことが多い
事故で自分や同乗者がけがをし、人身傷害保険から治療費や休業損害などを受け取った場合も、一般的にはノーカウント事故として扱われます。
つまり、自分のけがについて人身傷害保険だけを使った場合、それだけで3等級下がるわけではありません。
ただし同じ事故で対物賠償保険や車両保険も使用すれば、その補償の利用によって3等級ダウン事故などになる可能性があります。
ロードサービスだけを利用した場合は?
バッテリー上がり、キー閉じ込み、レッカー移動などのロードサービスだけを利用した場合も、通常はノンフリート等級に影響しません。
例えば自走できなくなってレッカーを呼んだものの、車両保険による修理費の請求はしなかった場合などです。
ただしレッカーサービスの条件や事故後の車両修理費について別途保険金を請求した場合には、その部分について等級への影響を確認する必要があります。
事故を保険会社へ連絡しただけでは通常等級は下がらない
事故が起きたら、保険を使うかどうか決めていなくても保険会社へ事故報告をすることがあります。
事故の連絡や相談をしただけで、保険金の支払いが発生しなければ、通常その事実だけを理由に等級が下がることはありません。
そのため事故直後は「保険を使うか分からないから連絡しない」のではなく、まず保険会社へ事故を報告し、修理費や翌年以降の保険料への影響を確認してから利用の有無を判断する方法があります。
一度事故受付をしても最終的に保険を使わない選択はできる
事故報告をしたあと、保険会社が修理工場から見積書を取り寄せるなど手続きを進めても、保険金支払い前であれば最終的に保険を使わない選択ができるケースがあります。
例えば修理見積りが5万円で、保険を使うと今後数年間の保険料増加が8万円になると分かった場合、自費修理へ変更するという判断が考えられます。
手続きの進行状況によって対応が異なる場合があるため、「保険を使った場合と使わない場合の保険料差を確認してから決めたい」と担当者へ早めに伝えましょう。
自分の車を修理しなくても相手への賠償で等級が下がる
事故後、自分の車にはほとんど傷がなく、修理をしないケースもあります。
しかし相手の車に10万円の損害が発生して対物賠償保険から支払われれば、一般的には3等級ダウン事故になります。
車両保険とは自分の車の損害を補償するものです。一方、対物賠償保険は相手の財物への損害を補償します。それぞれ別の補償なので、「車両保険を使わなかった」という事実だけでは等級への影響を判断できません。
相手への賠償を自費で払えば等級を維持できる場合がある
損害額が少額であれば、保険を使わず自費で相手へ賠償することを検討する場合があります。
例えば相手の修理費が3万円しかなく、対物賠償保険を利用すると今後の保険料増加が10万円程度になるのであれば、自費負担のほうが経済的な場合があります。
ただし人身事故では、後から治療費や慰謝料が増えることがあります。事故直後の時点で損害額が確定していないのに安易に自費示談するとトラブルになる可能性があるため、まず保険会社へ相談するのが安全です。
保険を使うかは「今回もらえる金額」と「今後増える保険料」を比較する
保険を使うか迷った場合は、単純に修理費だけを見るのではなく、翌年以降の保険料増額まで含めて比較します。
例えば修理費が15万円で車両保険を使えるとしても、免責金額が5万円あり、保険から受け取れる金額が10万円、さらに3年間の保険料増加が合計12万円なら、自費修理のほうが有利になる可能性があります。
逆に修理費が100万円以上になるような事故なら、保険料が上がっても車両保険を利用するメリットが大きくなることが一般的です。
具体例:修理費10万円なら保険を使わないほうが得なことも
現在20等級で年間保険料5万円の契約をしている人が、単独事故で10万円の修理費を負担するとします。
車両保険を使用すると3等級ダウンし、事故有係数も適用されるため、数年間の追加保険料が10万円前後になるケースも考えられます。
さらに免責5万円が設定されていれば実際に受け取れる保険金は5万円程度です。このような場合には自費修理が合理的になる可能性があります。実際の増額は年齢、車種、保険会社、補償内容などで大きく異なります。
具体例:修理費80万円なら車両保険を使うメリットが大きくなる
一方、自損事故で車両修理費が80万円かかり、免責金額が5万円だった場合、車両保険から75万円程度支払われる可能性があります。
仮に翌年以降の保険料負担が15万円増えるとしても、75万円の補償を受けられるのであれば、保険を利用する経済的メリットは大きくなります。
このように、「保険を使ったら等級が下がるから絶対使わない」という考え方ではなく、支払われる保険金と将来の保険料差を比較することが大切です。
保険会社に「使った場合の次年度保険料」を試算してもらえる
事故後に保険を使うか迷った場合、保険会社や代理店へ相談すると、保険を使った場合と使わなかった場合の次年度保険料を試算してもらえることがあります。
さらに3年間程度の保険料差を確認すると、保険利用の損得を判断しやすくなります。
「修理代が○万円ですが、今回車両保険を使った場合に3年間で保険料がどれくらい増えるか教えてください」と問い合わせるとよいでしょう。
等級が下がると保険会社を変更しても原則引き継がれる
