自動車を長年運転していると、「自分は何万kmに1回くらい事故に遭っているのだろう」「一般的なドライバーと比べて事故が多いのか」と気になることがあります。走行距離を分母にした事故率は、年間の事故件数だけを見るより合理的に思えますが、実際には単純比較が難しい指標です。
日本では警察庁が交通事故統計を、国土交通省が自動車の走行キロに関する統計を公表しています。ただし、警察の交通事故統計には対象範囲があり、駐車場での接触や物損だけで終わった事故などを含め、ドライバーが日常的に「事故」と呼ぶすべての出来事が同じ条件で集計されているわけではありません。そのため、「全国では○km走ると1回事故」という数字だけで個人の事故歴を評価するのは適切ではありません。
走行距離あたりの交通事故率という統計はある?
走行距離を使って交通事故のリスクを表す考え方自体はあります。交通安全の分析では、単純な事故件数のほか、人口、自動車保有台数、走行距離などを分母として事故の発生状況を比較する方法があります。
日本で基礎資料になるのが、警察庁の交通事故統計と国土交通省の走行キロに関する統計です。警察庁は交通事故の発生状況を継続的に公表しており、国土交通省の「自動車燃料消費量調査」では自動車の走行キロも調査されています。
国土交通省によると、自動車燃料消費量調査では、自動車が走った距離を「走行キロ」として集計しています。したがって理論上は、一定期間の事故件数を同期間の総走行距離で割ることで「走行距離あたりの事故発生頻度」を計算することができます。ただし、後述するように、この数字を個人の物損事故歴とそのまま比較することはできません。
公的統計を確認したい場合は、警察庁「交通事故発生状況」[参照]、国土交通省「自動車燃料消費量調査」[参照]が基礎資料になります。
なぜ「全国の事故件数÷全国の走行距離」だけでは判断できないのか
最も重要なのは、警察庁が公表する交通事故統計の「交通事故」と、一般のドライバーが考える「事故」が必ずしも同じではないことです。警察庁の交通事故統計は、道路交通法上の道路において車両などの交通によって発生した、人の死亡または負傷を伴う事故を対象とする公的統計です。
つまり、車同士が接触してバンパーの修理に50万円かかったとしても、誰も死傷していない物損事故なら、この交通事故統計の発生件数と単純には比較できません。修理費が30万円だったか100万円だったかという金額も、人身事故統計に入るかどうかを決める基準ではありません。
さらに、一つの事故には複数の車両が関係する場合があります。「事故1件」と「事故に遭った車1台」を同じものとして扱うこともできません。このため、全国の事故件数を全国の総走行距離で単純に割った値は、社会全体の交通安全を分析する指標にはなっても、個人が何kmに1回事故に遭うのが平均なのかを直接示す数字ではないと考える必要があります。
「20万kmに1回事故」は多い?少ない?
例えば120万kmを運転して6回事故に遭っていれば、単純計算では20万kmにつき1回です。しかし、この数字だけから「平均より多い」「少ない」と断定することは困難です。
理由は、6件の中身によって意味が大きく変わるためです。自分の過失による追突事故を6回起こしたケースと、信号待ち中に後方から追突された事故が6回あったケースでは、同じ「20万kmに1回」でも運転者自身の事故リスクという意味はまったく異なります。
また、過失割合が10対0の事故でも、どちら側が10なのかによって意味が逆になります。事故率を評価するときは、事故件数だけでなく、自分側の過失、事故形態、走行環境まで分けて考えることが重要です。
事故率を比較するなら「過失あり」と「もらい事故」を分ける
個人の運転を振り返る目的なら、すべての事故を一括して「○kmに1回」と数えるより、自分に主な過失があった事故と、相手側に主な過失があった事故を分けたほうが実態を把握しやすくなります。
例えば100万km走行して事故が5回あったとしても、そのうち4回が停止中の追突被害で、自分側の過失事故が1回なら、「20万kmごとに危険な運転をして事故を起こしている」という意味にはなりません。自分側の過失事故についてだけ見れば100万kmに1回という別の評価になります。
反対に、同じ100万kmで5回すべてが前方不注意による追突だった場合は、事故の共通原因を分析する意味が大きくなります。単なる事故回数よりも、自分の行動によって防げた可能性のある事故が何件あったかを見るほうが、安全運転の改善には役立ちます。
走行距離だけでなく「どこを走ったか」でも事故リスクは変わる
走行距離が同じでも、事故に遭う確率が同じとは限りません。高速道路を中心に年間3万km走る人と、交通量の多い市街地を年間3万km走る人では、交差点を通過する回数、右左折する回数、歩行者や自転車と接触する機会などが大きく異なります。
例えば高速道路を100km走れば、信号交差点を一度も通過しないことがあります。一方、市街地を100km走れば、何十もの交差点や信号を通過する可能性があります。同じ100kmでも事故リスクへの「曝露」の内容が違うわけです。
職業による違いもあります。長距離輸送、高速道路中心の営業、都市部での配送、自家用車での買い物などでは、走行距離だけでは表現できないリスク差があります。そのため、走行距離は有用な指標ではあるものの万能ではありません。
事故歴を客観的に振り返る方法
自分の事故頻度が気になる場合は、走行距離だけで判断するのではなく、事故を一覧化すると傾向が見えやすくなります。記録する項目としては「事故時までの累計走行距離」「事故の種類」「自分側の過失割合」「相手の種類」「道路環境」「時間帯」「天候」「事故原因」などが考えられます。
例えば6件中4件が「自分が停止中または通常走行中に相手から衝突された事故」であれば、自分の運転操作だけで事故回数をゼロにすることは難しかった可能性があります。一方、複数回が「右折時」「車線変更時」「駐車時」など同じ場面で起きているなら、その場面を重点的に改善する価値があります。
また、保険を使用した回数と事故件数も別物です。修理費を自己負担した、相手側の保険で修理したなどの理由で自分の保険を使わない事故もあるため、「保険を1回しか使っていない=事故が1回」という評価にはなりません。
物損事故と人身事故は分けて考える
「30万~80万円の修理になった」「廃車になった」という情報は事故の大きさを知るうえでは重要ですが、統計上の人身事故かどうかとは別の話です。高額な車では比較的軽い接触でも修理費が高額になることがありますし、古い車では修理可能でも車両価値との関係から全損扱いになることがあります。
したがって事故歴を全国統計と比較するときには、まず人身事故と物損事故を分ける必要があります。警察庁が公表する交通事故統計については、その統計が何を対象としているのかを確認してから数字を利用することが重要です。
また、国土交通省の走行キロ統計も調査対象や集計方法があります。単純に異なる統計の数字を組み合わせる場合には、年度や対象車種、対象範囲が一致しているか確認する必要があります。
まとめ:事故率は「何kmに1回」だけでは評価できない
走行距離あたりの事故率という考え方は存在し、警察庁の交通事故統計と国土交通省の走行キロ統計などを利用すれば、社会全体について一定の分析をすることはできます。ただし、公的な交通事故統計はすべての物損事故を網羅した「ドライバーが事故に遭う頻度」の統計ではありません。
そのため「20万kmに1回事故に遭った」という数字だけを全国平均と比較して、多い・少ないと断定するのは難しいでしょう。特に、相手側に主な過失がある事故と自分側に主な過失がある事故を同じ1件として数えると、運転者本人の安全性を正しく評価できなくなります。
自分の運転を評価する目的なら、総事故件数ではなく、自分に過失のある事故が何kmあたり何回発生しているか、さらに同じ種類の事故を繰り返していないかを見るのが実用的です。全国平均との単純な勝ち負けよりも、事故の原因と再発可能性を分けて分析するほうが、今後の事故防止につながる指標になります。