事故で等級が下がったあと、「別の保険会社へ乗り換えれば事故前の等級に戻せるのでは」と考える人もいます。
しかしノンフリート等級や事故有係数適用期間は、原則として保険会社を変更しても引き継がれます。
そのため事故後に他社へ変更しただけで、3等級ダウンや事故有期間をリセットすることは通常できません。
事故を隠して新規契約するのは避ける
他社へ乗り換える際に、事故歴や前契約の等級について事実と異なる申告をすることは避けなければなりません。
保険会社間ではノンフリート等級情報などを確認する仕組みがあり、申告内容が事実と異なることが後から分かる可能性があります。
事故歴を理由に保険料が上がることを避けるため虚偽申告をすると、契約上の問題につながる可能性があります。
保険期間中に事故があっても直ちに今月の保険料が上がるわけではない
事故で保険を使った場合、一般的には事故の翌日から突然保険料が上がるわけではありません。
現在契約している保険期間中の保険料は基本的にそのままで、次回更新時に事故後の等級と事故有係数を反映した保険料になります。
例えば契約期間が2026年1月から12月までで、8月に3等級ダウン事故を起こした場合、通常は2027年1月の更新契約から新しい等級が適用されます。
事故件数が複数あるとさらに等級が下がることがある
同じ保険期間内に複数の3等級ダウン事故を起こして、それぞれ保険を使用した場合、事故件数に応じて翌年度の等級への影響も大きくなります。
例えば3等級ダウン事故を2件起こせば、原則として合計6等級下がることになります。
事故有係数適用期間にもそれぞれの事故が反映されます。ただし上限などのルールがあるため、複数事故がある場合は保険会社へ具体的な次年度等級を確認しましょう。
保険を使った後に保険金を返せば等級を戻せる場合もある?
事故後に一度保険金が支払われたものの、「保険料が想像以上に上がるので保険を使わないことにしたい」と考える場合があります。
保険会社や事故処理の状況によっては、支払われた保険金を返還することで事故件数として扱わない対応が可能なケースもあります。
ただし必ずできるわけではなく、すでに相手への賠償が完了している場合など事情によって異なります。検討したい場合は早めに契約している保険会社へ確認しましょう。
車両保険を使わない場合でも事故連絡はしておくほうが安全
「等級を下げたくないから保険会社には事故を報告しない」と考えるのはおすすめできません。
事故直後には相手が「けがはない」と言っていても、翌日から痛みが出て人身損害を請求されるケースがあります。また車の傷についても後から高額な修理見積りが出る場合があります。
保険会社へ連絡しただけでは通常等級は下がらないため、まず事故報告を行い、保険利用の必要性を判断するほうが安全です。
事故で等級が下がるかを整理するとこうなる
| 事故後の対応 | 一般的な等級への影響 |
|---|---|
| 事故を保険会社へ連絡しただけ | 通常は影響なし |
| 車両保険を使わず、すべて自費 | 通常は影響なし |
| 車両保険は使わず対物賠償を使用 | 一般的に3等級ダウン |
| 車両保険は使わず対人賠償を使用 | 一般的に3等級ダウン |
| 衝突事故で車両保険を使用 | 一般的に3等級ダウン |
| 飛び石・盗難等で車両保険を使用 | 一般的に1等級ダウン |
| 人身傷害保険だけを使用 | 一般的にノーカウント |
| 弁護士費用特約だけを使用 | 一般的にノーカウント |
| ロードサービスだけを利用 | 通常は等級への影響なし |
実際の事故分類は契約内容や約款によって異なる可能性があるため、最終的には加入している保険会社へ確認してください。
まとめ:車両保険を使わなくても、対人・対物保険を使えば等級は下がる可能性がある
事故後の自動車保険の等級は、「車両保険を使ったかどうか」だけで決まるものではありません。
自分の車について車両保険を使わなくても、相手への対人賠償保険や対物賠償保険から保険金が支払われれば、一般的には3等級ダウン事故として翌年度の等級が下がります。
一方、自分の車も相手への賠償もすべて自費で負担し、自動車保険から等級ダウン事故に該当する保険金が支払われなければ、通常は事故を起こしたという事実だけで等級が下がることはありません。
また、事故を保険会社へ報告・相談しただけで保険金を使わなければ、通常その連絡だけでは等級へ影響しません。そのため事故が起きたら、まず保険会社へ連絡したうえで、保険を使う場合と使わない場合の保険料を比較する方法がおすすめです。
衝突事故などでは一般的に3等級ダウンとなりますが、飛び石、盗難、台風など一定の車両事故では1等級ダウン、人身傷害保険や弁護士費用特約など一部の補償だけを使った場合はノーカウントとなることがあります。
少額事故では、保険から受け取れる金額より翌年以降に増える保険料のほうが大きくなり、自費負担のほうが得になることもあります。反対に数十万円から100万円単位の損害なら、等級が下がっても保険を使うメリットが大きい場合があります。
判断するときは、「今回いくら保険金が出るのか」「免責金額はいくらか」「事故後の等級はいくつになるか」「今後3年程度で保険料がいくら増えるか」を保険会社に試算してもらい、総額で比較すると分かりやすくなります。